家庭医学館
「かぜ症候群」の解説
かぜしょうこうぐんふつうかんぼう【かぜ症候群(普通感冒) Cold Syndrome(Common Cold)】
◎人類がもっともよくかかる病気
[どんな病気か]
◎さまざまな症状が現われる
[症状]
◎治療は一般療法と対症療法で
[治療]
[どんな病気か]
かぜ症候群(かぜ)は、急性の鼻、のど、喉頭(こうとう)の、分泌物(ぶんぴつぶつ)をともなう粘膜(ねんまく)表面の(カタル性の)炎症で、ふつうは自然に治りますが、ときに気管、気管支、肺におよぶこともあります。
かぜは人類がいちばんよくかかる病気で、1年間に子どもでは7回、おとなは4回ほどかかります。こじらせると別の病気をともない(合併症)、また、かぜとそっくりの症状をみせる重い病気もあるので軽視できません。
安静にして、合併症をおこさないよう気をつけ、かぜらしくない症状があったり、長引くときは、医師に相談することがたいせつです。
かぜの原因のほとんど(90%)はウイルスです。かぜのウイルスは、人から人に感染して、はじめて症状をおこします。以前からすみついていたウイルスが寒さや疲労によって暴れ出すわけではありません。
かぜウイルスには9種類あることがわかっています(「かぜ症候群をおこすウイルス」)。
ほかに、レンサ球菌(きゅうきん)などの細菌やマイコプラズマなどもかぜをひきおこします。頻度は全体の10%ほどです。
[症状]
鼻汁(びじゅう)、鼻づまり、のどの痛み、声がれ、せき、たん(透明か白色)などの呼吸器の症状に加えて、発熱、からだのだるさ、頭痛、食欲の低下など、全身症状が出る場合もあります。このほか、結膜炎(けつまくえん)や胃腸炎(いちょうえん)の症状が出ることもあります。
●かぜ症候群の特徴
かぜの症状は、かかる年齢や原因ウイルスによって、いろいろな特徴があります。
■インフルエンザ
インフルエンザウイルスが感染して、高熱と全身症状につづいて鼻炎(びえん)、咽頭炎(いんとうえん)が現われます。肺炎をひきおこすなど重症化したり、慢性の病気をもっていると急に悪化させたりすることがあります(「インフルエンザ」)。
■上気道炎(じょうきどうえん)
上気道(鼻、のど、喉頭など空気の通り道の前半部)のカタル性の炎症がおもで、症状の強く出る部分によって、鼻かぜ、のどかぜなどと呼ばれます。
鼻(はな)かぜ(急性鼻炎(きゅうせいびえん)) くしゃみや鼻水が現われ、鼻水は、サラサラした水ばなのようなものから、粘りのあるものになり、さらに膿(うみ)のようになることもあります。また、鼻水に鼻の奥の粘膜(ねんまく)の腫(は)れが加わって、鼻づまりがおこります。ほとんどのかぜウイルスは、こうした鼻炎の症状をおこします。
よく、かぜにともなう病気として急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)(「急性化膿性中耳炎」)、急性副鼻腔炎(きゅうせいふくびくうえん)(「急性副鼻腔炎」)などがあります。これらはウイルスが感染したところに、さらに細菌が感染すること(細菌の二次感染)でひきおこされます。
のどかぜ(急性咽頭炎(きゅうせいいんとうえん)) のどの粘膜が炎症で赤く腫れ、痛みます。くびにあるリンパ節が腫れることもあります。子どもがコクサッキーウイルスに感染すると、のどの粘膜にポツポツと水疱(すいほう)ができて高熱を出すことがあり、これをヘルパンギーナといいます。
また、ウイルスでなくレンサ球菌で急性咽頭炎がおこることもあります。
喉頭炎(こうとうえん) のどのさらに奥、声帯(せいたい)の部分に炎症がおこると喉頭炎になり、声がれが生じます。
クループ 声帯の周囲が炎症をおこして喉頭が狭くなり、息を吸うときに強くなるゼーゼー音(喘鳴(ぜんめい))、声がれ、イヌがほえるようなせきがみられる病気で、呼吸困難をおこします。2歳以下の幼児が、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスに感染するとおこる病気です。
■下気道炎(かきどうえん)
