江戸時代の代表的な磁器窯およびその製品。伊万里(いまり)焼を領有していた肥前(ひぜん)国(佐賀県)鍋島藩の御用窯(藩窯)。初代藩主勝茂(かつしげ)が1628年(寛永5)に有田(ありた)町の岩屋川内(いわやがわち)窯を藩窯に指定したと伝え、その後61年(寛文1)同町の南川原(なんがわら)に移ったとされるが、いずれも確証はない。窯跡が明らかなのは、一般に第三期の窯とされている伊万里市二本柳大川内(おおかわち)に移ってからであり、窯跡出土陶片から元禄(げんろく)年間(1688~1704)を少しさかのぼる時期には明確にその実像をつかむことができる。
鍋島窯は、貴紳に献上する優品の焼造を主眼としたため、採算を度外視して、厳格な様式統制のもとに原料を精選し、超絶した技巧を駆使して色絵、染付(そめつけ)、青磁などの多くの皿を焼いたが、とりわけ色絵は色鍋島と称して声価が高い。形は単純な木盃(もくはい)形の円形皿で、径の大きさは一尺、七寸、五寸、三寸と多様である。見込(みこみ)には独創無比な文様を描き込み、純和様磁器の様式美を樹立した。みごとに整った様式規制は藩窯ならではの所産であり、卑俗に染まらぬ唯美主義を貫き、高貴にして典雅を極め、洗練された江戸文化の粋を結集した観がある。元禄年間が黄金時代で、江戸時代を通じて窯は存続したが、1871年(明治4)の廃藩置県により藩の事業は終え、その後は民間に移された。重要文化財に指定されている「色絵菊芙蓉(きくふよう)図皿」「色絵桃(もも)図皿」「色絵松竹梅橘文瓶子(たちばなもんへいし)」などが著名である。
[矢部良明]
『永竹威著『肥前陶磁の系譜』(1974・名著出版)』▽『矢部良明著『名宝日本の美術26 染付と色絵磁器』(1980・小学館)』
佐賀県伊万里市におかれた鍋島藩の御用窯(藩窯),またその製品をいう。有田焼を支配下におさめる鍋島藩は,藩の誇るこの磁器窯をもとに,特別に設けた御用窯で精巧な磁器をつくらせ,将軍,大名,公家などへの献上品とした。明治初年の文献によると,1628年(寛永5)に初代藩主勝茂が岩谷川内(いわやごうち)窯を藩窯に指定したのにはじまり,61年(寛文1)南川良(なんがわら)に移り,75年(延宝3)には現在の伊万里市二本柳にある大川内(おおかわち)山に立地したと伝えている。しかしこの年次および窯の位置については検証されておらず,判然としていない。ただ大川内窯がおよそ17世紀末までに開かれたことは考古学的に確かめられている。製品の式制は厳格で,藩窯技術の秘守につとめた。大半は皿で占められ,径をさだめ,最上質の材料をつかって色絵,染付,青磁など各種の磁器をつくった。とくに色絵は色鍋島とよばれて声価が高い。元禄期(1688-1704)の製品が最も水準が高く,しだいに作風はおとろえてゆき,1871年(明治4)に民間に委譲された。
執筆者:矢部 良明
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