再評価税は特殊な収得税の一種で,日本では第2次大戦後のインフレーションに伴う税制上のひずみを是正するために1950年度に導入され,個人にかかわるものは61年12月限りで,法人にかかわるものは原則として67年7月限りで廃止された。いずれの場合でも課税所得の算出においては,営業用固定資産では減価償却を,譲渡所得の算定では取得価格を控除することが認められているが,これらの帳簿上の価格はインフレーション期には実体価格に比較して不当に低いことになり,そのような帳簿価格に基づいた控除をするならば架空の利益が生じ,実体価値の計算をすれば利益のない場合でも所得課税をされることになり,資本元本に対する課税と同じことになる。そこで,法人および個人を通じて適正な減価償却を可能にして企業経理の合理化を図り,資産譲渡等の場合における課税上の特例を設けてその負担を適正化することにより,経済の正常な運営に寄与することを目的にして資産再評価が容認された。
再評価の対象となる資産は現金,預金・貯蓄,有価証券,棚卸資産等を除く資産一般であり,1950年1月1日とか,53年1月1日とかの指定された日を基準日として再評価がなされる。そして,再評価差額と呼ばれる再評価額とその資産の再評価直前における帳簿価額との差額を再評価税の課税標準として,100分の6の税率が適用された。一方では資産の再評価を行い租税の過酷な負担を緩和するための措置がとられたのに,他方では再評価税を課することにより租税負担を増加させたのは矛盾しているように思われるが,インフレーションに苦しむ他の人々との公平を図ることがその目的であった。
執筆者:林 正寿
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資産再評価法(昭和25年法律110号)などによって資産再評価を行った場合に課された国税の一種。第二次世界大戦後、日本は激しいインフレーションにみまわれ、固定資産の帳簿価額は実体価額からかけ離れた低いものになってしまった。しかし、事業所得の計算における営業用固定資産の減価償却分の控除や、譲渡所得の計算の際の取得価額の控除には、この帳簿価額に基づくものしか認められないため、インフレーションによる名目的所得が生じ、これに高い税率で課税されるという状態になり、企業の資本そのものが食いつぶされることとなった。
1949年(昭和24)に来日したシャウプ使節団は、このような弊害を緩和するために、法人、個人を通じて固定資産の再評価を行い、企業の適正な減価償却を可能にし、実質的資本の維持を図るとともに、税制の合理化を推進することを勧告した。これに基づいて50年に資産再評価法が制定され、営業用固定資産については同年に第一次、翌51年に第二次、53年に第三次の任意再評価が行われ、再評価差額に6%の再評価税が課された。さらに54年には「企業資本充実のための資産再評価等の特別措置法」が制定され、一定規模以上の企業に対する強制的再評価が実施された。個人の土地、家屋などの固定資産については、譲渡があったときに再評価があったものとみなされ(法定再評価)、再評価差額に対して再評価税が課されるとともに、再評価額を取得価額に置き換えて譲渡所得を計算し、これに所得税が課される仕組みがとられた。
インフレーションの弊害を是正し、適正な課税を図るために資産の再評価を実施しながら、それに課税するのは一見矛盾しているようにみえるが、インフレーションに苦しみながらまったく救済されないその他の人々との公平を図るためにとられた措置であった。この再評価税の制度は、個人については1961年12月で打ち切られ、法人にかかわるものも原則として67年7月限りで廃止された。
[林 正寿]
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