日本の予算のうち,自衛隊の武器などの軍事関係に使われる経費。1997年度の防衛関係費は4兆9475億円,それが一般会計歳出およびGNPに占める割合はそれぞれ6.4%,0.96%となっている。現在(1997年11月)の外国為替相場(1ドル=124円)で計算すると,この防衛関係費の規模は,アメリカの国防予算の約6分の1,イギリスの1.1倍,フランスの1.2倍,ドイツの1.5倍にあたる。過去5年間の増減をみれば,アメリカは8.7%減,イギリスやドイツは7%強の減,フランスでも3.2%減と,欧米主要国は軒並み国防費を減らしてきたのに,日本の防衛関係費は逆に6.6%の増加を記録している。
防衛関係費は,安全保障会議の経費や在日アメリカ軍駐留費を日本が肩代りする分を除いて,大部分が自衛隊の活動目的に用いられている。憲法9条の戦力不保持の規定とのかかわりで日本政府は,自衛隊は軍隊ではないとの見方に固執してきた。そのため,自衛隊中心に投じられる軍事向けの国家経費も防衛関係費という呼称を与えられてきたが,実質は軍事費である。外敵からの防衛を主要任務とする国家の実力組織を軍隊とみなす国際的常識に照らせば,〈直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛する〉(自衛隊法3条)役目をおびる自衛隊は紛れもなく軍隊である。しかも,その自衛隊は今や北西太平洋地域にあってはアメリカ軍を上回る数の戦術航空機,対潜機,護衛艦等を有するまでに成長した。自衛隊とか防衛関係費という言い回しは,時とともに実態からかけ離れてきている。
軍事費に関する国際的に共通した定義が存在するわけではなく,同費目によってカバーされる範囲は国によってまちまちである。ただし,軍人や国防省文官の給与,軍の維持運営費,武器調達費,軍事目的の研究開発費ならびに建設費をそれに含むことについては一応のコンセンサスがあると思われる。ただし退役軍人の恩給,軍事援助,民間防衛のための政府支出,準軍隊の経費,および原子力・宇宙関係予算中の軍事関連部分の扱いについては違いがある。アメリカの国防省予算ではこのうち最初の三つが,NATOの定義による国防支出の場合には民間防衛以外の全部が算入されている。これに対して日本の防衛関係費の範囲は,一応のコンセンサスがある基幹的な部分だけに狭く局限されている。また1976年に,〈防衛計画の大綱〉とワンセットの形で,国防会議・閣議の決定として,防衛関係費は〈当面,各年度の総経費がGNPの1%を超えないことをめどとする〉こととなった。それが日本の軍事大国化に対する歯止めとして一定の役割を果たしてきた点は否めないが,欧米並みの基準でいけば早くから対GNP比1%の枠を突破していた事実も同時に承知しておかなければなるまい。ちなみに,旧軍人遺族等恩給費を加えただけでも,1997年度の数字は0.96%から1.23%に跳ね上がる。
自衛隊の発足は1954年7月であったが,翌55年度の防衛関係費をみると,当初予算額は1349億円,その対一般会計歳出比は13.6%,対GNP比は1.78%であった。その後ほぼ横ばいで推移した防衛関係費の絶対額は,第1次防衛力整備計画(1次防)以降,顕著な増勢を示した。ちなみに1次防(1958-60年度)は,予定される在日アメリカ軍の撤収をカバーできるだけの〈骨幹的防衛力〉の構築を主眼とした。続く2次防(1962-66年度)では,装備近代化・国産化の努力を通じてその骨幹的防衛力の内容充実をはかる点が眼目とされた。3次防(1967-71年度)の場合には,陸・海自衛隊の正面装備の大部分を国産品で賄える能力の確立が期され,4次防(1972-76年度)では,従来はアメリカで開発した兵器のライセンス生産にとどまっていた新鋭兵器類の領域にも独自開発の波が広がるようになる。こうした4次にわたる防衛力整備計画の積重ねを通じて,おもに兵器戦力の量的・質的強化の形態で自衛隊の戦力増強が達成されてきた。そしてそれは当然に防衛関係費の持続的な肥大化を伴った。4次防最終年度(1976年度)の防衛関係費の額は1兆5124億円で,1次防開始前と比較すれば実に10倍以上になった。もっとも,この間には高度経済成長を反映して財政規模やGNPがより急テンポで膨張したため,防衛関係費の対一般会計歳出比(1976年度6.2%)および対GNP比(同0.90%)は逆に低下した。
ポスト4次防の防衛力整備は〈防衛計画の大綱〉(大綱と略称。1976年10月閣議決定)を指針にして推進された。大綱は,日本の防衛力が〈平時の防衛力〉としては量的にほぼ期待される水準に近づいているとの認識を打ち出すと同時に,質的な軍備拡張の必要を唱えた。
1996年11月に新しい〈防衛計画の大綱〉(新大綱と略称)が閣議決定をみた。新大綱の最大の特徴は,世界戦争の可能性が薄れたにもかかわらず,中国の軍備増強や朝鮮半島の不穏な情勢など,日本周辺地域ではかえって不安定性が増しているとのアメリカ側の分析を受け入れて,日米安保協力の強化(および大規模自然災害やテロ災害への対処,PKO等への自衛隊の活用)が唱えられた点にある。また,新大綱では防衛力の合理化,効率化,コンパクト化に努める意思の表明もなされ,陸上自衛官の定数削減(18万人から16万人)や主要装備の全般的なコンパクト化(たとえば護衛艦は約60隻から50隻程度,戦闘機は約350機から約300機)がうたわれた。ただし,それは本格的な軍縮のスタートを意味するものとはいえない。なぜなら,自衛官定数の削減は定員不充足の実情を後追い的に認知した面が強いし,多様な役割を機動的にこなす自衛隊を実現しようとすれば,必要な機能の充実と装備のハイテク化が必ず求められることになるからである。
→自衛隊
執筆者:坂井 昭夫
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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