日本大百科全書(ニッポニカ) 「インコ」の意味・わかりやすい解説
インコ(鳥)
いんこ / 鸚
音呼
parrot
parakeet
lory
鳥綱オウム目の鳥。オウムとインコは主として外観上の違いにすぎないが、小形のもの、および大きさに関係なく全身が緑や赤など鮮やかな色彩に富み、尾が長いものを一般に「インコ」とよぶ。これに対し、大形または中形で尾が短く、羽冠の発達しているものを「オウム」とよんでいる。「インコ」はヒインコ科とインコ科に、「オウム」はオウム科にほぼ相当するが、モモイロインコ、オカメインコはオウム科であり、ケアオウム(別名ミヤマオウム)とフクロウオウムはインコ科に属するなど例外があり、「オウム」型のヨウムもインコ科に分類される。「オウム」の種類は20種たらずであり、「インコ」とよばれる種のほうが圧倒的に多い。
インコ類は大きさ、色彩ともに多型的で、カラス大の大形種からスズメ大の小形種まであり、尾はくさび状のものが多く(角尾もある)、中央尾羽はとくに伸長したり変形したりする。翼は尖翼(せんよく)形が多く、飛翔(ひしょう)は迅速である。羽色は赤と緑の原色を主とし、黄、黒、青、紫、ときに白色を交え、美麗な種が多い。雌雄は一般に同色であるが、特例として、ニューギニア島産のオオハナインコ(雄の名)Larius roratusは、雄は緑色、雌は赤色型でオオムラサキインコの名をもつ。声は一般に甲高く、鳴き騒ぐものがあるが、オーストラリアのビセイインコPsephotus haematonotusだけは羽色が美しいだけでなく、玉のような美声の持ち主である。オウム類に劣らず人語もまねるものに、西アフリカのヨウムPsittacus erithacusや熱帯アメリカのボウシインコの類(Amazona属、種類が多く、アカボウシインコ、アオボウシインコ、キボウシインコなど27種)があるが、これも大形、角尾でオウム型である。しかし、オーストラリア原産のセキセイインコMelopsittacus undulatusなども単独で子飼いのものは人語をまねるものがある。これらの種はみな群性(社交性)が強く、大群をつくり、互いに鳴き交わして生活するが、人に単独で飼われると、その「社交性」が満足されず、人を「鳴き相手」として人語をまねるようになる。一般に鳥類は生来のさえずりのほかに、親の歌、近隣の同種、他種のさえずりなども取り入れて歌う習性をもっているのである。
[黒田長久]
生態と種類
インコ類は世界の熱帯地方と南半球、とくにオーストラリア区に多産し、森林性であるが、草地群生性、地上性、少数の高山性、夜行性の種類もある。ヤマムスメインコOreopsittacus arfakiやオナガパプアインコCharmosyna papou、タカネインコNeopsittacus musschenbroekiiはニューギニア島の高山、アポインコTrichoglossus johnstoniaeはフィリピンの高山アポ岳にすみ、チベット高地にはオオダルマインコPsittacula derbyana、ギアナ高地にはミドリスズメインコNannopsittaca panychloraとユウギリインコBolborhynchus aymara、エチオピア高地に、キビタイハネナガインコPoicephalus flavifronsがあり、ニュージーランド高山にケアオウムNestor notabilisがすむ。ニュージーランドの降雨林にすむインコ科のフクロウオウムStrigops habroptilus(国際保護鳥)は夜行性で、かつ地上性である。オーストラリアのヒメフクロウオウムGeopsittacus occidentalisとキジインコPezoporus wallicusも草地や地上にすみ、走るのが速く、夜行性(とくに前者)で、前種は国際保護鳥である。そのほか、キキョウインコNeophema pulchellaの類(オーストラリア産)や前出のビセイインコ類は主として地上で草の実などを食べ、セキセイインコも地上採餌(さいじ)性であり、砂漠地にすみ、きわめて少量の飲水量で生活できる。インコ類は留鳥で、季節移動はするが、オーストラリアのワカバインコNeophema chrysostomaやオトメインコLathamus discolorはタスマニア島へ200マイルの海上を渡り、後者の飛翔はとくに速く、swift parrotの名がある。
