陶棺(読み)トウカン

デジタル大辞泉 「陶棺」の意味・読み・例文・類語

とう‐かん〔タウクワン〕【陶棺】

粘土で作り焼きあげた棺。日本では、主に6、7世紀に中国近畿地方で用いられた。形状亀甲きっこう形と屋根形があり、底部に円筒状の脚がつく。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「陶棺」の意味・読み・例文・類語

とう‐かんタウクヮン【陶棺】

  1. 〘 名詞 〙 古墳時代後期の棺の一つ。土または陶質の焼物棺で、主として近畿地方を中心とした西日本使用された。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「陶棺」の意味・わかりやすい解説

陶棺 (とうかん)

粘土を焼き固めて作った棺で,世界各地で用いられた。なかでは,エーゲ文明下の各種のものや,エトルリアの横たわる人物像を備えた例,あるいはパルティアの靴形のものが名高い。中国では後漢を中心に,四川省崖墓(がいぼ)で用いられた箱形のものがよく知られている。

 日本では,古墳時代後期に盛行したものを指し,前・中期円筒棺とは区別している。形態は,特殊なものを除けば,ほとんどが身は箱形,蓋は亀甲形か屋根形で,身の底部外面に2~3列の中空円筒形の脚が付く。亀甲形や切妻屋根形のものは赤褐色に,四注屋根形のものは黒灰色に焼かれることが多く,後者はしばしば須恵器窯址から出土する。分布畿内と岡山県とに集中しており,形態的にも地域差が認められる。横穴式石室や横穴内で伸展葬に用いられたが,年代の新しい小型品は蔵骨器としても利用された。同時代家形石棺と比べれば,一般に,より低い階層に用いられたと考えられるが,奈良県斑鳩(いかるが)町竜田御坊山3号墳の須恵質四注屋根形陶棺のごとく,内・外面に黒漆が塗布され,琥珀(こはく)製枕,三彩円面硯(すずり),筆管かと思われるガラス製品など,当時としては希少な副葬品とともに,刳抜横口式石槨に収められた特殊な例も存在する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「陶棺」の意味・わかりやすい解説

陶棺
とうかん

身(み)と蓋(ふた)からなる土製の棺。おもに古墳時代後期、6世紀中葉から後半に盛期がある。一般に、焼成の温度差、したがって色調、硬度などの相違によって二大別される。すなわち赤褐色を呈する土師(はじ)質陶棺と、灰黒色の須恵(すえ)質陶棺とに分かれ、形態的にはなお3種ある。まず亀甲(きっこう)形陶棺は、身の両端が丸く、蓋も丸みをもち、身、蓋とも縦横に突帯が走り、蓋には小筒状の突起がついて、一見亀甲に似る。ついで、切妻(きりづま)式家形陶棺は長方形の身に切妻式の屋根蓋がのるもので、また、四注(しちゅう)式家形陶棺は四注造りの屋根蓋に特徴がある。いずれも身の底部には、中空円筒状の脚が長辺に平行して、二ないし三列取りつく。大形のものは、長辺約2メートル、幅1メートル弱、高さ1メートル程度。分布は、山口、大分を西限に、東が群馬、福島に限られ、とりわけ岡山県東部および兵庫県西端部に濃密で、近畿各県がこれに次ぐ。岡山県本坊山(ほんぼうざん)古墳の須恵質陶棺や同下一色(しもいっしき)2号墳の土師質陶棺などは、瓦当文(がとうもん)を加飾した例として知られ、使用の下限が7世紀後半~8世紀にあることを裏づけている。

[葛原克人]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「陶棺」の意味・わかりやすい解説

陶棺【とうかん】

粘土を焼きかためて作った棺で,日本では古墳時代後期に主として近畿・中国地方で用いられた。蓋には亀甲形と屋根形とがあり,前者は土師(はじ)質(土師器)で赤く塗ることもある。後者は須恵質(須恵器)と土師質がある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「陶棺」の意味・わかりやすい解説

陶棺
とうかん

粘土を焼いてつくった棺。世界各地で用いられたが,日本では古墳時代後期に近畿地方,中国地方で多く使用された。日本のものは大別して亀甲形と家形の2種類あり,両者とも身の部分とふたの部分に分れ,身のほうに脚がついている。ふたに粘土の凸帯が縦横に走り,上から見ると亀の甲に似ているものを亀甲形と呼び,多くは土師質で赤褐色を呈する。また家形のものはさらに形により切妻式,四注式などと呼ばれ,多くは須恵質で灰黒色を呈する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「陶棺」の解説

陶棺
とうかん

古墳時代後期,土を焼き固めてつくった棺
主として近畿・中国地方の古墳に安置された。蓋と身に縦横に粘土の凸帯のついた亀甲形と,蓋が切妻式または四注式の屋根に似た屋根形とがある。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の陶棺の言及

【甕棺】より

…口広く丈高い器を用いたものを甕棺と呼び,頸すぼまりで胴の張ったものを壺棺(つぼかん)と呼び分けることもある。なお平面円形の一般容器の形から離れ,本来の棺として作ったものは陶棺とよび,甕棺とは区別する。火葬骨を収納した土器は蔵骨器,骨蔵器,骨壺などと呼ばれる方が多い。…

※「陶棺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android