下気道(気道の奥の部分、つまり気管、気管支、肺)の炎症です。せき、たん、ゼーゼーいう喘鳴、呼吸困難、胸痛などが現われます。
ほとんどはインフルエンザウイルスの感染でおこりますが、RSウイルス、ライノウイルスでもおこります。下気道炎をおこすほど重くなったら、医師の診察と治療が必要です。
■咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)
プール熱(ねつ)ともいい、アデノウイルスに感染した子どもによって汚染されたプールの水から感染し、結膜炎と悪寒(おかん)(ゾクゾクする寒け)をともなう発熱、咽頭炎が特徴です。
[治療]
今のところ、かぜのおもな原因であるウイルスを直接たたく治療はないので、体力の消耗を防ぎ自然な治癒力(ちゆりょく)に期待する安静など一般療法と、一つひとつの症状を抑える対症療法とによって、治るのを待つほかありません。
●かぜの一般療法
安静、保温、保湿、水分の補給、消化のよい食事による栄養補給が、かぜをこじらせず、すみやかに自然に治すもっともよい方法です。
とくに冬のかぜのウイルスは、高い温度と湿度に弱いので、部屋の温度を20℃以上に、湿度を50%以上に保つとよいでしょう。脱水症状をおこしやすい子どもやお年寄りは、水分の補給がとくにたいせつです。喫煙や飲酒は炎症を悪化させるので避けましょう。
●かぜの対症療法
①発熱や筋肉痛、関節痛
解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)でやわらげることができますが、氷まくらなどを使って冷やすと効果があることもあります。子どものかぜにアスピリンを使うとライ症候群(しょうこうぐん)(コラム「ライ症候群」)をひきおこすことがあるので、ふつうアスピリンは使いません。
また、アスピリンぜんそく(「ぜんそく(気管支ぜんそく)」のアレルゲンの減少が治療の基本)をおこす人は、解熱鎮痛薬でぜんそく発作(ほっさ)をおこすことがあるので、医師に相談する必要があります。
②鼻づまり、鼻水
抗ヒスタミン薬がよくききます。ただし眠けをもよおしたり、口が乾いたり、たんの粘りを増して、きれを悪くすることがあります。直接に鼻の粘膜にふきつける点鼻薬(てんびやく)は、粘膜の血管を収縮させて腫れをひかせ、鼻づまりをとりますが、使いすぎは危険で、かえって悪くなり、薬もききにくくなることがあります。はねかえり現象またはリバウンド現象と呼ばれます。
③せき、たん
からせきには、鎮咳薬(ちんがいやく)(せき止め)がきき、副作用の少ない非麻薬系の薬が処方されます。たんがあるときは、せき止めを飲むと、かえってたんがつまることもあるので、去痰薬(きょたんやく)(たんきり)が処方されます。また、十分な水分をとると、たんのきれがよくなります。
●かぜに抗生物質はきくか
抗生物質は、かぜが自然に治るのを速めることもなく、二次感染を防ぐこともできません。抗生物質はウイルスにはきかず、すべての細菌にきくわけでもありません。むしろ、からだの中でよいはたらきをしている細菌を殺し、その細菌がいたおかげで入れなかった別の細菌(こちらは、その抗生物質がきかない)を侵入しやすくしてしまう危険があります。
●総合感冒薬(かぜ薬)で治るか
かぜ薬とは、鎮痛解熱薬、抗ヒスタミン薬(痛みや炎症に関係する物質、ヒスタミンのはたらきを抑える薬)、鎮咳薬の3種類の成分を中心に、気管支拡張薬(気管支を広げる薬)、去痰薬(たんきり)、抗炎症酵素(こうそ)、カフェイン、ビタミンなどを配合したものです。
ウイルスにはききませんが、自然に治る間、症状を抑え、できるだけ楽に過ごすことができます。
●かぜにきく薬はあるか
抗ウイルス薬として、インフルエンザAには、アマンタジンやリマンタジンがあります。RSウイルスにはリバビリンが有効です(日本でもアマンタジンの処方が認められました)。
マイコプラズマなどの病原体でおこるかぜ症候群には、マクロライドやテトラサイクリン系の抗生物質がききます。ただし、かぜとして自然に治る状態であるならば、このような薬による治療は必要ありません。
