三国伝記(読み)さんごくでんき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「三国伝記」の意味・わかりやすい解説

三国伝記
さんごくでんき

説話集。沙弥玄棟(しゃみげんとう)編。室町時代中期(15世紀前期)成立。インド、中国、日本の説話順繰りに配され、全12巻、各巻30話、合計360話の集成である。漢文の訓読調を主体に、和漢の名詩句や美辞麗句をちりばめた技巧的な文章で展開しており、その説話典拠は多くが先行の説話集に求められる。全体的に仏教信仰の色濃い説話が目だつ。また寺社縁起譚(たん)も顕著だが、とくに近江(おうみ)国神崎(かんざき)郡(滋賀東近江(おうみ)市)周辺の寺社のそれが多い。これは本書の成立背景や編者玄棟について示唆するところとなっている。序文の構成には『太平記』巻35「北野通夜(つや)物語」が影響している。古代から中世まで連綿と制作されてきた説話集のいちおうの終結点として注目されている。なお江戸初期写の平仮名本も伝わる。

[徳田和夫]

『池上洵一校注『三国伝記』上下(1976、82・三弥井書店)』『安藤直太郎監修、名古屋三国伝記研究会編『三国伝記〈平仮名本〉』上中下(1982~83・古典文庫)』

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百科事典マイペディア 「三国伝記」の意味・わかりやすい解説

三国伝記【さんごくでんき】

室町時代の代表的説話集。12巻。沙弥玄棟(伝不詳)著。15世紀前半の成立。天竺(てんじく)の僧,大明の俗人,日本の遁世(とんせい)者がそれぞれ自国の物語をするという形式で360話を収める。先行説話,漢籍,仏典によるものが多いが,《太平記》の影響も大きい。漢字片仮名交り文で書かれ,前代の説話を選択集成した一大説話集。
→関連項目説話文学巡り物語

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世界大百科事典 第2版 「三国伝記」の意味・わかりやすい解説

さんごくでんき【三国伝記】

室町時代の説話集。12巻。編者は沙弥玄棟とするが伝未詳。1407年(応永14)以後,1446年(文安3)以前の成立。インド・中国・日本3国の説話を輪番に配列し,各巻30話,全360話を収める。1日1話当て,1年12ヵ月,360日に配したものか。応永14年8月17日の夜,天竺の僧梵語坊,大明の俗漢字郎,本朝近江の遁世者和阿弥が京都の清水寺に来会し,月の出を待ちながら梵,漢,和の順に各自の国の話を披露するという趣向で,《大鏡》《宝物集(ほうぶつしゆう)》以来の伝統的構想を踏まえながら,直接には《太平記》巻三十五の北野通夜物語に想を得ている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三国伝記」の意味・わかりやすい解説

三国伝記
さんごくでんき

室町時代の説話集。玄棟著。 12巻 12冊。応永 14 (1407) 年成立。8月 17日夜,京都東山の清水寺に参詣した天竺の梵語 (ぼんご) 坊,大明の漢守郎,近江の和阿弥の3人が月待ちをする間,それぞれの国の話を順々に語るという設定で,各巻 30話,計 360話を収める。六道輪廻 (りんね) ,三宝の霊験を説く話が中心で,仏教を説くことを目的としたもの。

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世界大百科事典内の三国伝記の言及

【説話文学】より

…《長谷寺(霊)験記》《春日権現験記》のごとき寺社の霊験集,地蔵・観音以下の神仏利益集類が簇出したのもこのころからである。鎌倉末期から室町時代にかけては,《神道集》と《三国伝記》に注目したい。前者は南北朝時代に集成された安居院(あぐい)流の語り物集で,中世本地物語の一源流と見られ,後者は室町初期に成った伝統的な三国説話の集成書ながら,仏教説話集的性格から座談形式の伽(とぎ)物語的作品に移行している点が見のがせない。…

※「三国伝記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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