釣漁業(読み)つりぎょぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「釣漁業」の意味・わかりやすい解説

釣漁業 (つりぎょぎょう)

釣りは,釣糸の先に釣針をしばり,餌または擬餌等を用いて,魚類をはじめとする水産動物をさそい,釣針にかけて漁獲をおこなう一つの漁法である。このような漁法を主軸にして漁業生産をおこない生業(なりわい)の主要な部分をたてる暮しをする人々のいとなみを〈釣漁業〉という。釣漁業が有効なのは,魚が多く群れていても,その場所が岩礁付近で,網漁具を使用して魚を捕獲することが困難であり,釣りにたよらざるをえない場合とか,水深の深い場所に生息する魚種をめあてに捕獲しようとする場合である。

 こうした,釣漁業をおこなうための漁具には,釣針,釣糸,おもり(いわ),うき(あば),釣りざお,餌(擬餌)などがあり,これらを〈六物(ろくぶつ)〉とよんでいたこともあるが,釣具は職漁,遊漁をとわず,漁獲対象物や各地の伝統的な漁法により,その組合せ方は実に多様である。しかし,こうした釣漁業をおこなうための漁具,漁法を類型化し,それを分類すると,直接的な釣漁業と間接的な釣漁業に分けることができる。直接的な釣漁業には(1)手釣漁業,(2)さお釣漁業があり,間接的な釣漁業には(3)引縄釣漁業,(4)立縄釣漁業,(5)はえなわ釣漁業があり,近年はこれに(6)機械釣漁業が加わり,釣漁業全体では6種類の分類がおこなわれている。

(1)手釣漁業 釣糸の一方を手に直接持っておこなう漁法で,漁船沖合に出て,比較的深い場所でおこなう釣漁である。釣漁業そのものが,小規模な家族的経営によって営まれるばかりか,簡単な漁具を用いるだけで資本を要しないため,全国各地の浦々で最も一般的におこなわれてきたが,その中でも手釣漁業は小規模なものである。しかしその反面,技術的熟練を必要とする漁法であり,こうした技術的な“勘”の習得は小学校6年生ごろから中学生にかけてが最もよいとされている。しかもこの種の漁法は,釣漁の技術のほかに,風向潮流などの海況はもとより,漁場である海底地形,魚の習性等を熟知していなければならない。また手釣漁業は能率が悪いので,高級魚を対象にするのが普通で,魚種は,タイ,ヒラメ,カレイ,スズキ,ブリ等を中心とし,そのほかにイカ,タコ,イサキメバル等も漁獲されてきた。

(2)さお釣漁業 釣りざおの先端に釣糸をつけ,直接,人が手で釣りざおを操作する釣漁である。さおの使用は,魚を釣る際に,釣針にかかる魚のうごきや衝撃をやわらげるクッションの役目をはたすとともに,釣針から魚がはずれること,釣糸の切断を防止するなどに役立つ。さお釣漁法には陸釣り,船釣り等があるが,漁業としては船釣りが主である。カツオの一本釣り,サバのハネ釣り,タイやスズキの一本釣りなどがある。

(3)引縄釣漁業 漁船から直接に釣糸をのばすか,あるいは釣りざおを立ててその先端に釣糸をつけるかして,船を引き回して釣漁業をおこなう方法である。釣りざおを用いるトローリングはさお釣漁業にもかかわる。この漁法では,各種の釣漁具〈例えば潜水板,ヒコーキ等〉を組み合わせることにより,表層魚を釣ったり,中層,下層の魚種を対象として釣漁業をおこなったりする。対象魚は大型魚種が多く,サワラ,シイラ,ブリ,カジキマグロ,メジマグロ,キハダマグロ,カツオ等。