●どんなときに診察を受けたらよいか
かぜのような症状が、いろいろな病気の初期の症状であったり、症状の一部分であることがあります。また肺炎などの合併症をひきおこしたり、もともとあった慢性の病気を急に悪くすることもあります。
症状が激しく重いとき、発疹(ほっしん)や関節の腫れ、むくみ、息切れなど、かぜ症候群以外の症状があるとき、症状が1週間以上続くか、何度もくり返すときには医師の診察が必要です。
●かぜに注意しなければならない人
慢性の病気がある人(表「インフルエンザによる重症化や合併症の可能性の高い人」)は、かぜがこじれやすく、もとの病気を急に悪化させるおそれもあります。また子ども、お年寄り、妊娠中の女性も、特別の注意が必要で、かかりつけの医者に早めにみてもらう必要があります。
子どもの場合 子どものかぜの症状は、とくに、いろいろな病気の初期と区別がつきにくいものです。また乳幼児は、自分で症状を訴えることができないので、保護者が観察して、覚えておかなければなりません(「子どものかぜ症候群」)。
症状の目安でたいせつなのは「きげんがよいか、悪いか」をみることです。
子どもに独特の事故として耳、鼻、のどに異物(あるべきでないところへ入った物)が入ることがあり、症状が長く続いて激しい場合(のどの場合、せきや呼吸困難など)は、専門的な処置が必要です。
子どもは、かぜにともなって、クループ(2歳以下)や気管支炎などの呼吸器の病気、髄膜炎(ずいまくえん)、ライ症候群のような重大な合併症をおこすこともありますから、「かぜだから」と油断しないで、保護者が観察をおこたらないことがたいせつです。
お年寄りの場合 お年寄りは、からだのいろいろなはたらきが弱くなっています。このため、かぜをこじらせやすく、合併症や薬の副作用が現われやすいものです。慢性の病気をもっていることも多く、急に悪くなることがあります。また、肺炎など重い合併症がともなってきても、発熱などの症状がはっきりしないこともあります。
妊娠中の女性 妊娠は母体の心臓や肺への負担を増します。子宮が横隔膜(おうかくまく)を押し上げるので、たんを吐(は)き出す力が弱まります。妊娠中の女性のかぜは長引き、こじれやすいといえます。また、薬の胎児(たいじ)への影響も考えなければなりません。ほとんどのかぜ薬は、胎児に対して安全かどうかの十分な調査がされていませんから、やむをえないときに必要なだけ使うようにすべきです。ただし、強いせきは、おなかに強い圧力をかけて早期破水(そうきはすい)をひきおこすことがあるので、医師とよく相談して比較的安全なせき止めを処方してもらうといいでしょう。
ふつうのかぜは、妊娠の経過や胎児に大きな影響はありません。たいせつなのは、かぜをこじらせないこと、何かあったらすぐ受診することです。
出典 小学館家庭医学館について 情報
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かぜ症候群
かぜしょうこうぐん
鼻、のど、気管支などの呼吸器粘膜の急性炎症性疾患を総括したもので、炎症はいろいろな病因によっておこるが、いずれにしても臨床症状および経過に共通点が多く、臨床的にはその病因まで推測しえないので、いくつかの病型を一括して「かぜ症候群」として扱われることが多い。
いわゆる「かぜ」は風邪とも書き、邪気を含んだ風の意で、古来、その風が通過する部位、すなわち呼吸器系疾患の総称として使われてきた。また、寒冷刺激によるものを寒冒、さらに細菌感染が加わったものを感冒、ウイルスによるものをインフルエンザと使い分けたこともあったが、現在は使われない。すなわち、寒冷刺激だけで発病することはほとんどなく、なんらかの病原の感染によっておこるほか、病原としてはウイルス、マイコプラズマ、クラミジア(オウム病病原体)、細菌などがあり、かぜ症候群の80~90%がいろいろなウイルスによることもわかり、使い分けの意味を失った。
一般にかぜ症候群は、ときに合併症(肺炎、中耳炎、副鼻腔(ふくびくう)炎など)をおこすが、これさえなければ1週間ぐらいで自然治癒する傾向が強い。したがって、かぜの症状が2週間も続く場合は、別の疾患を疑ってみる必要がある。また、症状は同じようでも異なる病原ウイルスによる「ひきなおし」のため長引くこともある。
