資格取得(読み)しかくしゅとく

大学事典 「資格取得」の解説

資格取得
しかくしゅとく

資格」の定義については,専門家によってニュアンスの違いはあるものの,一般的には「特定職業や社会的地位立場などを得ることを目的とした,個人の専門的能力を証明するもの」と理解されている。ここでいう「専門的能力」とは職業上要求される知識やスキルにとどまらず,資格によっては学術的な知見,さらには芸術や宗教に関わる知識やスキルなども含まれることがある。

 OECDは,資格について「評価・認定プロセスの公式結果であり,ある個人が所定の基準に沿った学習成果を達成,あるいは特定の業務分野において働くために必要なコンピテンスを持ち,適格性のある機関が判断した場合に得られるもの。労働市場や教育・訓練における学習成果の価値について公式の承認を与えるものであり,ある業務を行う上での法的な資格となる場合もある」と就業焦点を当てた定義をしている。なお英語では,qualificationあるいはcertificateが日本語の「資格」に当たるとされている。このうち,qualificationは学位や能力評価検定,ジョブカードも含めて使われており,日本でいう「資格」より広い概念になっている。

[資格の特徴

一般に「資格」は,次のような特徴をもっている。

(1)授与の前提として,当事者のパフォーマンスに対する第三者による評価が行われ,その結果が資格の要件を満たすか否かの検討が行われる

(2)当事者が身に付けた能力(全部または一部)と企業や社会が必要とする能力(全部または一部)を結びつける機能を有する

(3)特定の資格を得ようとする場合,多くの場合,教育活動や学習活動が行われる

(4)資格取得の効果・機能は次のとおり

・当事者:特定の職業あるいは職業上の地位・身分に就くことができる(適切なキャリア形成)

・企業:必要とする能力を有する人材を確保することができる(適切な人材確保)

・社会:自由で公正な競争の実現につながり,合理的な労働市場や競争ルールの形成を促す

(5)資格・認証が有効に機能するための条件として考えられるものは,次のとおり

・当事者の有する能力がその評価結果に適切に反映されていること

・能力の評価結果と企業・社会のニーズ・必要性とが合致していること

・能力の評価結果を多くの企業・社会の側が評価すること(評価結果が社会的に通用力をもつこと)

[資格をめぐる今後の動向]

近年,資格枠組み(特定の内容・レベルを有する学習成果に適用される資格を分類・開発するためにつくられた仕組み,いわば「資格のものさし(指標)」)についての検討がヨーロッパやアジアで盛んに行われている。

 EUについては,2002年のコペンハーゲン宣言以降,ヨーロッパではボローニャ・プロセスの進展と並行して,職業教育分野における能力評価のあり方,いうなればヨーロッパ域内で通用する共通の資格・認証の仕組みを研究・策定しようとする取組み(コペンハーゲン・プロセス)が開始され,2008年には欧州資格枠組み(European Qualifications Framework: EQF)として制度化された。以降ヨーロッパ各国では,自国の技術者・労働者の職業上の能力をヨーロッパ共通の枠組みで評価し就業に活用してもらおうという方向性のもとで,それぞれの国で開発している国家資格枠組み(National Qualifications Framework: NQF)をEQFとリンクさせようとする取組みが進められている。

 また,アジア・太平洋地域では,ASEAN等の活動に見られるように,グローバル化の進展に伴い,主として域内の経済発展に向けた自由な労働市場の形成という観点から,技術者・労働者の職業上の能力を適切に評価し,労働力の国境を越えた流動化と技術者・労働者の望ましい就業につなげようという政策志向が強まっている。こうした中で,マレーシア,インドネシア,韓国,オーストラリアといった国々がそれぞれNQFを策定し,それらを標準化して,域内共通の資格枠組み(ASEAN Regional Qualifications Framework: ARQF)を策定しようという動きを始めている。

 これらの背景には,主として経済活動のグローバル化に伴う人材の流動化があると考えられる。人材の流動化が円滑かつ適切に行われるためには,企業や社会から必要とされる能力の「見える化(能力)」が進み,それらが社会的に共有される必要があるが,その前提として,社会的な場面で個人が自由に職業等を選択したり地域を移動したりできるように,インフラや制度等が整備されることも必要である。

[資格取得とキャリア形成]

資格取得の意義を「人材の流動化」の観点でとらえることは重要であるが,それ以上に,資格取得を社会人のキャリア形成の手段としてとらえることも重要である。それは,終身雇用制が変容しつつある現在,資格取得を自らのキャリアアップにつなげていくことは,学習の成果が適切に評価・流通することを意味するのみならず,合理的で透明性の高い就業システムをつくることにつながると考えられる。
著者: 笹井宏益

参考文献: 国立教育政策研究所『知識基盤社会を生きる力「キー・コンピテンシー」をめぐる国際的動向』,2009.

参考文献: 辻功『日本の公的職業資格制度の研究』日本図書センター,2000.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報