鉤虫症(読み)こうちゅうしょう(じゅうにしちょうちゅうしょう)

六訂版 家庭医学大全科 「鉤虫症」の解説

鉤虫症(十二指腸虫症)
こうちゅうしょう(じゅうにしちょうちゅうしょう)
Ancylostomiasis
(感染症)

どんな感染症か

 鉤虫は長さ1㎝ほどで、小腸寄生します。国内で感染する例はほとんどありませんが、世界的にみれば熱帯から亜熱帯の湿潤な地方には広く分布しているので、これらの地域の農村部に仕事や旅行で滞在する時には注意が必要です。

 基本的に、土壌中にいる感染力のある幼虫皮膚から入ってきて感染しますが、野菜などに付着した幼虫を飲み込んで感染することもあります。

 鉤虫症は、今では輸入感染症と考えてよいものです。鉤虫症に限ったことではありませんが、流行地にある程度の期間滞在していた人は、帰国して少なくとも1年くらいは、受診時にそのむねを伝えるようにしましょう。

症状の現れ方

 鉤虫は感染後1~2カ月で成熟し、小腸上部に寄生します。

 感染初期には幼虫が肺を通るため、喘鳴(ぜんめい)(呼吸する時に出るゼイゼイ・ヒューヒューという音)や乾いた(せき)が出ますが、おもな症状貧血です。これは成虫が小腸粘膜にかみついていて、そこから毎日出血するからです。鉤虫の「(こう)(かぎ)」は、粘膜にかみつくための歯を指しています。

 少数の寄生では目立った症状はありませんが、たくさんの虫が寄生していると、鉄欠乏性貧血の症状(動悸(どうき)息切れめまいなど)が現れます。

検査と診断

 南米インドアフリカ、中国などの流行地の農村から帰国して貧血の症状が出たら、この病気を疑う必要があります。抗体検査も有効ですが、確定診断は便の検査で虫卵を見つけることです。

治療の方法

 少数寄生では症状もなく、反復感染しなければ自然に治りますが、診断がついたら駆虫薬(くちゅうやく)(コンバントリン)を内服すれば治ります。鉄欠乏の程度がひどい時は、鉄剤も内服します。

病気に気づいたらどうする

 前述したように、流行地にある程度の期間滞在したことがあり、動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状があるなら、この病気も疑って受診し、そのむねを医師に伝えてください。

丸山 治彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「鉤虫症」の解説

鉤虫症(線虫症)

 鉤虫症は小児を中心に世界人口の10%以上が罹患している.原因としてAncylostoma duodenale(ズビニ鉤虫;インド,中国,日本,地中海地方)とNecator americanus(アメリカ鉤虫;アフリカ,アジア,アメリカ大陸の熱帯地方)が存在する.日本でも戦前までは多くの感染者が認められ,若菜病と称されていた. 成虫は10 mm前後で,2年以上生存しうる.糞便中に排出された虫卵は幼虫(ラブジチス型幼虫,フィラリア型幼虫)へと成長する.フィラリア型幼虫は土壌よりヒトの皮膚を貫通し肺を経て消化管に至る.成虫は小腸壁に吸着・吸血し,虫卵を糞便に排泄する. 鉤虫感染症はしばしば無症候性であるが,以下の症状を伴う.①皮膚瘙痒(ground itch)や幼虫移行症(larva migrans)を合併する.②ときにLöffler症候群を合併する場合があるが,回虫より軽症であることが多い.③感染初期時(特に初回)には,悪心・嘔吐,下痢,腹痛を自覚する場合がある.米国兵士や旅行者が熱帯地方の土壌に暴露後30~45日後に発症する場合がある.④慢性的栄養障害は重要である.1匹の鉤虫は1日に0.03~0.1 mLの血液を消費し(Farizら,1969),重症感染では500~1000虫体が寄生していると推定される.鉄欠乏性貧血,低蛋白血症,重症貧血,心不全,浮腫,成長遅延などが生じる. 診断の基本は便の虫卵検査である.症状が軽症な場合には集卵(飽和食塩水浮遊法)が必要である.
 貧血の治療は鉄の補充でも改善するが,以下の抗寄生虫薬が必要である.①パモ酸ピランテル10 mg/kg(単回服用).保険適応有.②アルベンダゾール400 mg(単回服用).保険適応外.③メベンダゾール200 mg(分2)3日間.保険適応外. 感染予防には下水道の衛生化や皮膚と土壌の直接接触を避けることだが,実施が困難である.そのためハイリスク地域では感受性集団の3~4カ月ごとの定期的集団治療が行われている.[立川夏夫]
■文献
Farid Z, Patwardhan VN, et al: Parasitism and anemia. Am J Clin Nutr, 22: 498-503, 1969.
Stolk WA, de Vlas SJ, et al: Anti-Wolbachia treatment for lymphatic filariasis. Lancet, 365: 2067, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「鉤虫症」の解説

こうちゅうしょうじゅうにしちょうちゅうしょう【鉤虫症(十二指腸虫症) Hookworm Disease (Ancylostomiasis)】

[どんな病気か]
 1cmぐらいの各種の鉤虫が寄生しておこる病気です。日本ではズビニ鉤虫とアメリカ鉤虫によるものが大部分を占めています。幼虫が付着している野菜を食べたり、皮膚から幼虫が侵入することで感染します。
[症状]
 鉤虫は、体内で血液や体液を養分として発育します。そのため、感染すると貧血(ひんけつ)がおこり、ひどくなると激しい動悸(どうき)、手足のむくみや爪(つめ)の変形がみられることもあります。
 腹痛や下痢(げり)などもおこります。
 幼虫が皮膚から侵入したときには皮膚炎がおこり、かゆみを感じます。
[検査と診断]
 浮遊法(ふゆうほう)という方法で糞便(ふんべん)を調べて、虫卵(ちゅうらん)が見つかれば診断がつきます。
 また、発病初期に血液を調べると、好酸球(こうさんきゅう)(白血球(はっけっきゅう)の一種)の増加がみられます。
[治療]
 パモ酸ピランテルを1回内服すれば治ります。貧血に対しては鉄剤が使われます。
[予防]
 生野菜は、よく水洗いをしてから食べましょう。流行地では、田畑に素足で入らないように心がけましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「鉤虫症」の解説

鉤虫症

 鉤虫の寄生によって起こる症状.鉄欠乏性貧血などが観察される.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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