なお、病原ウイルスの診断は容易でなく、それが確認されるころには治癒している場合が多く、また有効な抗ウイルス剤もないので、臨床的には鼻炎(普通感冒)、咽頭(いんとう)炎、咽頭結膜熱、喉頭(こうとう)炎、気管支炎、肺炎など、部位別の炎症名でよばれている。
[柳下徳雄]
かぜの症状は、くしゃみ、鼻汁、鼻閉(鼻づまり)、咽頭痛、嗄声(させい)(かれ声)、咳(せき)、痰(たん)などの呼吸器症状を主にして、発熱、頭痛、腰痛、倦怠感(けんたいかん)などの全身症状や、食欲不振、悪心、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの消化器症状を伴うことがある。病原が異なっていても症状には共通点が多く、とくにかぜ症候群にみられるといった症状や病原による特徴的な症状もない。しかし、詳細に観察すれば、冒された部位によって特徴がみられ、いくつかの病型に分類することもできる。
(1)鼻が冒された場合 いわゆる「鼻かぜ」であり、病型的には普通感冒とよばれる。現在では単に「かぜ」といえば、これをさす。約1週間、急性鼻炎の症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉など)が顕著であり、ほかに咽頭痛や咳などの呼吸器症状、発熱や倦怠感などの全身症状があっても、いずれも軽度のものである。
(2)咽頭が冒された場合 俗に「のどかぜ」とよばれるもので、病型的には咽頭炎である。咽頭粘膜が赤くなり、乾燥していがらっぽく、咳も出る。発熱や頭痛などもみられるが、咽頭痛をもっとも強く訴える。軽症の場合から重症例までいろいろあるが、特徴的な咽頭所見を呈するもの(おもにコクサッキーウイルスによるヘルパンギーナなど)もある。
(3)扁桃(へんとう)が冒された場合 扁桃が赤く腫(は)れたり、白い膿(のう)が付着して激しくのどが痛む。高熱を出し、全身の関節痛や筋肉痛、頭痛や腰痛などがみられるが、咳は出ない。病原は連鎖球菌の場合が多く、症状もやや特異であり、扁桃炎として別に扱われることもある。
(4)喉頭が冒された場合 鼻炎や咽頭炎に続発することが多く、声を出す部分が冒されるので声がかれ、ときには声が出なくなることさえある。小児では呼吸困難をおこすことが多く、イヌの遠ぼえのような咳をする。病型的にはクループとよばれ、熱はないか、あっても軽く、全身症状も同様である。
(5)咽頭結膜熱 のどと目が冒されるのが特徴で、発熱、だるさ、頭痛、鼻汁、咳などのほか、咽頭炎によるのどの痛みと、目の結膜炎をおこすことが、ほかの病型と異なる。病原はアデノウイルスで、アデノウイルス感染症として別に扱われることもある。
(6)気管支や肺が冒された場合 ともに咳や痰が出るほか、呼吸困難や胸痛、発熱などがみられる。原因が細菌性の肺炎では、抗生物質が有効であり、クラミジア肺炎(オウム病)やマイコプラズマ肺炎にも有効な抗生物質がある。ウイルスによる肺炎は、咳が激しいほかは一般に軽症で、かぜとして扱われる場合が多い。X線検査で診断される。気管支炎も、小児の場合は毛細気管支炎になり、重症の経過をとることもある。
(7)インフルエンザ 呼吸器症状のほか、高熱、頭痛、腰痛など全身症状が顕著で重症が多く、また伝染性が強いことが特徴である。
[柳下徳雄]
病原がウイルスであることが多いので、治療はもっぱら対症療法に終始する。初期ならば温かい飲食物をとって早く就寝し、安静を守るのがもっともたいせつである。市販のかぜ薬は抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤が主で、一時的に症状を軽減させるが、かぜ症候群は薬で治るものではない。約1週間で自然治癒することが多いが、合併症をおこさないように安静にし、長引く傾向がみられたり、熱が高くなった場合は、医師の診療を受けることが望ましい。
