這子(読み)ほうこ

精選版 日本国語大辞典 「這子」の意味・読み・例文・類語

ほう‐こ はふ‥【這子】

〘名〙
① 這うことのできる乳児。這うほどになった赤子
万葉(8C後)一六・三七九一「(ひむつき)平生(はふこ)が身には 木綿肩衣(ゆふかたぎぬ) 純裏(ひつら)に縫ひ着」
② (「おとぎはこ御伽母子)」の「ははこ」の変化した語か) 子どものお守りの一つ。布を縫い合わせ、中に綿を入れて、幼児の這う姿に作った人形もろもろの凶事をこれに負わして厄除けにする。天児(あまがつ)御伽這子(おとぎぼうこ)。はいはい人形。這子人形。
※産所之記(1521頃)「あまがつ一つ、ほうこの事なり」
植物いぬよもぎ(犬蓬)」の異名。〔易林本節用集(1597)〕
[補注]①の「万葉‐三七九一」の「平生(はふこ)」は「みずこ」とする説がある。

はう‐こ はふ‥【這子】

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「這子」の意味・読み・例文・類語

ほう‐こ〔はふ‐〕【×這子】

はうことができるようになった乳児。
はっている赤ん坊の姿に作った縫いぐるみの人形。幼児の魔よけとして用いられた。あまがつ。はいはい人形。

はう‐こ〔はふ‐〕【×這子】

ほうこ(這子)

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「這子」の意味・わかりやすい解説

這子
ほうこ

這(は)う子にかたどった布製の信仰的人形。婢子とも書く。白絹の縫いぐるみで絹糸の黒髪をつけ、金紙で束ねてあり、平安朝時代の官女に似た顔だちをしている。当時貴族階級の間で、幼児の守りとして天児(あまがつ)という人形を枕頭(ちんとう)に置き、幼児にふりかかる災厄を、それに身代りさせることが行われたが、この天児と同じ意味で使用された。伽(とぎ)這子、御伽ともいった。室町時代には這子のことも天児とよんだ。これがしだいに変化して、天児と這子を男女一対の人形とする立ち雛(びな)形式が生まれ、雛人形根元となった。江戸時代に入ると貴族階級の天児に対して、庶民の間では同じく這子を幼児の祓(はらい)の具として用いるようになり、犬張り子なども添えて置き、雛祭には雛段に飾った。幼児の髪置(3歳)の宮参りにこれを持って行くこともあったが、江戸中期には天児(男)と這子(女)とを対(つい)の物として扱い、嫁入りにも持参した。家庭で婦人の手細工としてつくられた。また頭だけ人形屋で求めてきて、衣装は裁縫の初歩用に嫁たちがつくったりした。

 これがさらに玩具(がんぐ)化されたものに猿子(さるこ)がある。桃色の木綿布でつくった人形で、中に綿を詰めて仕上げたもの。負い猿、お猿さんなどともよばれ、幼女の遊び相手にされた。現在岐阜県高山市産の郷土玩具「猿ぼぼ」などに名残(なごり)をとどめている。また這子から転化した郷土玩具には、香川県高松市産の「ほうこさん」、鳥取県倉吉(くらよし)市産の「はこた人形」などがある。

[斎藤良輔]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

動植物名よみかた辞典 普及版 「這子」の解説

這子 (ホウコ)

植物。キク科の多年草。キクバヤマボクチの別称

這子 (ホウコ)

植物。キク科の多年草。イヌヨモギの別称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の這子の言及

【人形】より

…穢が強くあらわれる出産や葬送儀礼にも,人形が用いられる。たとえば,天児(あまがつ),這子(ほうこ)(はいはい人形),産屋道具の犬箱などは,穢を吸収して浄化させる呪物として魔よけともされるし,また1年に2度葬式を出した家では棺の中に人形を入れて,これ以上葬式がでないようにというまじないにする。さらに建築儀礼の際などに人形を納める風習もあり,やはりこれもスケープゴートとして宇宙のはじまりをもたらす呪物といえよう。…

※「這子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android