歌舞伎狂言。時代物。4幕。通称《唐人殺し》。初世並木五瓶作。1789年(寛政1)7月大坂中山福蔵座(角の芝居)で初演。配役は今木伝七を中山他蔵,傾城高尾を芳沢いろは,西天の宗九郎を中村治郎三。1763年(宝暦13)12月朝鮮通信史が来日。64年4月7日夜,大坂で通辞鈴木伝蔵が,使節の崔天悰(さいてんそう)を殺し,斬首の処刑を受けた。この一件を初めに歌舞伎化したのは並木正三で,67年(明和4)2月大坂嵐雛助座(角の芝居)で《世話料理鱸庖丁(すずきぼうちよう)》を上演。史実に近かったため2日間で中止を命ぜられ,ただちに奥州藤原の世界に改めた《今織蝦夷錦》を上演した。これを土台に,《長崎丸山細見図》(1764)から趣向を得て,本作が作られた。これらを集大成した作品に《拳褌廓大通(けんまわしさとのだいつう)》(1802)があり,2世市川左団次が復活して以来,これが上演台帳の基となっている。五瓶の作とは内容がかなり異なるが,丸山の廓,唐人殺し,清徳寺の順で上演される。唐の使節呉斎官らの応役相良泉之介は家臣の十木(つづき)伝七に役を任せ,丸山の遊女名山と恋愛三昧。このすきに泉之介の叔父弾正がお家横領をたくらみ,使節に献上の槍の穂先を失わせる。伝七は通辞幸才典蔵(こうさいてんぞう)に偽の槍で当面をつくろってくれと頼む。典蔵は遊女高尾をとりもつ条件で引き受けたが,高尾は典蔵を嫌い,伝七と恋仲と断言。怒った典蔵は槍は偽物と言いきる。窮地に陥った伝七は典蔵を槍で殺して逃げる。やがて伝七の義兄の計らいで槍は見つかりお家は安泰,めでたく一件落着。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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