政府が農業保険法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業経営の安定と農業生産力の発展に資することを目的に制度化している政策保険(政府が政策を遂行する手段として実施する公的な保険・共済)。
農業保険には、農業共済と農業経営収入保険の二つの事業があり、農業共済事業は地震を含む自然災害や火災などの不慮の事故、病虫害および鳥獣害によって農業者が損失を被った場合に補償し、農業経営収入保険事業は自然災害や不慮の事故に加えて農産物の需給の変動等による収入減少を補償する。農業者は農業共済と農業経営収入保険のいずれかを選択して加入することができる(いずれも任意加入)。
農業共済は1947年(昭和22)12月15日に制定された農業災害補償法(農業保険法の旧称)から実施されている事業であり、農業経営収入保険は2017年(平成29)6月16日に成立した「農業災害補償法の一部を改正する法律」(平成29年法律第74号)により新たに導入された事業である(この改正で法律名が「農業保険法」に改題。施行は2018年4月1日)。農業保険は農業共済と新設された農業経営収入保険の総称であるが、ここでは農業経営収入保険について概説する(農業共済については「農業共済制度」の項を参照)。
農業経営収入保険は、原則としてすべての農作物を対象に農業者の経営努力では避けられない価格低下や病気・けがなどによって農作物を収穫できず収量が減少した場合の損失について、農業者が自ら生産・加工した農作物であれば一定の範囲で補償する保険である。ただし、農業経営収入保険は農業者ごとの収入の減少を補償する仕組みなので、加入に際して個々の農業者の収入を正確に把握する必要があるため、青色申告を行っている農業者(個人・法人。2015年農林業センサスによれば販売農家133万戸の3分の1)のみを対象とし、過去5年間の平均的な収入をもとに(営農計画も考慮し)基準収入額を決定する。農業経営収入保険には「掛捨ての保険方式」と「掛捨てとならない積立方式(基準収入額の10%を限度)」があり、「積立方式」を組み合わせるか否かは農業者が自由に選択できる。補償内容は、「保険方式」のみの場合は加入した年の収入が基準収入額の80%、「積立方式」を組み合わせた場合は90%を下回った額の90%を上限として補填(ほてん)する仕組みである(10%は自己負担)。農業者の支払う保険料は補償の対価分、積立金(積立方式に加入した場合)および事務費の合計額となるが、保険料の50%、積立金の75%は政府(農業再保険勘定)から補助される。
農業経営収入保険の開始にあたり、事業の運営主体として全国農業共済組合連合会が設置された。農業経営収入保険に加入する場合、農業者は同連合会と保険契約を結び保険料を支払い、保険事故が発生した場合に同連合会から保険金が支払われる仕組みである。農業経営収入保険は政府の農業政策目的で実施される保険制度であるため、農業共済と同様、農業者への保険金の支払いに支障が生じないように、不測の事態に備えて政府による再保険制度が措置されている。全国農業共済組合連合会は政府に再保険料を支払い、万一被災した農業者への支払いに支障が生じた場合、政府(農業再保険勘定)から支払われる再保険金を含めて農業者への保険金支払いに万全を期している。
[押尾直志 2020年6月23日]
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