小説家。名古屋市生まれ。本名加藤甚吾。早稲田大学政治経済学部卒業。学生時代から映画、演劇に興味をもち、在学中にシナリオ研究のためパリに留学。1978年(昭和53)ミステリー専門誌『幻影城』新人賞にトリッキーなプロットで構成された「変調二人羽織」が入選し、作家デビューする。81年、架空の天才歌人の情念と創作にまつわる秘密を描いた「戻り川心中」で日本推理作家協会賞を受賞。83年、5人の女たちの愛と憎しみの謎に迫る、抒情に満ちた短編集『宵待草夜情(よいまちぐさよじょう)』で吉川英治文学新人賞を受賞する。これらの作品は、大正末期から昭和初期にかけての、まだ日本的情緒が色濃く残っていた時代を舞台に、ときには血なまぐさい殺人劇を通して、線香花火のようにはかなく燃えて散った孤独な男女の悲劇的肖像をロマン豊かに描いている。
84年、ミステリー色を一掃した恋愛小説『恋文』で第91回直木賞を受賞。五度目の候補作での栄冠だった。このときの選評で、山口瞳は「以前、ミステリーを離れる時期が来ているのではないかと申しあげたことがある。こんどの短篇集には殺人がなく、格段に良くなったことを喜びたい」とし、水上勉は「推理をはなれて、人間を描くところにこの人の世界はもっともっとひらけるだろう。受賞を心から祝福する。私はこの人の妖しい感性に関心をもっているのだ」と書いた。
たしかに初期の作品は純粋なミステリーが多く、短編だけではなく長編でも錯綜したプロットの処女長編小説『暗色コメディ』(1979)を筆頭に、7人の人間が同じ女性を殺す『私という名の変奏曲』(1984)など、解決不能と思われる謎に挑む超絶技巧的な作品が目立っていた。それがこの直木賞受賞後から、ミステリーの趣向や意匠から外れた恋愛小説的な作品を発表するようになる。『花堕ちる』(1987)、『飾り火』(1989)、『褐色の祭り』(1990)、『牡牛の柔らかな肉』(1993)、『花塵』(1994)など、危うい男女の関係を卓抜な心理描写と耽美的な文体を駆使して描いた作品がそれだ。この延長上にある『隠れ菊』(1996)で柴田錬三郎賞受賞。
しかし、連城はミステリーと恋愛小説をはっきりと区別して書いているわけではなく、描いているのは、つねに「人間の心」の謎、不可思議さなのであるとしている。人の心には誰しも裏表があるように、隠しておきたい部分を必ず持っている。またそういった部分があることを他人に知られたくないために、幾重にも化粧をほどこして防護しようとする。連城の小説では、そんないくつもの面を持った人の心の化粧のベールを1枚また1枚と剥いでいき、素顔が明らかになるまでが克明に描かれる。それはミステリーにおいても同様で、事件の真相が暴かれるまでの過程こそが連城の興味であった。
[関口苑生]
『『戻り川心中』『宵待草夜情』『私という名の変奏曲』(ハルキ文庫)』▽『『恋文』『暗色コメデイ』『飾り火』『隠れ菊』(新潮文庫)』▽『『花堕ちる』(角川文庫)』▽『『褐色の祭り』『牡牛の柔らかな肉』(文春文庫)』▽『『花塵』(講談社文庫)』
(2013-10-23)
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