日本大百科全書(ニッポニカ) 「イサキ」の意味・わかりやすい解説
イサキ
いさき / 伊佐幾
grunt
[学] Parapristipoma trilineatum
硬骨魚綱スズキ目イサキ科に属する海水魚。宮城県以南の太平洋沿岸と新潟県以南の日本海沿岸、屋久島(やくしま)、東シナ海、台湾、中国広東(カントン)省・福建省の沿岸などに分布するが、南西諸島にはいない。体は長楕円(ちょうだえん)形で、やや扁平(へんぺい)する。目の下縁が吻端(ふんたん)よりも下方にある。口は小さく、主上顎骨(しゅじょうがくこつ)の露出部は鱗(うろこ)をかぶる。下顎の縫合部に2対の小孔(こあな)がある。両顎には弱い微小歯の歯帯がある。尾びれの後縁は内方にくぼむ。鱗は小さい櫛鱗(しつりん)で、側線鱗数は106~115と多い。全長45センチメートルに達する。体長20センチメートルまでの幼魚には背部に頭部後方から尾柄(びへい)部にかけて3条の黄褐色縦帯があるが、成長とともに消失する。24センチメートル以上の成魚では体が一様に暗灰色である。種名のtrilineatumはこの3本の縦帯を意味する。幼魚は群泳するが、成魚ではまばらになる。昼間は沿岸の藻場(もば)の海底で生活し、夜に海面近くに浮かぶ。小形甲殻類、多毛類などを食べる。夜行性の強い魚で、とくに暗夜に活発である。南の海域では5~6月、北では6~8月が産卵期で、沿岸に回遊して、直径約0.8ミリメートルの分離浮性卵を産む。孵化仔魚(ふかしぎょ)は1.6~2ミリメートル。1年で13センチメートル、2年で20センチメートル、4年で30センチメートルほどになる。冬の季節には15センチメートルぐらいの幼魚が多いが、夏が近づくと20センチメートルぐらいの大形魚がとれだす。重要な食用魚で、一本釣り、定置網、延縄(はえなわ)、桝網(ますあみ)などによって漁獲される。夏の産卵前のものは脂肪がのり美味である。刺身、塩焼き、煮つけ、フライなどにする。
[赤崎正人・尼岡邦夫 2017年4月18日]
料理
この魚は大きいほど美味である。塩焼きがおいしいが、煮魚にもされる。煮魚は3枚におろして2センチメートル角くらいに切り、魚と同量の酒を沸かし、魚を加え、煮汁半分に煮つめ、砂糖としょうゆで味つけする。衣をつけないで揚げる素揚げ、衣をたっぷりつけてラードで揚げるから揚げもよい。ごく新しいものは刺身にもなり、いろいろの料理に向く万能魚である。
[多田鉄之助]
釣り
釣り期は初夏から夏。船釣りは群泳する習性を利用して、アミジャコやイワシのミンチなどを寄せ餌(え)にして、まず魚を集め、これをエビのむき身、サクラエビ、イソメ類の餌(えさ)で釣る。また、鉤(はり)にサバやハモなどの魚皮を巻き付けた擬似鉤を等間隔に6~10本つけ、この上部に寄せ餌を入れる専用籠(かご)を固定した釣り方もある。これをサビキのコマセ釣りとよぶ。イサキの泳層は海底近くから10~15メートルほど上であるが、天候、潮色、時間などで変化する。この泳層を早くとらえて、つねに同じ泳層に餌または擬似鉤を沈めて釣るのがこつである。大形魚ほど泳層の上部に多い。磯(いそ)釣りでは、夏の夜、電気ウキをつけた仕掛けに、イソメ類の餌でねらうとよい。
[松田年雄]