江戸時代,江戸の町々に課せられた幕府御用の人足を負担する義務をいう。城下町に集住する商工業者としての本来的な町人の身分は地子銀すなわち年貢の免除の代りに家屋敷所持高を基準とする役負担者として把握されていた。この場合,一般の人足役としての公役を負担する町人の町と,鍛冶,研師,大工,桶屋,畳屋,伝馬などの特定の技術労働を国役として負担する町人の町とがあった。このほかに元来は代官領であって後に開けて市街地となった地子銀を納める町(町並地)や地子を寺社へ納めるが役負担のない寺社領,寺社門前の町もあった。1722年(享保7)の調査によれば次のような事例がある。南鞘町は国役としての御塗師役と公役としての砂利人足,町料理人足,御舟揚下げ人足を負担し,南塗師町は1682年(天和2)ころまでは細工小屋の人足役を国役としてつとめていたが,その後砂利人足という公役負担の町に変わっている。また松川町は川瀬石町と南油町の代地町として元地の人足役をも引きついでつとめていたために,御畳人足,御鉄砲人足,御小納戸人足,御具足人足,御台屋人足,御蠟燭人足,御紙屋人足,御伝奏人足,御料理人足,御台所御用人足,御欠所御蔵人足,地割人足,浅草御蔵漆喰運人足という13種類もの町人足役を公役としてつとめていた。このころの公役町は728町,国役町は61町であった。このように町ごとの国役,公役負担の区別が当初よりあったのか,初期の江戸の町は国役町でありしだいにその一部が公役の町になったのかなどについては必ずしもつまびらかではない。
1722年,こうした複雑な町々の公役負担の均等化,簡素化とこの時期の幕府の財政難打開とも関連した公役銀増徴のため公役銀納制が実施された。すなわち前年使用の人足数9万4260人に,従来無役であった町屋敷と武士の拝領屋敷や組屋敷の町屋より新たに4万7900人を加え,合計14万2160人,その賃銀1人1日2匁として銀284貫300目,金に換えて4730両余を差し出すこととし,いかなる公用があってもこのほかに役人足は賦課しないこととした。賦課基準は町地を上中下に三分し上は間口京間5間,中は7間,下は10間につき1年に15人ずつを出すことを一人役とし,その後拝領屋敷に限り上は7間,中は10間,下は20間につき一人役と改め賃銀2匁を2割引きとした。間口1間奥行き20間を公役小間といったが便宜上地形の広狭を平均して20坪を公役小間と定めて徴収することとなった。このとき公役小間総計13万5442間であった。なお町地等級の上の場所は日本橋辺,飯田町,麴町,市ヶ谷田町辺,中橋辺,湯島大通り,本郷大通り,京橋辺,芝口橋辺,神田辺,中の場所は浅草辺,芝金杉辺,西久保葺手町辺,芝松本町辺,赤坂辺,八丁堀辺,両国橋内近辺,筋違橋外近辺,下の場所は深川辺,本所辺,小日向辺,関口辺,小石川辺,金杉辺,菊坂辺,駒込辺,下谷辺,巣鴨辺,谷中辺,青山辺,牛込辺,麻布辺,四谷辺,そのほかの場末であった。
執筆者:松崎 欣一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国家の賦課する公的な課役・労役の総称。中世,荘園領主により課される公事(くじ)のなかで国家的色彩の濃い税の呼称として用いられた。室町幕府の重要な財源である3種役(酒屋役・土倉役・味噌役)も公役と称した。近世では,百姓や町人身分が勤める国家的な役負担の総称。なかでも江戸幕府が江戸の町人(家持)に課した町人足役,大坂三郷(さんごう)入用のための役銀公役(こうやく)の別称として公役という。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…この国家や領主権力への役負担などの中心は,町人足役(ちようにんそくやく)と,伝馬役(てんまやく)とである。 町人足役は公役(くやく),町夫(ちようぶ)とも呼ばれ,町人身分の者が勤める人足役,すなわち労役の奉仕を意味する。町人足役は非常に多様な内容をもち,城郭をはじめとする権力の諸施設の建設や修理,またそれらの維持・管理に伴う手伝(てつだい)人足や雑役労働,領主の賄方(まかないかた)(台所)への手伝人足や料理人,堀や河川,道路,橋梁の普請・修理や清掃の人足,火消や防火のための人足などからなり,国家や領主権力の都市居住に伴って発生する,膨大な雑役に従事することが基本的な内容であった。…
※「公役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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