1930年10月27日に起こった台湾の霧社高山(こうざん)族の抗日蜂起事件。遠因は,長年つづいた権謀術策と欺瞞(ぎまん)に満ちた理蕃政策への総反抗,近因は,部落民への過度な強制労働ならびに指導者モーナ・ルダオ一族への凌辱(りようじよく)などが積み重なって引き金となったことが考えられる。蜂起高山族の計画的な一斉襲撃に日本官民側の犠牲は老幼男女を含んで134名にのぼった。霧社(現,南投県仁愛郷)は,〈蕃界〉中もっとも開化が進み,教育水準も高いと折紙をつけられていた部落だった。とくに特殊な警察行政を中心に行われた理蕃事業の模範生として学費,結婚費用等を供与して育てた,兄弟でもない花岡一郎(本名ダッキス・ノービン)乙種巡査(日本人は甲種巡査で,その下位に位置づけて差別した),花岡二郎(本名ダッキス・ナウイ)警手(巡査の助手)の2人の〈子飼い〉が,ともにリーダーのモーナ・ルダオに同調蜂起したことは当局を仰天させた。日本側は波及をおそれ飛行機などの近代兵器を使用して弾圧を加えた。終りのころ,蜂起側は男女老幼の別なく200余人が集団自決して日本の圧政に抗議した。事後での刑死者と警察が演出した報復事件(第2次霧社事件)の被害者などを含めて約1000名が犠牲となり,生き残れたのは15歳以下の男子と婦女子の約230名だけだった。
→台湾
執筆者:戴國 煇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
台湾の少数原住民族(中国語圏では、「先住民」に「今は存在しない」という意味があるため、「原住民」が用いられる)の抗日反乱事件。1930年(昭和5)10月27日、台中(たいちゅう)州能高(のうこう)郡霧社(現南投(なんとう)県仁愛郷)一帯のタイヤル族6部落300余名が、マヘボ部落のモーナ・ルーダオの指揮で一斉に蜂起(ほうき)し、奥地の警察官駐在所を襲撃、ついで霧社公学校の運動会開催中を襲い、日本人134名を殺害した。漢民族の犠牲者は流れ弾に当たったものと日本人と誤認されたもの計2名で、計画的な反日蜂起であった。台湾総督府は鎮圧のため警察官ら2700余人を投入、台湾軍からも1000人以上が出動して、激しい掃討戦を繰り広げた。反乱側の士気はきわめて高く、統制もとれ、天険にたてこもって最後まで抵抗を続けたが、11月末になって力尽き、モーナ・ルーダオらの自殺でようやく鎮定された。掃討戦には山砲、機関銃、飛行機などが用いられ、毒ガスも使われた疑いが濃い。
台湾総督石塚英蔵(えいぞう)、総務長官人見次郎、警務局長石井保らが責任を問われて翌31年1月辞任するなど、事件の波紋は大きかった。また反乱に加わった部落は、同年4月、別の部落に襲撃され(第二霧社事件)たすえ、5月遠隔地に強制移住させられた。蜂起の原因は、日常的差別待遇、過酷な出役労働、低賃金と警察官によるその着服などへの不満が主であった。長期にわたる日本の強圧的な民族政策で土地を失い、行動を制限されてきたことへの不満がその背景をなしていた。
[岡部牧夫]
『戴國煇編著『台湾霧社蜂起事件』(1981・社会思想社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
日本植民地期の台湾先住民タイヤル族の蜂起。過酷な理蕃(りばん)政策への反発から,1930年10月モーナ・ルーダオを指導者とするタイヤル族霧社蕃300余名が霧社の警察官吏駐在所や公学校を襲撃,日本人130余名を殺害した。台湾総督府は軍,警察や霧社蕃と対立するタイヤル族を動員,12月までに鎮圧した。モーナ・ルーダオは11月に自殺し,蜂起側の戦死者,自殺者は639人に達した。31年,投降者も収容所で対立するタイヤル族によって虐殺された。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
日本の支配に対する台湾先住民族の武装蜂起事件。1930年(昭和5)10月27日未明,台湾台中州霧社の先住民部落11社のうち6社がモーナ・ルダオを指導者にして,警察駐在所や霧社公学校を襲い,日本人134人(ほかに日本人と誤認された漢族2人)を殺害,蜂起した。石塚英蔵総督は警官隊を動員する一方,台湾軍出動を要請,近代兵器を用いてこれを鎮圧。翌年4月25日能高郡警察課長は親日的な味方蕃を使嗾して,投降後収容中の保護蕃を襲撃させ,無防備の210人を殺害させた。これが第2霧社事件で,広義には霧社事件に含まれる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加