抵当権と被担保債権との両者を結合して化体する有価証券。これによって抵当権付債権に流通性が与えられ,抵当権者にとっては投下資本を迅速に回収できるし,不動産所有者にとっては資金の供給が容易に得られることになる。ドイツで発達をみた制度であるが,日本では1931年の抵当証券法によって導入された。同法は,1927年の金融恐慌の結果,地方銀行における不動産融資の回収不能が著しくなったため,これを証券によって流動化し地方銀行の窮状を救済しようとして制定されたものである。しかし,不動産金融の流通性にはもともと限度があることなどからこの制度は実際界になじまず,手続の煩雑さもあって,その後はほとんど利用されなかった。
最近になって,住宅ローンとの関係で抵当証券制度を見直そうという動きがある。抵当証券は,当事者間に発行の特約がある場合に限り,抵当権者の申請によって,管轄登記所が発行する。発行後は,抵当権と債権は分離して処分することはできず,つねに一体として証券の裏書により譲渡される。この証券の流通を安全なものとするため,証券発行の際に抵当証券の交付につき異議申立てを怠った一定の利害関係人は,異議申立てをなしうる事項について証券の善意の取得者に対抗できないこととして,証券に限定的な公信力(〈公信の原則〉の項参照)を付与するなど,一定の範囲で,手形に準じた証券所持人の保護が図られている。
執筆者:内田 貴
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抵当権とそれによって担保される債権とを表す有価証券。抵当証券は、当事者(債権者と債務者)の特約に基づいて登記所が発行する(抵当証券法1条・2条・11条)。抵当証券の制度は、抵当権付き債権の流通を容易にすることによって不動産信用による資金供給を豊富にすることを目的として設けられたものである。この制度は高度な法律技術を駆使したものであり、その手続が煩雑だったため、法律制定(1931)後近年に至るまであまり利用されることがなかったが、一方で、諸手続を代行する抵当証券取扱会社が現れ、他方では、抵当証券の発行があれば、長期の融資であっても資金供給者(債権者)は資金運用がしやすくなると同時に、資金需要者(債務者)も安定した資金調達を得ることが可能になることから、大都市を中心として、貸ビルや賃貸マンションの建設資金の調達に抵当証券の制度が利用されるようになっている。
[高橋康之]
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