日本大百科全書(ニッポニカ) 「金融商品会計」の意味・わかりやすい解説
金融商品会計
きんゆうしょうひんかいけい
有価証券やデリバティブ(金融派生商品)の測定と開示を扱う会計のこと。企業会計で金融商品というのは、金融資産と金融負債を総称したものである。
金融資産には、現金預金はもちろん、受取手形・売掛金・貸付金などの金銭債権や、株式・公社債などの有価証券のほかに、デリバティブ取引によって生じる正味の債権が含まれる。金融負債には、支払手形・買掛金・借入金・社債などの金銭債務のほか、デリバティブ取引によって生じる正味の債務が含まれる。デリバティブとは金融派生商品ともよばれるように、債権・債務や有価証券の現物取引ではなく、それらに関連する指標(たとえば日経平均などの株価指数)を基礎として行う取引のことである。代表的なものに、先物取引、オプション取引、スワップ取引などがある。
金融資本市場のグローバル化や金融取引の高度化、複雑化に対応して、日本では1999年(平成11)に「金融商品に係る会計基準」が設定された。金融商品取引の透明性を促進するとともに国際的な会計基準との調和化を図ることを目的とした、日本で初めての包括的な会計ルールである。
この会計基準では、まず金融商品がどのようにして発生し、どのようにして消滅するのかを認識する指針を、次のように示している。金融資産・金融負債は、取引の契約時から価格変動リスクや信用リスクが契約当事者に生じるため、契約締結時に資産・負債として会計帳簿に記録する。また、契約上の権利を行使したり、義務を履行したりしたときに、それぞれ金融資産・金融負債が消滅したものとして処理する。
さらに、金融商品のうち、デリバティブと所定の有価証券について時価評価が導入された。そのうち有価証券は、保有目的に応じて次の四つに分類され、異なる会計処理が行われる。
(1)売買目的有価証券 時価の変動時に売買することによって利益(キャピタル・ゲイン)を得ることを目的として保有する有価証券であり、頻繁に売買できる市場が存在することが前提となる。毎期末に時価評価され、評価差額はその期の損益計算書に計上される。
(2)満期保有目的の債券 満期まで保有することによって利益(インカム・ゲイン)を得ることを目的としている債券(公社債など)のことであり、株式のように満期がない有価証券はこれにあたらない。売買を目的とするものではなく、時価の変動が投資の成果とはいえないため、時価ではなく原価で評価される。
(3)子会社株式および関連会社株式 他の会社を支配したり影響力を行使したりして、企業集団として事業を行うことにより利益を獲得する目的で保有する株式である。売買を目的としていないため、時価の変動が投資の成果とはいえず、むしろ事業投資という性質をもっているため原価で評価される。
(4)その他有価証券 以上の三つのどれにも該当しない有価証券がここに分類される。その典型は「持ち合い株式」であり、ただちに売買・換金を行うことに事業遂行上の制約があるため、長期保有する有価証券がこれにあたる。売却可能であるから毎期末に時価評価されるが、評価差額はかならずしも投資の成果を表しているとはいえないため、損益計算書の当期純利益には含まれず、貸借対照表の純資産の部に直接計上される。
[濱本道正]
『田中建二著『金融商品会計』(2007・新世社)』▽『トーマツ編『金融商品会計の実務詳解』(2009・中央経済社)』