(4)立縄釣漁業 手釣漁業に共通点の多い漁法である。手釣漁業は1本あるいは数本の釣糸を漁業者みずからが操作するのが普通であるが,立縄釣漁業は,必ずしも釣人を直接必要としない。船上において釣糸の一端を固定するか,海面上のうき(浮樽等)につけた釣糸を垂直にのばし,立縄に数本あるいは十数本の枝糸を出して釣針をしかける。この場合,下部におもりをつけて半固定する方法と,さらに重いおもりをつけて錨をうつように固定する漁法がある。立縄釣漁業の長所は,一度に多数の漁具を使用できる点にある。茨城県那珂湊ではタルナガシ(樽流し)という漁法によりタコ釣漁をおこなっているほか,宮崎県ではタイ流し釣漁を,愛媛県ではサワラ浮流し釣漁等をおこなっている。この漁法は比較的新しいものである。

(5)はえなわ釣漁業 〈長縄〉などともよび,近世以後,全国各地でおこなわれてきた漁法である。横にのばす幹縄に多数の枝縄(枝糸)をつけ,枝縄の先端に釣針等をつけて魚を釣る漁法である。この漁法には,表層を回遊するカツオ,サヨリ(以上長崎県),トビウオ(宮崎県)を目的とするものから,中層のサメ(秋田県),サバ(鹿児島県),マグロ(神奈川県),あるいは底層のカレイ(青森県),タイ(神奈川県),タラ(北海道)などの種類がある。しかし釣漁の本質的な方法は同じである。

(6)機械釣漁業 近年になって考案されたものである。釣漁業は船上においても乗組員数が多ければ有利であったため,こうした労働力を機械の操作によって代替しようとするこころみはあったが,実用化しなかった。こうした中で,イカ(青森県),カツオ(静岡県)などの釣漁業が近年になって実用化されるに至った。
漁法 →釣り
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「釣漁業」の意味・わかりやすい解説

釣り漁業
つりぎょぎょう

釣り糸と釣り針(ばり)を有する釣り具を使用し、餌(えさ)または擬餌(ぎじ)等の誘引物により水産動物を誘引して釣り針にかからせ漁獲する漁業をいう。釣り漁業の歴史は非常に古いが、大量の魚を一度に漁獲することができないため、網漁具の発達につれて漁業の中心は網漁業へ移っていった。しかし、現在でもなお釣り漁業は、網漁業と並んで漁業の二つの柱となっており、両方をあわせると日本の漁業生産の90%近くを占めている。

 釣り漁業は、一般に漁具の構造が簡単で多くの資金を必要とせず、このため漁獲は少なくても漁業として成立するという特徴がある。また、巧妙な技術を必要とするので、魚貝類の種類、習性、海況、時期等にあわせて漁具・漁法が改良され、その種類は多岐にわたっている。そして網漁具では操業のできないような水深の深い所や潮流の速い所、海底が岩礁の所、魚群が薄く網漁具では効果があがらないような所でも操業でき、さらには、漁獲物を生かしたまま帰港し、鮮度を高度に保つことができる等の利点がある。また、網漁具のように多人数を要せず、ほとんどのものは1人ないし数人で操業でき、漁船さえあれば簡単に着業できるので、沿岸の漁業者にとっては重要な漁業である。釣り漁業は漁法上からは、手釣り漁業、竿(さお)釣り漁業、機械釣り漁業、引縄(ひきなわ)漁業、立縄(たてなわ)漁業、延縄(はえなわ)漁業の6種類に分類される。

 2009年(平成21)の釣り漁業でおもな漁業種類の漁獲量は、マグロ延縄の16万トン、カツオ一本釣りの10万5400トン、イカ釣りの17万4400トンとなっている(水産庁「平成21年漁業・養殖業生産統計」による)。ここで取り上げたマグロ延縄、カツオ一本釣り、イカ釣りの各漁業は、釣りの操作などにおいて機械化が進んだ漁業で、産業上、とくに重要な漁業種類である。

[三浦汀介]

『金田禎之著『和文・英文 日本の漁業と漁法』(1995・成山堂書店)』

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