食物は木の実、果実がもっとも多く、地上性の穀食のものもある。フクロウオウムはシダの根、草の芽、コケ、地衣や昆虫も食べる。ニューギニア島、ソロモン諸島に分布しインコ類中最小のケラインコ類Micropsittaは足指が長く、木の幹をゴジュウカラのように走り、尾の羽軸が針状で体を支える。この類も幹の地衣を食べ、実や種子のほか昆虫や幼虫も食べる。一方、ヒインコ科の種類は花蜜(かみつ)、花粉、果物食で、舌の構造も特殊化しており、別科に扱われ、その羽色に赤系統がとくに多いのは花擬色の進化かも知れない。代表的ヒインコ類はヒインコ(Eos属6種)やセイガイインコ(Tricoglossus属10種)で、スラウェシ(セレベス)島からオーストラリアに多産する。巣は、大部分は樹洞やキツツキなどの巣穴を補修して利用したりするが、オーストラリア、ニューギニア地方のイチジクインコOpopsitta diophthalma、アカガオインコGeoffroyus geoffroyi、アカガシラケラインコMicropsitta bruijniiなどは自ら樹洞をうがつ。インドでは、分布の広いセネガルホンセイの1亜種ワカケホンセイ(別名ツキノワインコ)がニュー・デリーなど都市にも多く、家の軒下や壁にも穿孔(せんこう)営巣する。ホンセイインコ属Psittacula14種はボルネオ島からアフリカにかけて分布し、尾がきわめて長く、全長は30~58センチメートルに達する。森林性で群れをつくることが多く、南アジア産のオオホンセイP. eupatriaやダルマインコP. alexandriなどじょうぶな飼い鳥である。また前述のケアオウムやフクロウオウムは木の根元や岩間など地中の穴を巣とし、南アメリカ産のパタゴニアイワインコCyanoliseus patagonicusやミドリズアカインコAratinga wagleri、オーストラリアのイワクサインコNeophema petrophilaは河岸や沿岸(イワクサインコは島の絶壁)の土質または岩の崖(がけ)に深い横穴を掘り、コロニーをつくって繁殖する。しかし全般に巣材を用いる種類は少ない。ただアフリカ産のボタンインコ類Agapornisは樹皮、草などの巣材を用い、とくにコザクラインコA. roseicollisは巣材を嘴(くちばし)で上手に細長く切り(飼育下では紙を)それを嘴で巧みに背の羽毛の間に差し入れて巣に運ぶ。この属には9種あり、雌雄で体を寄せ合い嘴を触れ合うことが多く、ラブバードlove birdとよばれる。前記のコザクラインコをはじめ、カルカヤインコ、ハツハナインコ、ボタンインコなど、飼い鳥として親しまれているものが多い。また、ただ1種南アメリカ産のオキナインコMyiopsitta monachusは、かなり太い枝を用いて数つがいで巨大な樹上巣をつくり、共同繁殖をする。動物園でもこの習性がみられる。
インコ類の1腹卵数は2~8個、通常4~5個までで、卵は白色球状、抱卵は17日(小形種)から23日(大形種)ぐらいであるが、最大のコンゴウインコ類では35日に及ぶという。雌がおもに抱卵し、雄が交代する種類もある。雛(ひな)は晩成性で裸、閉眼で孵化(ふか)する。
オウム、インコ類は嘴と足指を上手に用いて枝をよじ登り、食物を片足でうまくつかみ(その右利き、左利きもある)、嘴でかじる。また、行動学的な実験でカラスに劣らぬ成績を示し、大脳構造のうえからも鳥類中で優れている。
[黒田長久]
人間との関係
紀元前からヨーロッパで飼われた記録があるが、飼い鳥としては1840年イギリスの鳥類学者ジョン・グールドJ. Gould(1804―1881)がセキセイインコをオーストラリアから持ち帰ったのに始まる。1872年野生群に黄色、青色の変異が発見され、1910年以来飼い鳥として繁殖が盛んとなり、その後大形セキセイ、まだら品種などが作出された。その他の種も飼い鳥として多く飼われ、大形種は30年以上、最長は80年ぐらいも生きた例がある。飼い鳥としてじょうぶであるが、蜜食のヒインコ類やサトウチョウ(頭を下にして、ぶら下がって休む習性がある)の類などは餌(えさ)のくふうが必要である。
[黒田長久]
『黒田長禮著『世界のオウムとインコ』(1967・日本鳥学会)』▽『黒田長禮著『世界のオウムとインコ図鑑』(1975・講談社)』▽『黒田長久監修『原色飼鳥図鑑 第1巻』(1982・ペットライフ社)』