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かぜ症候群 かぜしょうこうぐん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

かぜ症候群
かぜしょうこうぐん

鼻、のど、気管支などの呼吸器粘膜の急性炎症性疾患を総括したもので、炎症はいろいろな病因によっておこるが、いずれにしても臨床症状および経過に共通点が多く、臨床的にはその病因まで推測しえないので、いくつかの病型を一括して「かぜ症候群」として扱われることが多い。
 いわゆる「かぜ」は風邪とも書き、邪気を含んだ風の意で、古来、その風が通過する部位、すなわち呼吸器系疾患の総称として使われてきた。また、寒冷刺激によるものを寒冒、さらに細菌感染が加わったものを感冒、ウイルスによるものをインフルエンザと使い分けたこともあったが、現在は使われない。すなわち、寒冷刺激だけで発病することはほとんどなく、なんらかの病原の感染によっておこるほか、病原としてはウイルス、マイコプラズマ、クラミジア(オウム病病原体)、細菌などがあり、かぜ症候群の80~90%がいろいろなウイルスによることもわかり、使い分けの意味を失った。
 一般にかぜ症候群は、ときに合併症(肺炎、中耳炎、副鼻腔(ふくびくう)炎など)をおこすが、これさえなければ1週間ぐらいで自然治癒する傾向が強い。したがって、かぜの症状が2週間も続く場合は、別の疾患を疑ってみる必要がある。また、症状は同じようでも異なる病原ウイルスによる「ひきなおし」のため長引くこともある。
 なお、病原ウイルスの診断は容易でなく、それが確認されるころには治癒している場合が多く、また有効な抗ウイルス剤もないので、臨床的には鼻炎(普通感冒)、咽頭(いんとう)炎、咽頭結膜熱、喉頭(こうとう)炎、気管支炎、肺炎など、部位別の炎症名でよばれている。[柳下徳雄]

症状

かぜの症状は、くしゃみ、鼻汁、鼻閉(鼻づまり)、咽頭痛、嗄声(させい)(かれ声)、咳(せき)、痰(たん)などの呼吸器症状を主にして、発熱、頭痛、腰痛、倦怠感(けんたいかん)などの全身症状や、食欲不振、悪心、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの消化器症状を伴うことがある。病原が異なっていても症状には共通点が多く、とくにかぜ症候群にみられるといった症状や病原による特徴的な症状もない。しかし、詳細に観察すれば、冒された部位によって特徴がみられ、いくつかの病型に分類することもできる。
(1)鼻が冒された場合 いわゆる「鼻かぜ」であり、病型的には普通感冒とよばれる。現在では単に「かぜ」といえば、これをさす。約1週間、急性鼻炎の症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉など)が顕著であり、ほかに咽頭痛や咳などの呼吸器症状、発熱や倦怠感などの全身症状があっても、いずれも軽度のものである。
(2)咽頭が冒された場合 俗に「のどかぜ」とよばれるもので、病型的には咽頭炎である。咽頭粘膜が赤くなり、乾燥していがらっぽく、咳も出る。発熱や頭痛などもみられるが、咽頭痛をもっとも強く訴える。軽症の場合から重症例までいろいろあるが、特徴的な咽頭所見を呈するもの(おもにコクサッキーウイルスによるヘルパンギーナなど)もある。
(3)扁桃(へんとう)が冒された場合 扁桃が赤く腫(は)れたり、白い膿(のう)が付着して激しくのどが痛む。高熱を出し、全身の関節痛や筋肉痛、頭痛や腰痛などがみられるが、咳は出ない。病原は連鎖球菌の場合が多く、症状もやや特異であり、扁桃炎として別に扱われることもある。
(4)喉頭が冒された場合 鼻炎や咽頭炎に続発することが多く、声を出す部分が冒されるので声がかれ、ときには声が出なくなることさえある。小児では呼吸困難をおこすことが多く、イヌの遠ぼえのような咳をする。病型的にはクループとよばれ、熱はないか、あっても軽く、全身症状も同様である。
(5)咽頭結膜熱 のどと目が冒されるのが特徴で、発熱、だるさ、頭痛、鼻汁、咳などのほか、咽頭炎によるのどの痛みと、目の結膜炎をおこすことが、ほかの病型と異なる。病原はアデノウイルスで、アデノウイルス感染症として別に扱われることもある。
(6)気管支や肺が冒された場合 ともに咳や痰が出るほか、呼吸困難や胸痛、発熱などがみられる。原因が細菌性の肺炎では、抗生物質が有効であり、クラミジア肺炎(オウム病)やマイコプラズマ肺炎にも有効な抗生物質がある。ウイルスによる肺炎は、咳が激しいほかは一般に軽症で、かぜとして扱われる場合が多い。X線検査で診断される。気管支炎も、小児の場合は毛細気管支炎になり、重症の経過をとることもある。
(7)インフルエンザ 呼吸器症状のほか、高熱、頭痛、腰痛など全身症状が顕著で重症が多く、また伝染性が強いことが特徴である。[柳下徳雄]

治療と予防

病原がウイルスであることが多いので、治療はもっぱら対症療法に終始する。初期ならば温かい飲食物をとって早く就寝し、安静を守るのがもっともたいせつである。市販のかぜ薬は抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤が主で、一時的に症状を軽減させるが、かぜ症候群は薬で治るものではない。約1週間で自然治癒することが多いが、合併症をおこさないように安静にし、長引く傾向がみられたり、熱が高くなった場合は、医師の診療を受けることが望ましい。
 予防としては、インフルエンザ以外は予防ワクチンがないので、一般的には、誘因となる過労や寝不足を避け、うたた寝や入浴後の湯冷めなどをしないようにする一方、普段から乾布摩擦などで皮膚を鍛えておくのもよい。[柳下徳雄]

かぜの病原ウイルス

50種にも上るが、おもなものはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルスrespiratory syncytial virusおよびライノウイルスrhino virusであり、そのほかエコーウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルスのある種の型やパラインフルエンザウイルスなどがあげられる。ただし、一般に、伝染病の場合は腸チフス菌は腸チフスをおこすというように病原体と症状(病名)が対応するのが普通であるが、かぜの場合はかならずしも対応するとは限らない。たとえば、ライノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなど多くの病原ウイルスが同じようなかぜの症状(普通感冒)をおこすが、そのうちのアデノウイルスだけは咽頭結膜熱や肺炎をおこすこともある。また、インフルエンザウイルスはインフルエンザをおこすが、アデノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルスでもインフルエンザと類似した症状を呈し(インフルエンザ様疾患)、その症状からは区別できないことがある。[柳下徳雄]
『加地正郎編『内科シリーズ33 かぜ症候群のすべて』(1978・南江堂)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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