公営事業(読み)こうえいじぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「公営事業」の意味・わかりやすい解説

公営事業
こうえいじぎょう

国ないし地方公共団体という公的主体によって経営される経済的効用の生産活動をいう。これらが直接経営するものを純行政経営、現業官業などという。公営事業のうち、地方公共団体の経営するものを地方公営事業という。

 国の純行政経営には、以前は農林水産省の外局である林野庁による国有林野事業、総務省郵政事業庁による郵政事業、財務省の造幣局と印刷局による造幣事業と印刷事業があり、四現業と総称されていた。さらにそれ以前には旧通商産業省による(工業用)アルコール専売事業があり、五現業と称されていた。しかしアルコール専売事業は1982年(昭和57)新エネルギー総合開発機構に移管(1988年新エネルギー・産業技術総合開発機構と改称)、2003年(平成15)4月には郵政事業が日本郵政公社(2007年10月の郵政民営化以降は日本郵政グループ)に、造幣事業と印刷事業は、それぞれ独立行政法人造幣局、独立行政法人国立印刷局に移され、2013年には国有林野事業が特別会計から一般会計に移管され、国の直営事業でなくなったことにより、国の現業は廃止された。

 これらの基本的存在理由は公共性に帰着するが、特定的存在理由は、国民生活にとって必需性が高い(郵便、木材生産兼治山治水)、行政上重要性が高い(通貨の印刷と鋳造)などにより、国が直接経営にあたる必要があるとされたものである。このような特性のため、現在、公務員型の独立行政法人(行政執行法人)として事業を行っている造幣局と国立印刷局の職員には団結権と団体交渉権はあるが争議権は認められず、行政執行法人の労働関係に関する法律(昭和23年法律第257号)が適用される。しかし、本来生産活動になじまない行政組織を用いるところに基本的問題点がある。日本では、急速な産業化を推進するため、明治以後、多くの事業が現業として経営されたが、前記の問題もあって、逐次民間企業へ払い下げられ、あるいは独立公企業へ改組されたり、民営化されたりした。製糸造船造兵などは前者の、鉄道、電気通信などは後者の例である。

 地方公営事業の主要内容は、地方公営企業法(昭和27年法律第292号)によって、水道事業(簡易水道事業を除く)、工業用水道事業、軌道事業、自動車運送事業、鉄道事業、電気事業、ガス事業の7種とされている。地方公共団体がこれらの事業を経営しようとするときは、同法により地方公営企業を設置しなければならない。地方公営企業は、組織面では行政組織(例、○○市交通局)を用いるが、経営に関し識見を有する特別の管理者を任命しなければならない。その職員の労働関係については、地方公営企業労働関係法(昭和27年法律第289号)が適用される。またその財務面については、事業ごとに特別会計を設けて企業会計方式によって処理する、企業債を発行して資金調達をすることができるなど、独立採算制の原則が適用される。このように、組織面はともかく財務面について自主性を与えられた状態を、非従属的公企業とよぶ。それは現業と独立公企業の中間形態とみなされる。

[森本三男]

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