硫化鉄鉱物の一つ。厳密には、鉱物学的に独立した、少なくとも6種の異なった化学組成の鉱物を含む総称的な名称である。接触交代鉱床(スカルン型鉱床)、含銅硫化鉄鉱床、中~深熱水鉱脈鉱床、正マグマ性鉱床中などに産し、各種硫化鉱物と共存して産する。比較的高温、還元環境下での産物とみなされるが、硫黄(いおう)に比べて鉄の少ないものほど低温でできやすい傾向にあり、また磁力が強い。自形は六角板状ないし短柱状である。日本のおもな産地としては、岩手県釜石(かまいし)鉱山(閉山)、埼玉県秩父(ちちぶ)鉱山(閉山)、茨城県日立鉱山(閉山)、愛媛県別子(べっし)銅山(閉山)などがある。利用法としては、まず焼却して三二酸化物とし、これを鉄鉱石として用いるが、現在はほとんど行われていない。英名は、ギリシア語の「赤」を意味する語pyrrosに由来する。
[加藤 昭 2017年5月19日]
磁性の強い鉄硫化鉱物。鉄と硫黄の比はほぼ1:1であるが,わずかに鉄の方が少ないので,化学成分はFe1~xSと記す。xの値は0~0.125程度。六方晶系であるとして,ほとんどの性質は理解できる。しかし,xの値および温度に応じて結晶系や単位格子,あるいは磁気的性質も,厳密には異なるので,本鉱を加熱した場合に得られる最も単純な単位格子(六方晶系,1C型)を基準として,1C~6C型および幾つかの中間型に細分される。FeS(x=0,トロイライト,2C型)は厳密に六方晶系。Fe11S12(x=0.08,6C型),Fe9S10(x=0.1,5C型)は単斜晶系。Fe7S8(x=0.125,4C型)は単斜晶系で強い磁性を有す。一般にシンチュウ色で金属光沢を呈し不透明。比重4.58~4.65。硬度3.5~4.5。へき開性はない。通常は塊状または粒状集合体,まれには六角板状,六角錐状結晶として産す。英名はギリシア語のpyrros(火色の)に由来する。塩基性火成岩中にマグマ分化の結果少量含まれるが,ペグマタイト,接触変成鉱床,熱水起源の鉱脈鉱床にも,他の硫化鉱物とともに産す。トロイライトは隕石に含まれ,地球上での産出はまれ。
執筆者:中沢 弘基
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Fe1-xS(x = 0~0.2).組成比によって,六方型,単斜型,そのほか種々の超格子構造が知られている.すべてヒ化ニッケル型構造.おもに塩基性火成岩に産出し,ペントランド鉱およびほかの硫化鉱物と共生する.鉄と硫黄または黄鉄鉱(FeS2)をH2Sガス中550 ℃ に加熱して合成する.温度により種々の変態を示す.一般にみられるのは低温型で,六方2C型(troilite,FeS),六方5C型(FeS-Fe7S8),単斜4C型(Fe7S8)がある.320 ℃ 以上で高温型にかわる.硬度3.5~4.5.密度4.58~4.65 g cm-3.板状{0001},へき開はなく,もろい.金属光沢,黄褐色で,磁性に強弱差がある(348 ℃ で消失).FeのかわりにNi,Co,Mn,Cuが含まれることがある.塩酸に溶けて硫化水素を発生する.硫酸,べんがらの製造に利用される.含ニッケル磁硫鉄鉱床はニッケル資源として重要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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