原価主義会計のもとにおいて,貨幣価値の変動期とくに激しいインフレーション期に,企業資産の評価額を貨幣購買力を表す指数によりまたは時価により再評価することをいう。現行の原価主義会計は,貨幣価値が一定であることを前提としてその変動はいっさい無視する基礎の上に成立している。このため,インフレ期においては貨幣価値下落または物価上昇に伴ういわゆる架空利益が計上されたり,貸借対照表に表示される資産評価額は現実の資産価値と大きくかけ離れた評価額で表示され,正しい財政状態を示さないことになる。とくに,長期間企業にとどまる固定資産については,その簿価が古い取得原価のままで維持されるので,古い取得原価を基礎として行われる減価償却では実質的な減価償却費に満たない費用計上にとどまり,利益の中にインフレによる架空利益が含まれ,かかる利益を基準として行われる利益処分や課税により資本の食いつぶしがおこる。このようなインフレによる架空利益を排除して正しい企業利益を測定・表示し,資本の食いつぶしを防ぐために,企業資産の評価替えを行うことを資産再評価という。再評価を行う場合,資産の取得原価を貨幣の一般購買力を示す指数を用いて修正する立場と,当該資産の時価を基準として修正する立場とがありうるが,現実には貨幣の一般購買力の変動と個別資産の時価の変動とを切り離して計算することは困難であるから,両者を加味して再評価限度額を決定する。再評価の対象となる資産は主として固定資産であるが,国によっては保有有価証券,外貨表示の債権・債務が再評価の対象とされたこともある。
日本では,第2次大戦後の激しいインフレのもとにおいて,適正な減価償却を可能にし,企業経営の合理化を図るとともに,資産譲渡等の場合における課税上の特例を設けてその負担を適正にし,もって経済の正常な運営に寄与することを目的として1950年に公布された〈資産再評価法〉により,償却の対象となる有形固定資産について資産再評価が実施された。この資産再評価法の施行により,企業は同年中に1回限り任意に再評価を行うことができることになったが,当時,収益力の乏しい企業は十分な再評価を行うことができなかったので,翌年に資産再評価法を改正してその不足分を第2次再評価として行うことができることとした。その後,朝鮮戦争の影響などによってさらに物価上昇が続いたので,53年に資産再評価法を再度改正し,引き続き再評価を行いうる措置を講じた。さらに54年には,企業の経営の安定と経理の健全化を図るとともに,日本の経済基盤の充実と発展のために,〈資本充実法〉(正称は〈企業資本充実のための資産再評価等の特別措置法〉)を制定して資本金5000万円以上の法人などについては,資産の再評価が強制された。資産再評価によって生じた評価差額は再評価積立金として積み立てることが要求された。この評価差額たる再評価積立金は,会計理論上,貨幣価値の変動にもとづく資本の価値修正から生ずる資本剰余金とされる。また,積み立てられた再評価積立金は,再評価税を納付した場合,資本に組み入れる場合,その他限定された場合に限って取り崩すことが認められる。
→インフレーション会計
執筆者:嶋 和重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
資産の取得原価を会計期末において時価などに評価し直すこと。資産の取得時には取得時の時価、すなわち取得原価で記録が行われるが、その後は評価替えをせず基本的にその取得原価をもとにして財務諸表を作成するのが取得原価主義会計の考え方である。しかしながら、インフレーションなどに伴い現状と過去の価格である取得原価との乖離(かいり)が相当起きた場合には、それを修正するために資産の再評価を行うことがある。
日本では、第二次世界大戦直後のインフレーションを背景として、資産再評価法(昭和25年法律第110号)を施行して、1950年(昭和25)、1951年、1953年の三度にわたる資産再評価が実施された。
その後も、1954年に「企業資本充実のための資産再評価等の特別措置法」(昭和29年法律第142号)が施行され、特定規模を有する企業に対して日本銀行の卸売物価指数等により再評価が強制され、再評価差額は、再評価積立金として資本準備金に計上された。
近年では、銀行などの金融機関や一定の要件を満たす上場会社について、事業用の土地を再評価し、その土地評価損益を貸借対照表に計上することを可能にした土地再評価法(正式名称は「土地の再評価に関する法律」。平成10年法律第34号)が、1998年(平成10)3月に、議員立法で成立した(3年間の時限立法)。
また、国際会計基準(IAS)16号「有形固定資産」には、資産の帳簿価額が公正価値から大幅に乖離しないように定期的に有形固定資産の再評価を行う処理が認められている。当該規定の適用により生じる差額(評価益)は、再評価剰余金として計上される。
[近田典行]
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