翻訳|interpreter
当事者間において言語の相違その他の理由により意志疎通に支障がある場合,両者の間にたって互いの意図を伝達する人。日常会話,商談,外交交渉,討論,講演などに多く用いられ,まず逐語的に正確に訳すことが求められる。したがってつねに対話のわき役で,古代から多く用いられていたにもかかわらずその名が残ることはまれであった。しかし中世末期から近代初頭にかけて異文化間の接触が多くなり,伝達内容が複雑になるにしたがって,通訳の教養,人格,総合的能力も求められるようになってきた。その結果,かつては一般的存在であった国際的貿易港にたむろす無国籍者的通訳,伝統を固守する独占的排他的通訳は,しだいに排除されていった。日本の江戸時代末期の唐通事,オランダ通詞の歴史も,その近代化の過程を物語っている。現在,通訳には双方の思考様式,表現方法を総合的に把握し,臨機応変に双方のかけ橋となることが期待されている。通訳案内業法(1949公布)により報酬を受けて通訳案内業(ガイド)に従事しようとする者が,外国語のみならず,歴史,地理,産業,政治,文化などの幅広い教養を求められていることも(試験は運輸省が行い,免許の許認可は各都道府県で行う),そのような考えかたのあらわれといえよう。また,通訳のおかれている状況に応じて,その要求される内容も異なってくる。たとえば外交官の場合には,とくに正確さと柔軟な意志伝達能力の双方が求められるであろうし,文化人類学者,比較文学,知識社会学,比較発展論などの研究に従事する者にとっては,異文化接触の間に通訳をとおして新しい価値の意味を読み取ることが求められるであろう。他方,通訳のスピード化も求められており,同時通訳はその典型的な例である。ちなみに,国際連合総会では6ヵ国語で同時通訳がなされている。また通訳の役割は,異なった言語,異なった文化の間だけに存在するものではなく,同一の言語を用いる者の間にも存在する。通常の会話機能を用いることのできない人のための手話,その他の方法は,その例である。その意味でも通訳の現代的意義は拡大しつつある。
→通事 →翻訳
執筆者:宇野 重昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…古代の通訳。通事とも書く。…
…江戸時代の長崎の地役人で通訳官。一般に通事は中国語の唐通事を,通詞はオランダ通詞を指した。…
※「通訳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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