改訂新版 世界大百科事典 「軽市」の意味・わかりやすい解説
軽市 (かるのいち)
日本古代の市の一つ。下ッ道と上ッ道の延長の安倍-山田-雷-丈六を連ねる道との交点(現,橿原市石川町丈六)は,軽街(かるのちまた)(《日本書紀》推古20年2月条)または軽諸越之衢(かるのもろこしのちまた)(《日本霊異記》上巻1)と呼ばれる交通の要地であったが,軽市はこの軽衢に発達した市であったと思われる。そして同時に駅家(うまや)的機能をも果たしたらしいことが指摘されている。このような立地から,軽市へ行く人々はかなり多かったらしく,《万葉集》巻二-207番の柿本人麻呂の長歌によれば,彼の亡き妻は頻繁に軽市へ行ったらしく,人麻呂自身も軽市の雑踏の中に亡き妻の面影を求めている。《日本書紀》天武10年10月是月条によると,軽市には何かの木が植えられていたことがわかるが,海柘榴市(つばいち)の椿,阿斗桑市(あとのくわのいち)の桑,餌香市(えがのいち)の橘とともに,市には植樹の風があったことを示す一例である。
→上ッ道・中ッ道・下ッ道
執筆者:栄原 永遠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報