改訂新版 世界大百科事典 「長谷寺霊験記」の意味・わかりやすい解説
長谷寺霊験記 (はせでられいげんき)
仏教説話集。編者は長谷寺(奈良県桜井市)関係の僧らしく,13世紀初頭に成立。2巻。古名は《長谷寺験記》。上巻19話,下巻33話から成り,それぞれ時代順に収録する。上巻は長谷寺の古記に基づき,下巻は広く寺外の文献に取材したものという。致富成功,延命息災,浄土往生など,現当二世の長谷寺観音の霊験利益談を収め,天皇,后妃から武家,庶民に至るまで,あまねく衆生を救済する長谷寺観音の利生を強調している。長谷寺教団が布教勧進の資料としたものと思われ,伝本間の加筆の跡もうかがわれる。上巻には《吉備大臣入唐絵》と同話が見え,下巻には《日本霊異記》《今昔物語集》等の先行説話集や中世物語との共通話が多く見えるなど,総じて興味深い説話が多い。後代文学への影響も注目すべく,《三国伝記》以下の説話集に取られ,近世の仮名草子,読本などにも影響した。
執筆者:今野 達
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報