日本大百科全書(ニッポニカ) 「近体詩」の意味・わかりやすい解説
近体詩
きんたいし
中国古典詩の形式。今体詩とも書く。韻律の面で比較的自由な古体詩(古詩)に対し、厳格な韻律をもつ。唐代で確立し一般的となった絶句(ぜっく)、律詩(りっし)、排律(はいりつ)の詩体の総称であり、それぞれ一句の字数により、五言(ごごん)、七言(しちごん)、まれに六言の形式がある。ただし排律はほぼ五言に限られる。
中国古典詩の韻律は、古くは同じ母韻の文字(ことば)を用いる脚韻がもっぱら重視されていたが、六朝(りくちょう)期に仏典の翻訳を通じて梵語(ぼんご)(サンスクリット)との比較対照から、中国語に4種の音調があるのを発見し、それを韻律的趣向として詩の句づくりに応用し始めた。南朝斉(せい)の永明(えいめい)年間(483~493)に流行した詩にこの趣向が顕著に認められる。4種の音調は「四声(しせい)」とよばれ、平声(ひょうせい)、上声(じょうせい)、去声(きょせい)、入声(にゅうせい)に分類されるが、沈約(しんやく)(441―513)の『四声譜』が四声説の最初といわれている。それ以後、くふうが積み重ねられて、唐代に入ると初唐から盛唐にかけて一定の韻律形式が完成し、流行した。したがって、唐代以降は近体詩と古体詩が併存することになった。
近体詩の中心は、韻律的規定の厳しい8句からなる律詩であり、絶句はその半分の4句、排律は律詩の対句(ついく)の聯(れん)を増してゆく10句以上で構成される。それらを通じてもっとも単純でしかも基本的な原則は、毎句の「二四不同(にしふどう)」「二六対(にろくつい)」の原則である。すなわち、四声をさらに平声とそれ以外の三声を一括する仄声(そくせい)とに大別して、句中の2字目と4字目の平仄をかえ、2字目と6字目は平仄の同じ文字を用いる(ただし六言詩・七言詩のみ)というものである。ほかにも、句と句の間の対照・呼応関係、対句、脚韻などに細かな規則があるが、これらの韻律に合致するのを「入律(にゅうりつ)」といい、近体詩全体を「律詩」という場合がある。近体詩のなかで五言排律は科挙の試験に用いられた形式であり、唐の詩人たちは近体詩の制作に苦心を重ねた。
[佐藤 保]