歌舞伎狂言。世話物。4幕7場。作者は奈河七五三助(ながわしめすけ)。初演は1784年(天明4)5月大坂藤川菊松座(角の芝居)。別名題《振袖隅田川》《鐘淵劇故事(かねがふちかぶきのふるごと)》。通称《法界坊》。演者は道具屋甚三を2世藤川八蔵,同女房おさくを2世山下金八,永楽屋権左衛門を3世今村七三郎,野分姫を嵐村次郎,山崎屋勘十郎を2世中村治郎三,永楽屋手代を三枡松五郎,同手代要助を染松七三郎,同娘お組を初世芳沢いろは,法界坊と浅山主膳を4世市川団蔵。直接の粉本は1775年(安永4)江戸中村座初演《色模様青柳曾我(いろもようあおやぎそが)》で,初世中村仲蔵が大日坊の役で演じたもの。そのとき松井源五郎の役で同座していた団蔵が9年後大坂で上演したのが本作。さらに98年(寛政10)江戸森田座でも再演。これが大当りして以来,団蔵代々の家の芸となった。盗まれたお家の重宝鯉魚(りぎよ)の一軸を捜し求めて,吉田家の若君松若は,許嫁の野分姫を置いて江戸へ下り,要助と名を変えて永楽屋の手代となる。姫は荵売(しのぶうり)に身をやつして若君を追ってくるが,要助は勘十郎の婿入りが決まっている娘お組と深い仲。また願人坊主の法界坊がお組に横恋慕。かたり,盗難,心中,殺人などが次々にあって複雑な筋。結局は姫が要助を恨みつつ法界坊に殺され,その法界坊もまた殺されて,一軸は要助の手に取り戻される。すなわち,吉田家のお家騒動に,梅若伝説と鐘ヶ淵伝説などをあしらって,鯉魚の一軸をカセに筋を展開したもの。全体としては色と欲とに溺れきった法界坊の破戒無慚(むざん)な悪行を三枚目風な扱いで処理する表現に,観客のみならず演者側にも人気の重点がある。またこの人気を支えている要素の一つに,大切浄瑠璃所作事《垣衣恋写絵(しのぶぐさこいのうつしえ)》がある。これは《双面》《荵売》《法界坊》とも通称される舞踊劇で,主人公法界坊に清玄の性格も加わり変化に富み,狂言と離れて舞踊会でも頻繁に上演されている。
→隅田川物
執筆者:目代 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。四幕。奈河七五三助(なかわしめすけ)作。通称「法界坊」。1784年(天明4)5月大坂角(かど)の芝居初演。江戸市井に多くみられた釣鐘建立の乞食(こじき)坊主の風俗を写した滑稽(こっけい)な破戒僧法界坊を、「隅田川物」の世界のなかで活躍させた作で、初世中村仲蔵が1775年(安永4)に『色模様青柳曽我(いろもようあおやぎそが)』で演じた大日坊の役を、4世市川団蔵のため喜劇的に書き直したもの。堕落坊主法界坊は永楽屋の娘おくみに横恋慕して執拗(しつよう)に追い回し、悪代官の手先となり、番頭長九郎と組んで、恋敵の手代要助、実は吉田の松若を陥れようとするが、かえって吉田の旧臣道具屋甚三(じんざ)に痛めつけられ、その後、松若の許嫁(いいなずけ)野分姫(のわけひめ)にも懸想したすえ、意に従わぬ姫を殺し、自分も甚三に殺される。松若・おくみが荵(しのぶ)売りに身をやつして隅田川まで落ちてくると、法界坊と野分姫の霊が合体して、おくみとそっくりの姿で現れ、2人を悩ますが、観音像の威力で退散する。序幕「料亭大七(だいしち)入口・同奥座敷・三囲合羽干場(みめぐりかっぱほしば)」、二幕目「三囲土手」、大切(おおぎり)「隅田川渡船」(舞踊「双面(ふたおもて)」)の三幕五場が今日定型化した台本で、妄執に近い法界坊の滑稽味を巧みに描いた歌舞伎喜劇の傑作。大切「双面」は舞踊劇の重要系列で、常磐津(ときわず)の名曲『双面水照月(みずにてるつき)』のほか、清元(きよもと)に『双面荵姿絵(しのぶすがたえ)』がある。
[松井俊諭]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…1775年(安永4)1月江戸中村座上演《色模様青柳曾我》の二番目大切《垣衣恋写絵(しのぶぐさこいのうつしえ)》が原曲で,初世中村仲蔵が主役の大日坊を踊った。このとき同座した4世市川団蔵が1784年(天明4)5月大坂藤川菊松座(角の芝居)で《隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)》の法界坊に主役を変えて上演。さらに1798年(寛政10)9月江戸森田座で,二番目《振袖隅田川》の大切に増補再演。…
※「隅田川続俤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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