鞭毛菌類
べんもうきんるい
変形菌類以外の真核菌類を真菌門とし、これを担子菌、子嚢(しのう)菌、接合菌、鞭毛菌の四つの亜門に分ける分類法がある。この分類法における鞭毛菌類には、ツボカビ類、サカゲツボカビ類および卵菌類の三つの綱が含まれる。しかし、これらの生殖細胞の形態をみると、ツボカビ類は生殖細胞の後端に1本の尾型鞭毛、サカゲツボカビ類は前端に1本の羽型鞭毛、卵菌類は前端か側面に羽型と尾型各1本1組の鞭毛があり、それぞれ鞭毛特徴が異なっている。こうした鞭毛の特徴は一方から他方へ変わることのない起源の古いものであり、これを軽く評価して鞭毛菌類として一括することは、系統分類学のうえからはふさわしいとはいえない。生殖細胞に鞭毛があるという意味で便宜的に鞭毛菌という表現はよいとしても、分類群としての鞭毛菌類の名称は適当ではない。なお、前記の三つの菌類(ツボカビ類・サカゲツボカビ類・卵菌類)、および担子菌類、子嚢菌類、接合菌類はそれぞれ独立して進化してきたものであり、分類学上は前記のような亜門や綱ではなくて菌門の地位にある。
[寺川博典]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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鞭毛菌類 (べんもうきんるい)
Mastigomycotina
菌類のうち,生活史のある時期に,鞭毛をもった遊走細胞を生ずるものをまとめた群で,分類上,亜門として扱われる。従来,藻菌類と呼ばれていた菌類のうちの,単毛菌類と二毛菌類とを合わせた菌群にあたる。無性生殖は遊走子囊から泳ぎ出る遊走子によって行われ,有性生殖も行う。鞭毛を備えた遊走子をもつ菌類が一括されているので,類縁性の不明なものも多い。190属1170種ほどが含まれている。鞭毛の電子顕微鏡的な形態(尾型,羽型),数,ついている位置などが重要な分類基準とされており,次の三つの綱に分かれる。(1)ツボカビ綱(110属,ツボカビが代表的),(2)サカゲカビ綱(6属,サカゲカビが代表的),(3)卵菌綱(74属,ワタカビ,ミズカビ,アミワタカビ,フシミズカビ,フハイカビ,エキビョウキン,ツユカビなどが代表的)。
執筆者:椿 啓介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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鞭毛菌類
べんもうきんるい
Mastigomycotina
有毛菌類 (ゆうもうきんるい) ともいう。従来藻菌類中に入れられた菌類のうち,生活環に鞭毛を有する細胞,すなわち遊走子,運動性配偶子をもつものの総称。その運動性細胞の鞭毛の形態から,(1) 後端に鞭形の単毛を有するもの (ツボカビ,カワリミズカビ,サヤミドロモドキなど) ,(2) 前方に向う羽形の鞭毛と後方に向う鞭形の鞭毛とを側方に有する2側毛形のもの (ミズカビ,ワタカビ,ピチウムなど卵菌類) ,(3) 羽形の単頂毛を有するもの (リジディオミケス Rhizidiomyces,ヒフォキトリウム Hyphochytriumなどサカゲツボカビ類) の3型に分けられる。なお,頂端に異形の2毛を有するネコブカビ Plasmodiophora,ボロニーナ Woroninaは広義の変形菌類である。これらは同形の有毛の細胞を有する藻類との間に親縁関係があるともいわれる。これらの菌類は菌類の鞭毛生物起源説と関連する。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の鞭毛菌類の言及
【菌類】より
…また運動性のある菌は特殊な器官をもつ。
[分類,体制]
変形菌門Myxomycotaと真菌門Eumycotaの二つの門に大別され,後者は[鞭毛菌類],[接合菌類],[子囊菌類],[担子菌類],[不完全菌類]の五つの亜門に分けられる。この分類基準は有性生殖器官の形質におかれ,したがって有性生殖の見いだされないものは,とりあえず不完全菌類としてまとめられている。…
※「鞭毛菌類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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