日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉄鉱床」の意味・わかりやすい解説
鉄鉱床
てつこうしょう
磁鉄鉱や赤鉄鉱を主要鉄鉱物として含む鉱床であるが、鉄の炭酸塩や水酸化物などから構成される鉱床もある。地殻中の鉄の含有量はほぼ5%で、主要元素のなかではアルミニウムに次いで多い元素である。鉄が地殻中に各種の鉄鉱物などを形成することにより、25~30%以上濃集すると鉄鉱床として採掘可能になる。鉄資源を産する鉱床型はさまざまあり、成因により正マグマ成鉱床、カーボナタイト鉱床、接触交代(スカルン型)鉱床、熱水鉱脈型鉱床、化学的・生化学的堆積(たいせき)成鉱床、漂砂鉱床など種類が多い。
これらのうち、世界的にもっとも重要な鉱床は、化学的・生化学的堆積成鉱床である。この型の鉱床は、先カンブリア時代の岩石中に層状に分布し、縞状鉄鉱層(しまじょうてっこうそう)Banded Iron Formation(BIF)とよばれる。この鉄鉱層は、一般に赤鉄鉱層や磁鉄鉱層、それにチャート質層と互層をなす。また、炭酸塩鉱物に富む層や硫化物(主として黄鉄鉱)層などを含むこともある。縞状鉄鉱層は、生成環境や生成時期などにより大きく、アルゴマ型とスペリオル型の二つに分けられる。
アルゴマ型鉱床は、緑色岩帯中に層状またはレンズ状に分布する。緑色岩は先カンブリア時代の海底火山活動により海底に噴出した火山岩や火山砕屑岩が熱水変質や広域変成作用を受けて生成したものであり、このタイプの鉄鉱層の鉄は火山活動に伴うマグマ起源とされている。また、アルゴマ型鉄鉱層はスペリオル型に比べ鉱床規模が小さく、水平方向への鉱石の性質の変化に富む。鉱石は、鉄酸化物鉱石のほかに、炭酸塩鉱物、硫化物鉱石に富むのを特徴とする。代表的なアルゴマ型鉱床は、ハドソン湾南西域、ギアナ、ベネズエラ、ブラジル、オーストラリア西部、リベリアなどに分布する。
スペリオル型鉄鉱層は、砂岩、粘板岩、チャートなどの堆積岩中に分布し、アルゴマ型に比べ連続性がよく、鉱床規模が大きい。鉱床は、磁鉄鉱層や赤鉄鉱層がチャート層と縞状構造をなす。また、この鉄鉱層の上下の堆積岩中には、ストロマトライトとよばれる緑藻類により形成された炭酸塩鉱物層が分布する。スペリオル型鉄鉱層は、北アメリカ大陸五大湖の一つであるスペリオル湖北西部に多数分布し、鉱石はタコナイトとよばれる。この種の鉱石は、インドではBHQ(Banded Hematite Quartz)、ブラジルではイタビライトとよばれている。イタビライトは広域変成作用を受け鉄鉱物が再結晶し鏡鉄鉱(赤鉄鉱の板状結晶)に変化したものより構成されている。西オーストラリアのハマスレー、南アフリカのトランスバール、ウクライナのクリビー・リフ(クリボイ・ログ)、中国の鞍山(あんざん)など世界を代表する鉄鉱層はスペリオル型に属する。
正マグマ成鉄鉱床は先カンブリア時代の変成岩類を貫く火成岩体中またはその周辺に発達し、たとえばスウェーデンのキルナ鉱床のように大規模なものがある。スカルン鉄鉱床は磁鉄鉱を主とし、ロシアのウラル地方や西シベリアに大規模なものが発達する。日本では岩手県釜石(かまいし)鉱山の鉄・銅鉱床がこの例である。
[金田博彰]