波浪、海流、水温、塩分、栄養塩、透明度、プランクトン等の分布などの諸現象を総合した海洋の状態。海象(かいしょう)ともいい、漁業者の用いる「潮(しお)」ということばがほぼこれにあたる。大気の場合の「気象」に対応する用語である。海況を左右するのは、気象の諸要素のほか、水温、塩分、海流などの海洋の諸要素である。海況は水産資源の有効利用や、船舶の経済・安全運航に影響を及ぼすだけでなく、全地球的な気候変動の要因となり、また、局地的な天候や天気、海霧の発生などの気象現象に関連している。
海況はこのように人間の社会的・経済的活動に密接な関係があるのにもかかわらず、その把握態勢は各国とも十分とはいえない。このため国連の専門機構である世界気象機関(WMO)と、ユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)では、海面や海面付近の表層部の水温・海流・塩分の観測データを、気象観測データと同じように、全世界的、即時的に相互交換し、海面水温、海流等の情報を迅速に作成して公表するための計画を推進している。日本では気象庁が中心となって、海洋観測データの即時収集、国際交換を行うとともに、北西太平洋を中心とした海面水温・表層水温・海流情報の作成・公表を行っている。
[長坂昂一・吉田隆]
『寺本俊彦ほか編『海洋学講座』全15巻(1972~1976・東京大学出版会)』▽『友田好文・高野健三著『地球科学講座4 海洋』(1983・共立出版)』▽『宇野木早苗・久保田雅久著『海洋の波と流れの科学』(1996・東海大学出版会)』▽『蒲生俊敬著『海洋の科学――深海底から探る』(1996・日本放送出版協会)』▽『池田八郎著『世界の海洋と漁業資源―――海洋と大気と魚』(1998・成山堂書店)』▽『熊沢源右衛門著『新しい海洋科学』改訂版(1999・成山堂書店)』▽『柳哲雄著『海の科学――海洋学入門』第2版(2001・恒星社厚生閣)』▽『日本海洋学会編『海と環境――海が変わると地球が変わる』(2001・講談社)』▽『村田良平著『海洋をめぐる世界と日本』(2001・成山堂書店)』▽『中島敏光著『海洋深層水の利用――21世紀の循環型資源』(2002・緑書房)』▽『福谷恒男著『海洋気象のABC』4訂版(2002・成山堂書店)』▽『福地章著『海洋気象講座』9訂版(2003・成山堂書店)』▽『豊田恵聖監修、東海大学海洋学部編『改訂 宇宙から深海底へ――図説海洋概論』(2003・講談社)』▽『関根義彦著『海洋物理学概論』4訂版(2003・成山堂書店)』▽『宇田道隆著『海』(岩波新書)』
海の状態を総合的に表すことば。通常は水温および塩分の分布,水色や透明度,水塊と酸素や窒素などの化学成分の分布,微生物のようす,海流および風波の状態などを示す。大気の状態を天気とか天候とかいうことばで表すのに相当する。海況とまぎらわしいことばに海象があるが,後者は気象(雨,雪,風などの現象を指す)に対応することばで,個々の現象を意味する。つまり海況とは海象の総合された状態である。ただし両者を同じ意味に使う人も少なくない。
海洋学の一分野に海況学があるが,これは英語のsynoptic oceanography,hydrography,descriptive oceanographyのいずれも含むような広い意味をもっている。海況学は海洋物理学の一分科とも考えられるが,海洋物理学が海水の物理的現象の一般的法則を追究するのに対し,海況学では海水の環境的見地からその状態を物理的手法で解明する点に特徴がある。
→漁況
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…水生生物の分布,移動は水温,塩分など種々の環境要因に支配される。漁期における漁場の環境条件を海況というが,漁況は海況と密接に関連しており,漁況,海況,あるいは漁海況と並べられる場合が多い。
[漁況予測]
漁業者にとって漁の良否は最大関心事で,いつ,どこで,何が,どのくらい,とれるかをあらかじめ知りたいという願いは古くからあった。…
※「海況」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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