改訂新版 世界大百科事典 「都市行政」の意味・わかりやすい解説
都市行政 (としぎょうせい)
都市自治体の行政機能は,いずれの国でも今世紀の社会経済発展にともなって重要性を増した。アメリカでは19世紀末から20世紀の10年代にかけて市政改革運動が起きた。これは,都市化とともに中央政党によって支配され腐敗していた市政の浄化を求める都市中間層の運動であったが,近代的な都市行政制度と自治権の確立に多大な貢献を果たした。市政府職員の情実任用と汚職を排するために,近代的な公務員制度や財務会計制度の形成を促したばかりか,市政府形態として新たに市支配人制や委員会制の導入に結びついた。また能率的な都市行政のための調査機関として〈市政調査会〉を各都市に誕生させた。これらは現代アメリカ行政学の基礎ともなっている。日本でも都市行政機能の重要性が1920年代に入って論じられるようになる。第1次大戦後の工業化と都市化は,東京,大阪,名古屋等の大都市に住宅,衛生,交通問題を深刻化させた。1919年,政府は都市計画法と市街地建築物法を制定し,無秩序な都市形成の規制を図るが,都市自治体には計画権限は付与されなかった。22年,当時東京市長であった後藤新平は東京市政調査会を設立,アメリカからビアードCharles Austin Beardを招聘し東京市政の調査をゆだねた。彼の《東京市政論The Administration and Politics of Tokyo》(1923)は,都市行政論の名著とされる。日本でも池田宏《都市経営論》(1922),岡実《都市経営革新の急務》(1923)が著された。両者はともに東京市官僚だが,都市行財権の確立や行政運営の効率化を求めた。その論述には現代でも妥当するところが少なくない。しかし,官治的かつ集権的地方制度の下で都市行政の自律性は,せいぜいのところ各種の公営事業にあったにすぎない。都市行政は社会経済問題への対応能力を欠いていた。地方自治制度のドラスティックな改革を経た第2次大戦後も,およそ60年代後半まで,都市行政機能の自律性が,自治体関係者から自覚的に追求されたとはいえない。戦後経済発展とともに都市自治体の,企業誘致による地域開発政策への追随は,都市経済と財政を富裕化するどころか,社会的共通資本の未整備と相まって外部不経済を拡大した。生活環境の悪化は,公権力である都市自治体の重要性を高め,かつ作動条件を生みだした。今日,都市行政は,個人や民間からは十分な供給が期待できない上下水道,道路,住宅,福祉施設等の公共財ないし準公共財の供給,社会福祉施策等の所得再分配,宅地開発,公害等の規制と誘導をおもな機能とするに至っている。しかも,こうした機能遂行は,自治体計画やシビル・ミニマム策定への市民参加をもとに進められる傾向にある。だが,他面,都市行政機能の自律性が,自治体行財政への中央統制の存続により制約を受けていることは否めない。また,自治体財政の逼迫とともに,行政機能の民間委託が多くの都市で進められており,行政の責任領域をめぐる議論を生んでいる。
執筆者:新藤 宗幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報