予防としては、インフルエンザ以外は予防ワクチンがないので、一般的には、誘因となる過労や寝不足を避け、うたた寝や入浴後の湯冷めなどをしないようにする一方、普段から乾布摩擦などで皮膚を鍛えておくのもよい。
[柳下徳雄]
50種にも上るが、おもなものはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルスrespiratory syncytial virusおよびライノウイルスrhino virusであり、そのほかエコーウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルスのある種の型やパラインフルエンザウイルスなどがあげられる。ただし、一般に、伝染病の場合は腸チフス菌は腸チフスをおこすというように病原体と症状(病名)が対応するのが普通であるが、かぜの場合はかならずしも対応するとは限らない。たとえば、ライノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなど多くの病原ウイルスが同じようなかぜの症状(普通感冒)をおこすが、そのうちのアデノウイルスだけは咽頭結膜熱や肺炎をおこすこともある。また、インフルエンザウイルスはインフルエンザをおこすが、アデノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルスでもインフルエンザと類似した症状を呈し(インフルエンザ様疾患)、その症状からは区別できないことがある。
[柳下徳雄]
『加地正郎編『内科シリーズ33 かぜ症候群のすべて』(1978・南江堂)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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かぜ症候群(感染症)
概念・定義
かぜ症候群とはおもにウイルスなどによって起こる上気道の急性炎症であり,咳,咽頭痛,鼻汁,鼻づまりなど局部症状(カタル症状),および発熱,倦怠感,頭痛など全身症状が出現した状態のことである.病因は80~90%はウイルスによるものとされる.かぜ症候群は,病因は異なっていてもその臨床像には共通点が多いが,インフルエンザはより重症で感染性も強く診断と治療に特別な対応が必要である.
分類
1)インフルエンザ:
突然に発症し,38~39℃以上の発熱,頭痛,倦怠感,関節炎などの全身症状を強く訴え,呼吸器症状や消化器症状がみられる.合併症を伴わない限り,1週間前後で軽快する.
2)普通感冒:
鼻炎症状が主体で,全身症状はほとんどない軽症の型で,かぜ症候群の中で最も普遍的なものである.
3)咽頭炎:
咽頭痛を主症状とし,咽頭粘膜の発赤,腫脹,灰白色の滲出物を認め,頸部リンパ節は腫脹し圧痛を伴う.
原因・病因
インフルエンザウイルス以外にライノウイルス,コロナウイルス,アデノウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,エンテロウイルス(コクサッキー,エコー)がある.
疫学
インフルエンザのわが国での発生は,毎年11月下旬〜12月上旬頃から始まり,翌年の1~3月頃にそのピークを迎え,4~5月にかけて終息する.インフルエンザウイルスは変異を繰り返しながら流行するのが特徴であり,いままでのおもなパンデミック(世界的な流行)として,1918年のスペインかぜ(H1N1,世界で約4000万人,わが国で約39万人が死亡),1957年のアジアかぜ(H2N2),1968年の香港かぜ(H3N2/HongKong),1977年のソ連かぜ(H1N1/USSR),そして2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)がある.
臨床症状
1)自覚症状:
くしゃみ,鼻汁,鼻閉,咽頭痛,嗄声,咳,痰などの呼吸器症状とともに,さまざまな全身症状,すなわち発熱,全身倦怠感,食欲不振,頭痛,腰痛なども訴える.その他,悪寒,嘔吐,腹痛,下痢などの消化器症状を伴うこともある.
