通信制と通学制の融合(読み)つうしんせいとつうがくせいのゆうごう

大学事典 「通信制と通学制の融合」の解説

通信制と通学制の融合
つうしんせいとつうがくせいのゆうごう

第2次世界大戦後の日本の大学制度の中で,通信教育は一つの教育方法である以前に,いわゆる「通信制」の大学という,当時としては日本独自の教育制度であった。それは一方では,通信教育なのにスクーリング(面接授業)が義務づけられるという矛盾,もう一方では,自学自習にもっぱら依存する通信教育の弱点をスクーリングによってカバーしているという現実を抱えながら,通信教育にスクーリングをプラスすることによって大学卒業資格が得られる正規の課程として位置づけられてきた。

 言い換えると,大学が通信教育という教育方法を使って教育を行おうとすれば,通信制の大学(正確には大学通信教育あるいは通信教育課程)としての設置認可を受けなければならない。通学制の大学が,授業科目の一部を通信教育という教育方法で実施することは認められなかった。その意味では,教育方法としての「通信教育」と教育制度としての「通信制」という二つの概念一体化していたのである。そのため,通信制と通学制の区分のあり方が問題になることはほとんどなかった。

 ところが近年,こうした関係に変化が生じている。1998年の大学設置基準等の改正によって,大学における正規の授業方法としてメディア授業(正確には「メディアを利用して行う授業」)が位置づけられた(この時点では同期・集合型の「テレビ会議式の遠隔授業」のみ)。このメディア授業は,教える者と学ぶ者とが空間的に隔てられているという意味では通信教育と同じ教育方法のはずだが,通信制の大学だけでなく,通学制の大学でも実施できるようにした。さらに2001年に非同期・分散型の「インターネット等活用授業」がメディア授業に追加されたことで,これまで対極に位置していた通信制と通学制の区分がより連続的なものとなった。大学院においては,通学制であっても,メディア授業によって修得することのできる単位数に上限が設けられていないため,いったいどちらが通信制なのか判断に迷う事態も生じている。

 通信制と通学制の区分のあり方が問題になっているのは,メディア授業の制度化だけがその原因ではない。通信教育を実施する大学の増加,専攻分野の多様化,大学院への拡大,株式会社立などの新興大学の参入,学生の高学歴化など,通信制の大学は量的にも拡大し,制度的な整備も進み,かつ質的な変貌を遂げてきている。高等教育の将来像を考える場合,もはや通信制の大学の存在は無視できなくなっていることがその背景にあると考えられる。以後,この問題は,中央教育審議会大学分科会における検討課題の一つとして繰り返し掲げられているが,その論点は情報通信技術の活用にとどまらず,社会人の大学就学にかかる負担の軽減,日本の大学の国際展開など多方面に及んでいる。

 しかし,通信制と通学制の区分を見直すといっても容易なことではない。現在,通信制の大学に認められている授業の方法は印刷教材等による授業,放送授業,メディア授業,面接授業の四つであり,通学制ではメディア授業と面接授業の二つである。区分を撤廃する場合,通信制にのみ認められている印刷教材等による授業と放送授業を通学制にも開放するのか,それとも通信制においてもこれらの方法を実施できないようにするのかは難題である。また通信制の大学は入学定員が通学制に比べて大きいため,一般に学力試験による選抜がなく,入学資格さえあれば誰でも入学できる。しかも,通学制に比べて学費が安い。通信制と通学制の区分の融合がこうしたメリットを失わせることになれば,「大学の開放」という社会的使命を大学が果たす道を閉ざすことにもなりかねない。通信制と通学制の区分があることのメリットをできるだけ継承する形で,その区分のあり方を考えていく必要がある。
著者: 鈴木克夫

参考文献: 鈴木克夫「遠隔高等教育の日本的構造―通信制通学制の区分の在り方を中心に」『大学教育研究 2007年度』桜美林大学大学教育研究所,2008.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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