家庭医学館 「非細菌性市中肺炎」の解説
ひさいきんせいしちゅうはいえん【非細菌性市中肺炎】
細菌以外の微生物によっておこる肺炎です。市中肺炎をおこす細菌以外の微生物は、マイコプラズマ、クラミジア、ウイルスなどです。これらの微生物に感染している人の鼻水や唾液(だえき)が飛び散って空気中にただよう飛沫(ひまつ)によって感染する(空気感染)ことが多いのですが、いわゆるオウム病のように、鳥から人にうつることもあります。
昔よくみられた細菌性肺炎とは、症状や病像(びょうぞう)がちがうため、異型肺炎(いけいはいえん)ともいわれます。
[症状]
発熱とせきが、もっともよくみられます。せきは激しいことが多く、細菌性肺炎とちがって膿のようなたんがみられることはあまりありません。頭痛や筋肉痛、関節痛など、肺以外の症状がみられるときがあります。病気が進むと呼吸困難になります。
[検査と診断]
血液を調べると、細菌性肺炎とちがい、白血球(はっけっきゅう)の増加ははっきりせず、正常範囲であることが多いようです。
マイコプラズマ肺炎やクラミジア肺炎では、血液中に肝臓の酵素(こうそ)が増えていることがあります。これらの微生物は肺の間質(かんしつ)に炎症をおこして広がるので、胸部X線写真には「スリガラス様」と形容される淡い陰影がみられます。
肺胞と毛細血管の間をつないでいる間質は、炎症により肥厚していきますが、そうなると肺胞から血液中に酸素がいきにくくなるため、X線写真の陰影がうすいにもかかわらず、低酸素血症(ていさんそけっしょう)となって重症になることがあります。
マイコプラズマ、クラミジア、ウイルスは、ふつう、たんや血液から培養するのがむずかしく、診断は血液中の抗体が増えていることを調べて行なわれます。
病気の初期には、抗体の産生が目立ちませんから、2~3週間後に再度検査する必要があります。そのため、診断がつくのは、肺炎がよくなってからということがほとんどです。そのため、初期には症状や、いろいろな所見によって、これらの肺炎を疑って治療することになります。
以下、代表的な非細菌性肺炎について述べます。
■マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマという微生物によっておこる肺炎で、4年ごと、それもオリンピックの年に流行することで有名ですが、最近はこの周期性は崩れてきています。
健康で比較的若い人におこる肺炎のうち、もっともよくみられる肺炎です。飛沫によってうつるので、同じ家族のなかで複数の患者さんが出ることがあります。
せきと発熱がおもな症状です。せきはかなり激しく、鎮咳薬(ちんがいやく)(せき止め)ではなかなか治まりません。ふつうは治療すればよくなるのですが、ときに中耳炎(ちゅうじえん)や髄膜脳炎(ずいまくのうえん)、皮膚や神経の異常などをともなうことがあります。
■クラミジア肺炎
クラミジアという微生物による肺炎です。肺炎をおこすクラミジアは3種類知られていますが、成人に肺炎をおこす重要なものは、クラミジアシッタシとクラミジアニューモニエです。
クラミジアシッタシは、いわゆるオウム病をおこす原因となる微生物で、鳥類(インコ、オウム、ハト)に感染します。これらの鳥の排泄物(はいせつぶつ)が乾燥して塵(ちり)として空気中にただよい、クラミジアをふくんだこの塵を吸い込むことによって肺炎がおこります。
症状は、高熱や全身倦怠(ぜんしんけんたい)(だるさ)などで、ときに呼吸困難や出血傾向(血液が固まりにくくなって出血しやすくなる)がみられ、重症化することがあります。頭痛や筋肉痛、関節痛をともなうことが多いといわれています。
クラミジアニューモニエは、近年発見された新種で、成人の市中肺炎の数パーセントがこれによっておこるといわれています。ふつうは、オウム病に比べて自覚症状は軽いことが多いのですが、他の病気をもっている人では重症となった例も報告されています。
■ウイルス肺炎
インフルエンザウイルスやパラインフルエンザウイルスなどのウイルスは、上気道に炎症をおこし(かぜ症候群)、つづいて細菌性肺炎を併発しやすいのですが、ウイルス自体が肺炎をおこすことがあります。これがウイルス肺炎です。
乳幼児に多くみられますが、まれに成人にもおこります。成人になって初めて水痘(すいとう)やはしかにかかると、これらによる肺炎をおこすことがあります。
ウイルスに有効な薬剤は現在のところかぎられているため、治療は解熱(げねつ)やせきを鎮めるといった症状を抑える対症療法と、細菌性肺炎の続発を予防することが中心になります。