這子(読み)ハウコ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

這子
ほうこ

(は)う子にかたどった布製の信仰的人形。婢子とも書く。白絹の縫いぐるみで絹糸の黒髪をつけ、金紙で束ねてあり、平安朝時代の官女に似た顔だちをしている。当時貴族階級の間で、幼児の守りとして天児(あまがつ)という人形を枕頭(ちんとう)に置き、幼児にふりかかる災厄を、それに身代りさせることが行われたが、この天児と同じ意味で使用された。伽(とぎ)這子、御伽ともいった。室町時代には這子のことも天児とよんだ。これがしだいに変化して、天児と這子を男女一対の人形とする立ち雛(びな)形式が生まれ、雛人形の根元となった。江戸時代に入ると貴族階級の天児に対して、庶民の間では同じく這子を幼児の祓(はらい)の具として用いるようになり、犬張り子なども添えて置き、雛祭には雛段に飾った。幼児の髪置(3歳)の宮参りにこれを持って行くこともあったが、江戸中期には天児(男)と這子(女)とを対(つい)の物として扱い、嫁入りにも持参した。家庭で婦人の手細工としてつくられた。また頭だけ人形屋で求めてきて、衣装は裁縫の初歩用に嫁たちがつくったりした。
 これがさらに玩具(がんぐ)化されたものに猿子(さるこ)がある。桃色の木綿布でつくった人形で、中に綿を詰めて仕上げたもの。負い猿、お猿さんなどともよばれ、幼女の遊び相手にされた。現在岐阜県高山市産の郷土玩具「猿ぼぼ」などに名残(なごり)をとどめている。また這子から転化した郷土玩具には、香川県高松市産の「ほうこさん」、鳥取県倉吉(くらよし)市産の「はこた人形」などがある。[斎藤良輔]

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精選版 日本国語大辞典の解説

はう‐こ はふ‥【這子】

ほう‐こ はふ‥【這子】

〘名〙
うことのできる乳児。這うほどになった赤子。
※万葉(8C後)一六・三七九一「(ひむつき)の 平生(はふこ)が身には 木綿肩衣(ゆふかたぎぬ) 純裏(ひつら)に縫ひ着」
② (「おとぎははこ(御伽母子)」の「ははこ」の変化した語か) 子どものお守りの一つ。布を縫い合わせ、中に綿を入れて、幼児の這う姿に作った人形。もろもろの凶事をこれに負わして厄除けにする。天児(あまがつ)。御伽這子(おとぎぼうこ)。はいはい人形。這子人形。
※産所之記(1521頃)「あまがつ一つ、ほうこの事なり」
③ 植物「いぬよもぎ(犬蓬)」の異名。〔易林本節用集(1597)〕
[補注]①の「万葉‐三七九一」の「平生(はふこ)」は「みずこ」とする説がある。

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世界大百科事典内の這子の言及

【人形】より

…穢が強くあらわれる出産や葬送儀礼にも,人形が用いられる。たとえば,天児(あまがつ),這子(ほうこ)(はいはい人形),産屋道具の犬箱などは,穢を吸収して浄化させる呪物として魔よけともされるし,また1年に2度葬式を出した家では棺の中に人形を入れて,これ以上葬式がでないようにというまじないにする。さらに建築儀礼の際などに人形を納める風習もあり,やはりこれもスケープゴートとして宇宙のはじまりをもたらす呪物といえよう。…

※「這子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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