能の曲目。四番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)の『申楽談儀(さるがくだんぎ)』に一節があげられているが、作者不詳。物売りの芸能を中心とすることから、狂女物に準じて扱われている。横佩(よこはぎ)右大臣豊成(とよなり)は、讒言(ざんげん)を信じて娘の中将姫を雲雀山で殺させようとするが、姫は忠義な家臣(ワキツレ)と乳母(うば)(前シテ)にかくまわれている。狩りに出た豊成(ワキ)は、姫を養うため歌おもしろく花を売る女(後シテ)を乳母の侍従と知る。前非を悔いた父は姫(子方)と再会してめでたく終わる。中将姫を慈しむ乳母の心情、舞を舞う情緒とともに、間(あい)狂言による鷹狩(たかがり)の場面も変化がある。後世の浄瑠璃(じょうるり)や歌舞伎(かぶき)にも影響を与え、『当麻(たいま)中将姫』ほかの作品がある。
[増田正造]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報