運搬機械(読み)うんぱんきかい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「運搬機械」の意味・わかりやすい解説

運搬機械
うんぱんきかい

物をつかんだり放したり、持ち上げたり下ろしたり、あるいは2地点間を運んだりするのに用いられる機械荷役機械ともいう。

[中山秀太郎]

歴史

人間が今日の文明社会をつくりあげるのに運搬機械の果たした役割はきわめて大きい。人間は生活が始まると同時に物を運搬することを始めた。最初は肩や背に物を担いでいたが、やがて橇(そり)を使い、重い物も運べるようにした。紀元前3世紀ごろアッシリアなどで巨石の運搬にてこやころが利用された。ころはやがて車軸へと発達し、牛車や馬車が物資や人間の運搬に使われるようになった。車輪は運搬用機械として重要な役割を果たし、今日の機関車、電車、自動車へと発展した。

 古代ギリシアのアルキメデスはねじを利用して水をくみ揚げる機械を考案し、アレクサンドリアのヘロンHerōnやウィトルウィウスVitruviusは前1世紀ごろ、2本あるいは3本の柱を三角形状に組み、上部に滑車を取り付けて重い物を持ち上げる起重機について記述している。16世紀になると、運河工事や築城などに起重機が盛んに用いられるようになった。レオナルド・ダ・ビンチは、高さ24メートル、幅20メートルもある大きな起重機をつくり土木工事に使った。同じころエルベ川に面した古都リューネブルク(ドイツ)に、塩や魚などの貿易品を船積みしたり陸揚げしたりするために木製の大きなクレーンがつくられた。中央にある大きな車輪の中に人間が入り、足で踏み板を踏んで回し、ブームの先端にかかっているチェーンをドラムに巻き取り、荷物を持ち上げるようになっていた。これは世界最古の埠頭(ふとう)クレーンといわれている。

[中山秀太郎]

種類

自動車、電車、船舶、さらに起重機など運搬機械の種類は多いが、クレーン、ホイストジャッキウィンチエレベーターなどの物上げ用機械、コンベヤー、トラックなどを狭義の運搬機械として取り扱う場合もある。

(1)物上げ用機械 鎖と鎖車を使用して重い物を巻き上げるチェーンブロックは土木工事などで材料の持ち上げ、組み立てに使用される。おもに手動であるが電動式もある。上下に移動させるものが多いが、横にも移動できるトロリーブロックというものもある。支点から斜めあるいは水平に突き出た棒のことをジブというが、これに巻き上げ用のチェーンなどを取り付けたものをジブクレーンという。3~5トン程度までのものを持ち上げる小型のものが多い。ジブは旋回できるのが特徴である。小型電動機で回転する巻き胴でチェーンを巻き上げるホイストは電磁ブレーキを備え、引き綱で制御器を動かすもので、工場内で材料、製品の持ち上げ移動に使われている。工場、倉庫など建物の中で材料の運搬に使われている天井クレーンは、建物の両側の壁に取り付けたレールの上にのせられた桁(けた)上に巻き上げ、横行装置が置かれ、工場内を走行する。

(2)コンベヤー もっとも多く用いられているのはベルトコンベヤーで、ベルト車にエンドレスのゴムベルトを張り、その上に石炭、鉱石、砂利などをのせ、ベルトの移動とともに大量に連続して運搬するのに使われている。工事現場、ダム建設などに使用されている。ローラーを並べ、その上に箱詰めされた材料などを置き、重力を利用して運搬するローラーコンベヤー、パイプ内を流れる流体とともに粒状のものを運搬する流体コンベヤーなどもある。

(3)車両 1914年イギリスで発明され、第二次世界大戦後、日本でも生産が始まったフォークリフト・トラックは産業用として広く使用されている。トラックの前方に荷物をのせる2本のフォークがあり、これが上下するようになっている。2~3トン、大型のものでは20トン以上もの荷物をのせて運搬できる。融通性、機動性に優れているので、工場、埠頭、倉庫、駅などであらゆる種類の品物の運搬、牽引(けんいん)などに使用されている。このほか石炭、鉱石、砂利、土などをすくい上げて運搬するショベルローダー、車体の腹の中に荷物を抱え込んで運搬するストラドル・キャリアーなどがある。

 重量物を上げ下げするジャッキには、ねじを利用したもの、油圧によるものなどがある。また荷物をゆっくり移動させるのにウィンチが使われる。ウィンチには、ロープを巻いて荷物を引き寄せたり、吊(つ)り上げたりする手巻きウィンチ、工事現場などで使用する電動式あるいは小型エンジン式のウィンチもある。高層建築物などで人員や荷物を垂直に上下方向に運ぶエレベーター、駅やデパートなどで各階ごとに人員を運ぶエスカレーター、駅や空港などで人員を速く移動させるための動く歩道なども運搬機械の一種である。

[中山秀太郎]

『真島卯太郎著『コンベヤ計算法』(1970・工学図書)』『坂本種芳・長谷川政弘著『天井クレーンの計画と設計』(1982・理工図書)』『石川七男著『機械設計シリーズ1 ウィンチの設計製図』(1983・パワー社)』『仲嶋正之著『初学者のための自動車工学』(1984・理工学社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「運搬機械」の意味・わかりやすい解説

運搬機械
うんぱんきかい
conveying machinery

物を運ぶ機械のうち鉄道車両,自動車など輸送機関関係のものを除いた分野の機械をさす。一般に荷役機械と合わせて荷役・運搬機械と総称される。大きく分けて巻き上げ機と運搬機がある。巻き上げ機は品物を鉛直に吊り上げるのがおもな機能であり,ウインチホイストがある。吊り上げと運搬の両方の機能をもつものがクレーンである。狭義の運搬機はあらゆる角度のものがあるが,水平方向のコンベヤと垂直方向のエレベータが代表的なものである。また近年では積卸しなどの苦渋労働を緩和するとともに,人手不足などに対応するためフォークリフト無人搬送車などが幅広く導入されている。また自動仕訳機や自動倉庫などの導入も進みつつあり,工場や物流センター内などの荷役作業は大きく変わり始めている。

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百科事典マイペディア 「運搬機械」の意味・わかりやすい解説

運搬機械【うんぱんきかい】

狭義には物を比較的短距離間移動させる機械。コンベヤ,フォークリフト,架空索道など地上を離れて運搬するものが含まれる。しかし荷役機械との間に判然と区別できない場合もあり,荷役運搬機械と総称されることが多い。広義には地上を走行するトラック・トレーラー・特装車のほか,軌道上を走行して運搬する列車,水上を運搬する曳船・自航船までを含む。

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世界大百科事典(旧版)内の運搬機械の言及

【建設機械】より

…バケット容量1.0~1.5m3のものが多い。
【運搬機械】
ブルドーザーbulldozerトラクターに排土装置(ブレード)を取り付けた機械で,土の運搬だけでなく掘削,敷きならしなどにも使用され,建設機械の中でも汎用性の高い代表的機械である。重量3t程度の小型のものから50tを超す大型のものまで各種製作されており,また岩盤掘削のためのリッパー作業にも用いられる。…

※「運搬機械」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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