2)他覚症状:
上気道粘膜の発赤,腫脹,粘液分泌亢進などを認める. インフルエンザでは突然に発症し,38~39℃以上の発熱,頭痛,倦怠感,関節炎などの全身症状を強く訴え,呼吸器症状や消化器症状がみられる.
検査成績
1)一般検査所見:
①血液検査ではほとんど異常を認めず,あっても赤沈の軽度亢進,CRP軽度陽性などの炎症所見が得られるが,WBCはほぼ正常範囲にある.②胸部X線では異常を認めない.陰影が出現した場合は単独あるいは合併した肺炎を考える.
2)特殊検査所見:
1)ウイルスの分離:
咽頭拭い液,うがい液,痰などを材料として,ウイルスの分離を試みる.通常は行わない.
2)血清学的検査:
急性期,回復期に採取したペア血清について,赤血球凝集抑制試験,補体結合試験などにより特異抗体価を測定する.通常は行わない.
3)インフルエンザ迅速検査:
約20分以内に結果が出るインフルエンザ抗原検出キットがあり,A型とB型が同時に判定できる.一般に鼻腔拭い液のほうが咽頭拭い液より感度にすぐれる.またA型のほうがB型より感度が高く,小児のほうがウイルス量が多いため感度は高い.また発症からの時間では24~48時間が最も高く約80%である.
4)遺伝子検査:
必要に応じて咽頭拭い液を材料にし,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法を用いてウイルスゲノムを検出する.
診断
通常は,臨床症状と経過から診断することが多い.インフルエンザが疑われる場合は迅速検査を行う.
鑑別診断・合併症
1)溶血連鎖球菌などの細菌性上気道炎:
急性扁桃炎,急性喉頭蓋炎など:高熱,強い咽頭痛,扁桃の所見,気道閉塞症状(喘鳴など)から疑う.
2)急性気管支炎,気管支肺炎,肺炎:
咳,痰とくに膿性痰や呼吸困難,聴診上のcracklesなどから疑い,胸部X線検査から診断する.また合併症としても重要である.
経過・予後
かぜ症候群は自然に寛解することが特徴であるが,細菌による二次感染に注意する.その他副鼻腔炎,中耳炎,心筋炎,心膜炎,脳症,神経炎などの合併症も念頭におく必要がある.
インフルエンザも合併症を伴わない限り,1週間前後で軽快する.季節性インフルエンザの感染者数は,国内で推定約1000万人であり,死亡者数では,年間214人(2001年)~1818人(2005年),2010年流行期の日本における新型インフルエンザによる死亡者数は57人であった(厚生労働省).
治療・予防・リハビリテーション
①かぜ症候群では通常は,安静を主体とした対症療法が治療の中心である.大部分がウイルス感染であり,基本的に抗生物質は使用しない.鎮痛解熱薬の安易な使用は腎機能障害などの危険があり,幼児や高齢者では慎重にする.②インフルエンザ:抗ウイルス剤による治療がある.現在使用可能な薬剤は,ザナミビル(リレンザ),オセルタミビル(タミフル),ペラミビル(ラピアクタ),ラニナミビル(イナビル)である.③細菌性肺炎などの合併が疑われるときは感受性の期待できる抗菌薬を用いる.④予防方法(予防接種):インフルエンザウイルス以外は実用化されていない.
現在はA型のH3N2とH1N1およびB型の3種のインフルエンザウイルスが,世界中で共通した流行株となっているので,原則としてインフルエンザワクチンはこの3種類の混合ワクチンとなっている.
禁忌
インフルエンザのとき,乳幼児のアスピリンなどの酸性解熱薬の服用は,脳炎,脳症の危険性が高まるとされ禁忌である.また,オセルタミビルは未成年服用者の異常行動例が報告され,因果関係は不明なものの,厚生労働省の通達により,10代患者への投与は事実上の禁忌とされている.[滝澤 始]
■文献
今冬のインフルエンザの発生動向~医療従事者向け疫学情報~ver.1 in 2011 厚生労働省(新型インフルエンザ対策推進本部/国立感染症研究所),2011.
