飛騨工(読み)ヒダノタクミ

デジタル大辞泉 「飛騨工」の意味・読み・例文・類語

ひだ‐の‐たくみ【飛×工/飛×匠】

古代、飛騨国から毎年交替で京都にのぼり、主に木工寮もくりょうにいて公役に従事した工匠。斐陀匠。ひだたくみ。
今昔物語にみえる伝説的工匠。画工百済河成くだらのかわなりと技を競ったという。

ひだ‐たくみ【飛×工/飛×匠】

ひだのたくみ

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「飛騨工」の意味・読み・例文・類語

ひだ‐たくみ【飛騨工・飛騨匠】

  1. 〘 名詞 〙 令制で、飛騨国(岐阜県北部)から毎年交代で都に上って公役についた技術者。転じて、大工、工匠。→ひだのたくみ
    1. [初出の実例]「饗行事大夫已下飛騨工已上、木工助以下及大少工」(出典日本三代実録‐元慶元年(877)四月九日)
    2. 「父のあとしきかねへらばへれ 飛騨たくみ細工道具を又もせん〈重安〉」(出典:俳諧・大坂独吟集(1675)下)

ひだ‐の‐たくみ【飛騨工】

  1. 「今昔物語」巻二四第五話にみえる伝説上の工匠。画工、百済河成と腕比べをしたとされている。飛騨国にはすぐれた工匠が多く、本来はそれらの汎称

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

朝日日本歴史人物事典 「飛騨工」の解説

飛騨工

古代律令制において,飛騨国(岐阜県)から中央に貢上した木工。令では,特にこの国だけ庸・調を免除する代わりに,1年交替で里ごとに10人を匠丁として徴発し,木工寮など建設関係の官司に配属して,都城造営に従事させた。職制上は建築生産の下部労働力を担っていたに過ぎないが,古来より良材に恵まれた飛騨国出身の彼らの中には,優れた木工技術を有する者がいたかもしれない。令制の推移に伴って,制度としての飛騨の工は10世紀中ごろには正史から姿を消すが,都城建設の中で培われた技術は一般の建設需要にも応え,一方で,過酷な労役から地方へ逃亡した中に建築専業者として独立した者もいたであろう。平安中期以降は木工一般の呼称となっており,例えば『源氏物語』(東屋の巻)では遣戸を造った工匠として現れる。『新猿楽記』に,「八省・豊楽院の本図を伝え,造殿・造宮等の式方を鑑みた」檜前杉光なる人物が飛騨国の出身者として登場し,『今昔物語集』には,やはり平安京遷都時に豊楽院を建てた工匠が絵師百済河成と技比べをするが,その名を「飛騨工」としている。これらは都城建設時における工匠達の集団としての活躍を,檜前杉光や「飛騨工」なる架空の人物に象徴させたものであって,当時の名工像を端的に示すものであろう。その後,高度な技術・能力が工匠個人に求められた中世末期以降には,工匠個人を権威づける呼称ともなって,「飛騨工」名工説が近世を通じて定着していく。

(藤田勝也)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「飛騨工」の意味・わかりやすい解説

飛騨工(ひだこう)
ひだこう

日本古代の律令(りつりょう)時代に、建築労働に従事した飛騨国(岐阜県北部)出身の労役者。斐陀匠とも記す。飛騨は山国のため、賦役令の規定で庸・調(いずれも課税の一つ)とも免除され、里ごとに匠丁(しょうてい)10人を京に送った。彼らは食料も準備し1年間京での賦役に務めた。その員数は100人とされているが、木工寮(もくりょう)に常時所属した工は37人であったと『延喜式(えんぎしき)』にみえる。令での身分は駈使丁(くしてい)のなかに含まれた下級労務者で、木工寮では工部の下に所属した。また飛騨工は木工寮のみならず、令外官司(りょうげのかんし)の造宮省や造寺司にも配属されたが、工たちは都の生活に慣れ、1年過ぎても国に帰らず、他所に雇われたり逃亡者も出たという。彼らは木工技術に優れていたため技術者として評価され、「ひだのたくみ」の名で喧伝(けんでん)されるに至り、のちには伝説的名工の代名詞となった。

[工藤圭章]


飛騨工(ひだのたくみ)
ひだのたくみ

飛騨工

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「飛騨工」の意味・わかりやすい解説

飛騨工【ひだのたくみ】

飛騨匠とも書く。古代の飛騨から朝廷に交替で勤務した大工。養老令に斐陀匠。割当ては里(り)ごとに10人,衣食は各里の負担。平安時代には総員100〜60人に減。木工(もく)寮などに配属し,建築に従事。その技術は伝説化し,《今昔物語集》に絵師百済川(河)成(くだらのかわなり)と腕を競った話がある。
→関連項目大工飛騨国

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「飛騨工」の意味・わかりやすい解説

飛騨工
ひだのたくみ

斐陀匠とも書く。古代,飛騨国から中央政府へ貢上した木工。飛騨は山国で,古来,木工の名手が有名であるため,令制では特に当国だけは庸・調を免じる代り里ごとに匠丁 (木工) 10人を1年交代で出させ,彼らの食糧を毎年中央に献上させた。木工寮などの官工房の木工労務者として,官衙の建築に従事したが,逃亡する者も少くなかった。平安時代初期には総数 100人ほどだったが,のち減少。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「飛騨工」の解説

飛騨工 ひだのたくみ

「今昔物語集」に登場する工匠。
絵師の百済河成(くだらの-かわなり)とわざくらべをする。飛騨工がつくった四面が扉のお堂は,河成がはいろうとすると扉がしまり,別の扉があく仕掛けで中にはいるのをはばんだ。のちには名工の代名詞となった。本来は都で建築に従事した飛騨(岐阜県)の大工のこと。飛騨匠,斐陀匠ともかく。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android