中国語の各語の音節に伴っている高低抑揚(声調)のこと。とくに、隋(ずい)・唐代を中心とする中古漢語の平声(ひょうしょう)、上声(じょうしょう)、去声(きょしょう)、入声(にっしょう)の4種の声調をいう。中国南北朝期の仏典漢訳の盛行に伴い、梵語(ぼんご)との比較から声調が認識され、梁(りょう)の沈約(しんやく)によって四声の説がおこったといわれている。日本にも、漢字音の伝来とともに四声説が将来されたと思われるが、伝来の古い呉音においては、四声の認識はあいまいであったらしい。日本字音の四声は、とくに漢音において詳しい議論が展開されてきた。入唐僧安然(あんねん)(841―915ころ)の著『悉曇(しったん)蔵』には、平安初期の漢音の四声体系に、旧来のもの2種、新来のもの2種があったとする。そのおのおのがどのようなものであったかは不明の点もあるが、新来の2種は、平上去入の各声がさらに軽(けい)と重(ちょう)に下位区分され、合計8種の型に分かれた八声体系であったと解釈されている。現在伝えられている天台宗の漢音読声明(しょうみょう)や各種の古文献によれば、平声=低平調、上声=高平調、去声=上昇調、入声=もと-p・-t・-kで終わる入破音字であり、軽は各声のなかでやや高く始まるもの、重はやや低く始まるものであったと考えられる。なお、平安時代以後残っている具体的な声調史料によれば、漢音は平声と入声のみに軽・重を区別する六声体系を主流とし、八声体系は多分に理論的なものであったと考えられる。日本字音の四声において、とくに注目すべきは、呉音と漢音との関係であって、両者を比較すると、漢音の平声字は、呉音では上声か去声になり、漢音の上声字・去声字は、呉音では平声になる傾向が著しい。これは、両者の基盤となった中国語の差を反映するためで、おそらく方言的な相違に対応するものであろう。また、最近の研究によれば、古い時代の呉音史料では上声字がなく、呉音本来の声調体系は、平去入の三声のみから成り立つ三声体系であったことが指摘されている。
[沼本克明]
『有坂秀世著「悉曇蔵所伝の四声について」(『国語音韻史の研究』所収・1957・三省堂)』▽『金田一春彦著「日本四声古義」(『国語アクセント論叢』所収・1951・法政大学出版局)』▽『頼惟勤「漢音の声明とその声調」(『言語研究』17・18号所収・1950・日本言語学会)』▽『沼本克明著『平安鎌倉時代に於る日本漢字音に就ての研究』(1982・武蔵野書院)』
中国語において,平声,上声,去声,入声の四つの声調をいう。声調toneは,本来,音節全体にかかる高低の対立であるが,常に高低の問題として考察されたわけではない。ときには長短として把握されることもあったし,何よりも-p,-t,-kのような内破音に終わる音節構成を〈入声〉として,声調の一つと考えた伝統をもっている。四声という名称は,六朝より前にはみられない。斉・梁の間(480-557),沈約(しんやく),周顒(しゆうぎよう)らが四声を発見し,これを平上去入と名づけたといわれる。〈四声とは何であるか〉という問いに,周捨が〈天(平声)子(上声)聖(去声)哲(入声)がそうであります〉と答えたように,平上去入はそれぞれの調類の代表字であって,内実を示す名称ではない。四声の調値は,時・所の別によって異なるはずのものである。もっとも基本的な中古音の四声の調値については,後代の印象的な説明があるだけで,今日もはや知ることができない。ただ,声明(しようみよう)からこれを帰納した研究があって,参考になる。
執筆者:慶谷 寿信
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…前の三つの例のようにある一定の高さをもつものを音位声調,後の二つの例のように高さが上下の方向に移動するものを変位声調という。中国語は上[ma]〈媽〉と共に上昇[ma]〈麻〉と下降[ma]〈〉それに下降上昇[ma]〈馬〉の四声をもつ。(3)音の長さは,長を[ː],半長を[ˑ]の記号で表す。…
…声調とは,本来,音節全体にかかる高低の対立,すなわち音節音調であるが,中国では伝統的に‐p,‐t,‐kなどのような内破音に終わる音節構成をも〈入声(につしよう)〉として,声調の一タイプと考える。このさい高低の対立は相対的なものであって,低い方より順に1,2,3,4,5で示せば,〈普通話〉(現代中国共通語で,北京語の音韻体系にもとづく)の四声は,第1声(陰平声)が55(5の高さにはじまり,5の高さに終わる)の高平調,第2声(陽平声)が35(3の高さにはじまり,5の高さに終わる)の高昇調,第3声(上声)が214(2の高さから1の高さに下降してから,4の高さに上昇する)の降昇調,第4声(去声)が51(5の高さから1の高さに急降下する)の高降調である(図1)。〈普通話〉のローマ字つづり,すなわち〈音pīn yīn〉では,これらを記号化して順に,,,であらわし,主母音の上に記す。…
…いわゆる〈漢詩〉などを通してわれわれにも親しい中国詩の〈押韻(おういん)〉とは,このうち韻母すなわち(M)V(C/V)もしくはV(C/V)の部分を等しくするもの同士を,定められた詩句の末に置き,相似音が一定間隔をおいて繰り返し現れることを楽しむ技法である。 声調のカーブを追加説明すれば1は55,2は35であって,共通語ではこの1,2,3,4の四つが〈四声〉とも呼ばれて声調の基本部分を形づくる。さきに声調について〈原則として〉といったのは,共通語などではそのほか〈軽声(けいせい)〉と呼ばれて,複音節の熟語などでアクセントの置かれない音節の場合,もしくはそれが〈完了〉〈継続〉等助動詞的な,また〈所属〉等助詞的な機能を示す文法成分,その他いわゆる伝統文法学にいう〈虚詞〉あるいは〈助字〉であるような場合,その直前の声調形に影響された高低の別こそあるものの,本来の1,2,3,4の四声のカーブを描くことなく,ただ軽く前の音節に添えられるという感じのものとなるにすぎない場合がある。…
…2書とも6世紀の初めの著作であった。それらに先だつ5世紀末に沈約(しんやく)が中国の音調を研究して四声(しせい)(平(ひよう)・上・去・入)の名称を定め,その違いが詩文の韻律に及ぼす効果を論じた。彼の四声と八病(はつぺい)の説は大きな反響をよび,中国の作詩法の基礎は,ここに定まった。…
※「四声」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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