違法漁業をなくし、漁業秩序の維持、海洋生物資源の持続可能な利用の確保を目ざす協定。正式名称は「違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業を防止し、抑止し、及び排除するための寄港国の措置に関する協定(Agreement on Port State Measures to Prevent, Deter and Eliminate Illegal, Unreported and Unregulated Fishing)」であり、国連食糧農業機関(FAO(ファオ))の枠組みの下で2009年11月22日に採択され、2016年6月5日に発効した。寄港国措置の英文略称からPSM協定、または、「違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業」は「IUU漁業」と略称されるため、IUU漁業防止協定ともよばれる。2017年2月時点で、締約国はアメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、オーストラリア、ニュージーランド、韓国など41か国・1機関である。
漁業資源や海洋生態系の保全との関係で、IUU漁業の取締りが緊急の国際課題とされている。その背景には、各漁船を管理する権利と責任を有する旗国(船籍国)が、適切な措置をとっていないことがある。そのため、IUU漁業については、公海漁船遵守協定(フラッギング協定。1993年)、公海漁業協定(1995年)、責任ある漁業FAO行動規範(1995年)などが策定された。しかし、改善がみられなかったため、2001年には、IUU漁業の防止・抑止・排除のためのFAO国際行動計画が、2005年には、IUU漁業に対処するための寄港国措置に関するFAO模範計画が採択された。さらに、国連総会およびFAO漁業委員会が寄港国措置に関する法的拘束力のある国際文書の検討を要請したことが、この協定につながった。
この協定は、旗国の責任を前提にしながら、できる限り、寄港国措置、沿岸国措置および市場措置を組み合わせている。その一環として、規制対象行為を、IUU漁業そのものに加えて、漁業の支援または準備のためのすべての操業(魚の最初の陸揚げ、梱包(こんぽう)、加工、転送または移送を含む)、および人員・燃料・網・その他の物資の海上提供のような「漁業関連活動」にも拡大している。実は、南太平洋地域流し網漁業禁止条約(1989年)も漁業関連活動を規制している。寄港国によるこれらの措置の具体的な内容は、寄港前提供情報、寄港国査察手続、査察結果報告、寄港国措置情報システム、および査察員訓練指針のそれぞれに関する附属書に定められている。日本国内では、2017年(平成29)5月19日の加入書寄託、5月24日の公布を経て、6月18日に発効した。
このようなIUU漁業は国内においても問題を生じさせている。アワビなどの組織的な密漁やその他の水産物の違法な乱獲が、適正に操業している漁業者に対して、また、水産業における持続可能性の確保に対して悪影響を及ぼしていることが指摘されている。他方で、国際的観点からは、IUU漁業由来の漁獲物の流入防止のための国内法措置をすでに欧米諸国はとっていたため、水産物輸入量の多い日本にも同様の措置をとることが求められていた。
それにこたえて、「水産流通適正化法」(正式名称「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」)が2020年(令和2)12月11日に公布された。その内容は、第一に、国内で違法に採捕された水産物の流通を防止するために、違法・過剰な採捕のおそれの大きい水産動植物(特定第1種)については、その取扱事業者(採捕・譲渡事業者、一次買受業者、流通業者、加工業者)に対して、届出義務とともに、当該漁獲物の名称および漁獲番号などの情報を事業者間で伝達する義務を定めている。また、当該漁獲物の譲受・譲渡の際は、その名称、重量または数量、年月日、相手方の氏名、漁獲番号などの事項に関する取引記録を作成し保存することも義務づけている。そのほか、当該漁獲物の輸出にあたっては、農林水産大臣による適法漁獲証明書が添付されていなければならないとされている。
第二に、IUU漁業に由来する漁獲物が国内に流入することを防止するために、外国において違法採捕のおそれの大きい水産動植物(特定第2種)の輸入には、外国政府機関による適法漁獲証明書の添付を義務づけており、事実上関係国に対してIUU漁業の防止のための漁業規制、流通規制および輸出入規制をとることを求めている。
[磯崎博司 2021年10月20日]
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