韓国の大学法制(読み)かんこくのだいがくほうせい

大学事典 「韓国の大学法制」の解説

韓国の大学法制
かんこくのだいがくほうせい

[歴史]

近代教育体制への転換が図られた甲午改革期(1894~95年)においては,儒教教育体制下の最高学府であった成館について規定する「成館官制(韓国)」が整えられたが,成館は大学としての発達過程を辿らず,近代的な高等教育の法制度は未整備の状態が続いた。

 1910年から日本の統治下に置かれると,1911年に「朝鮮教育令(韓国)」が公布されたが,高等教育については専門学校(旧制)に関する条項のみが定められ,大学に関してはなんら言及されなかった。その専門学校についても,詳細な規定は1915年の「専門学校規則」の制定を待たなければならず,統治初期において高等教育は厳しい規制下に置かれた。朝鮮総督府の高等教育政策の方針に変化が生じたのは,1910年代のいわゆる「武断政治」から「文化政治」に転換した1920年代に入ってからである。1922年に改正された「朝鮮教育令」が,「専門学校ハ専門学校令ニ,大学教育及其ノ予備教育ハ大学令ニ依ル」と定めたことで,大学設置の道が開かれた。しかし,1945年まで続いた植民地期を通して設置されたのは京城帝国大学(韓国)ただ1校であり,ほかの官立私立専門学校が大学に昇格されることはなかった。

 1945年の解放からの3年間,朝鮮半島の南半分は米軍の統治下に置かれた。米軍統治期においては各段階の教育制度が整えられたが,大学については「現行高等教育制度に対する臨時措置要綱」(1946年4月)や「高等教育制度に関する臨時措置」(同年6月),「高等教育計画の基本方針」(同年12月)などにより基本的な方針が定められた。また,この間の1946年8月には,国立総合大学の設立に向け,「国立ソウル大学校設立法(韓国)」が軍政法令として公布された。

 3年間の米軍統治期を経て,1948年8月に大韓民国が成立すると,その翌年,大学を含む教育全般の基本的事項を定めた「教育法(韓国)」が制定された。その後,長きにわたって同法は大学に関する諸事項を定めてきたが,社会の急激な変化の中,多様化・複雑化が進む教育ニーズに対応するため,1997年に教育法制度の再編が行われ,「教育基本法」と「初等中等教育法」「高等教育法」が制定された。よって現行法制においては,「高等教育法」と同施行令が高等教育に関する基本的事項を定めている。

[大学関連の法制度]

高等教育法(韓国)(法律第13571号,2015年12月22日改正)は,本則64条および付則で構成されている。本則は,第1章総則(第1~11条の2),第2章(第12~17条),第3章(第18~59条),第4章付則及び罰則(第60~64条の2)から成る。第1章総則では,法律の目的や大学の種類,大学の設置,指導・監督,大学規則,財政,授業料,大学評価などについて定められている。第2章では,学生の自治活動や懲戒教職員区分,教職員の任務教員の資格基準,兼任教員などについて定められている。

 最もボリュームがある第3章は,すべての機関を対象とする通則のほか,大学の種類別の諸条項から成る。通則(18~27条)では大学の名称や組織,学年度,カリキュラム運営,講義,単位認定,編入学,分校,研究施設などについて定められている。28条から59条までは,大学の種類別(大学,産業大学,教育大学,専門大学,遠隔大学,技術大学,各種学校)の諸条項から成る。たとえば大学については,大学の目的,大学院,学位課程の統合,大学院大学,修業年限,学生定員,入学資格,入学者の選抜方法,入学査定官,入学選考料,入学選考計画の公表,学位の授与,パートタイム受講などについて規定されている。第4章付則及び罰則では是正および変更命令,休業および休校命令,大学の閉鎖などについて定められている。

 そのほか重要な関連法令として,「大学設立・運営規程」(大統領令第26900号,2016年1月19日改正)と「私立学校法」(法律第13938号,2016年2月3日改正)がある。大学設立・運営規程(韓国)は,本則13条および付則で構成され,大学や大学院の設置認可基準,学科および定員などの増設・増員基準,専門大学と産業大学の統廃合に関する特例,大学の一部を産業団地内に移転する場合の特例,医学関連の学士学位および修士学位課程を統合した課程を設置する場合の特例,大学設立審査委員会,校舎,校地,教員,収益用基本財産,基準などの充足の可否に関する評価,規制の再検討などについて定めている。私立学校法(韓国)は,大学に限らず,初等中等教育を含めたすべての学校を対象とするものであるが,私立大学が全大学の8割以上を占める韓国の高等教育にとって重要な法律である。本則74条および付則で構成され,学校法人の設立や機関,財産と会計,解散と合併,支援と監督,私立学校経営者,私立学校教員,教員の身分保障および社会保障,懲戒,罰則などについて定めている。
著者: 松本麻人

参考文献: 馬越徹『韓国近代大学の成立と展開』名古屋大学出版会,1995.

参考文献: 教育史編纂会編『明治以降教育制度発達史』第10巻,龍吟社,1939.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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