日本感染症学会:日本感染症学会提言「抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版)」.日本感染症学会,http://www.kansensho.or.jp/ ,2011.
日本呼吸器学会:呼吸器感染症に関するガイドライン,成人気道感染症診療の基本的考え方,2003.
かぜ症候群(ウイルス感染症)
(2)かぜ症候群(common cold syndrome)
概念
かぜ症候群とは,気道の急性カタル性炎症性疾患の総称であり,呼吸器感染症のなかでは最も頻度が高い疾患である.1年間に成人では平均2〜4回,小児ではその倍以上の回数,罹患するといわれている.狭義には,主として鼻腔および咽喉頭などの上気道における急性炎症性疾患である普通感冒(common cold)とほぼ同義的に用いられているが,広義には,咳・痰などの下気道炎症状や,悪心・腹痛・下痢などの消化器症状を含めた全身性の症候群であるといえる.
病因
かぜ症候群は病原微生物の感染によって起こり,そのうち80〜90%はウイルスが,残りは一般細菌やマイコプラズマ,クラミジアなどが原因となる.寒冷,乾燥などの環境因子や,アレルギー,疲労,喫煙,免疫不全などの個体因子は,ウイルス感染の誘因としてかぜ症候群の発症に関与すると考えられている.
かぜ症候群を引き起こすウイルスのうち,最も頻度が高いのはライノウイルスで全体の約半数(30〜50%)を占めている.ついで,コロナウイルス(10〜15%),インフルエンザウイルス(5〜15%),RSウイルス(5%),パラインフルエンザウイルス(5%)などが多く,ほかに,アデノウイルス,メタニューモウイルス,コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス,などが原因となる.季節的には,ライノウイルスは春と秋に,エンテロウイルスは夏に,コロナウイルス,インフルエンザウイルス,RSウイルスなどは冬から初春にかけて流行する.
臨床症状
潜伏期間はウイルスによって若干異なるが,通常は12〜72時間である.主症状は,鼻汁,鼻閉,くしゃみ,咽頭痛(咽頭不快感)および咳である.頭痛や全身倦怠感を伴うことも少なくない.小児,特に乳幼児においては高熱を呈する場合もあるが,成人においてはインフルエンザの場合を除いて発熱は37℃台程度であることが多い.他覚的には鼻咽頭粘膜に発赤腫脹がみられる.ウイルスの種類によっては,悪心や下痢などの消化器症状がみられたり,細菌感染の合併がなくとも膿性の鼻汁や痰,膿栓や白苔を伴う咽頭痛がみられたりすることがある.通常,これらの症状はおよそ1週間の経過で自然に軽快するが,個体の状態によっては症状が遷延したり,気管支炎や肺炎などの下気道炎へと進展して喘鳴や呼吸困難がみられたりする場合がある.
診断
特異的な一般臨床検査所見はない.インフルエンザウイルスおよび小児のRSウイルス感染症に対しては抗原検出簡易迅速診断キットが有用である.ウイルス分離やPCR法などによる核酸検出,血清抗体価測定などは日常臨床で利用されることは少ない.
治療・予防
ウイルス性の場合,インフルエンザを除いて特異的な治療薬はなく,対症療法のみとなる.細菌による二次感染(副鼻腔炎・中耳炎など)がみられた場合には抗菌薬の投与を考慮する.予防に関しては,おもな感染経路は手指を介した接触感染や,くしゃみや咳による飛沫感染であるため,手洗いやマスクの着用が有用である.[藤井 毅]
■文献
Heikkinen T, Jarvinen A: The common cold. Lancet, 361: 51-59, 2003.
Turner RB: The common cold. In: Principles and Practice of Infectious Disease 7th ed (Mandell GD ed), pp809-813, Churchill Livingstone, New York, 2010.
Wat D: The common cold : a review of the literature. Eur J Intern Med, 15: 79-88, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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