岐阜県の北部を占める旧国名。東山道八か国の一つ。東は信濃(しなの)国、西は加賀国、南は美濃(みの)国、北は越中(えっちゅう)国に接し、東西83.5キロメートル、南北88.3キロメートル。面積約4033平方キロメートルの山岳高原地域で、ほぼ現在の飛騨(ひだ)市と下呂(げろ)市、高山市、大野郡域にあたる。乗鞍(のりくら)岳から位(くらい)山方向へ延びる分水嶺(れい)によって、太平洋へ流れる飛騨川流域(南飛騨)と、日本海へ流れる宮川・高原川・庄(しょう)川流域(北飛騨)とに分かれ、気候、風土を異にする。語源は、山や谷が多く衣のひだに似たところからとする説、直(ひた)野で美濃・信濃とともに野の国と称していたのが分かれたとする説などあって、さだかでない。斐太、斐陀とも書かれ、8世紀初頭「飛騨」に公定された。
初め大野・荒城(あらき)2郡に分かれていたが、870年(貞観12)大野郡から益田(ました)郡が分立し3郡13郷(近世の初め3郡24郷となる)となった。国の等級は下国(げこく)。国府の所在地は高山市域とする説が有力である。大宝(たいほう)の賦役令で飛騨国は調庸(ちょうよう)のかわりに匠丁(しょうちょう)(木工)が徴発され、都の宮殿や官衙(かんが)の造営、修理に従事し、「ひだのたくみ」は優れた木工の異称となった。律令(りつりょう)制が衰退すると公領の荘園(しょうえん)化が進んだが、中世に至っても流罪の国とされ、中央からは隔絶した存在であった。1193年(建久4)多好方(おおのよしかた)が荒城郡荒城郷地頭職(じとうしき)になり、1359年(正平14・延文4)佐々木高氏(たかうじ)(道誉(どうよ))が守護となって、以後その子孫が京極(きょうごく)氏を称して世襲した。一方、姉小路(あねがこうじ)氏は家綱が国司に任ぜられてから代々国司を継承し、被官三木(みつき)氏は南飛騨に、江馬(えま)氏は飛騨北部に栄えた。他方、本願寺門徒は嘉念坊善俊(かねんぼうぜんしゅん)を飛騨真宗(しんしゅう)の祖とし、白川郷などに道場をおこした。戦国期には諸勢力割拠するなかへ上杉、武田の両勢力が侵攻して抗争に巻き込んだが、1583年(天正11)三木自綱(よりつな)が飛騨を統一した。85年自綱は、豊臣秀吉(とよとみひでよし)の意を受けた金森長近(かなもりながちか)に滅ぼされた。長近は高山城を築き、関ヶ原の戦い後、飛騨一国3万8000石を得、6代93年間統治した。歴代茶の湯をたしなみ、茂住(もずみ)などの鉱山開発を進めたが、1692年(元禄5)出羽(でわ)国上山(かみのやま)(山形県上山市)へ転封され、飛騨は天領となった。幕府が鉱山や山林を確保しようとしたからといわれる。初代代官は伊奈(いな)半十郎忠篤(ただあつ)。高山に陣屋を置いた。1775年(安永4)12代大原彦四郎紹正(あきまさ)が行った地改めで総高5万5000石に増えたが、増徴を恐れる農民が安永の大原騒動を引き起こした。これは明和(めいわ)および天明(てんめい)騒動と並んで全国的にみても大規模な農民騒動であった。飛騨では幕府山林経営による農民の元伐(もとき)り稼ぎが行われ、米不足を補うため買請米(かいうけまい)や安石代(やすこくだい)金納など独自の制度を設けて生活安定が図られた。春慶(しゅんけい)塗や木工品を特産物としたが、幕末には生糸、紬(つむぎ)などの生産も増え、1870年(明治3)には飛騨物産全移出額32万4000余両のうち25万両余に達した。明治維新に飛騨は飛騨県を経て高山県となり、71年廃藩置県で筑摩(ちくま)県に属し、76年岐阜県に編入された。
[村瀬円良]
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東山道の国。現在の岐阜県北部。「延喜式」の等級は下国。「和名抄」では大野・益田(ました)・荒城(あらき)(中世以降は吉城(よしき))の3郡からなる。国府は大野郡(現,高山市),一時荒城郡(現,高山市国府町)におかれたとする説もある。国分寺・国分尼寺は大野郡(現,高山市)におかれ,一宮は水無(みなし)神社(現,高山市一之宮町)。「和名抄」所載田数は6615町余。令制では調庸のかわりに里ごとに匠丁(しょうてい)10人を徴発した。8世紀初頭まで斐太(陀)と表記されたが,702年(大宝2)の神馬貢献を機に飛騨が公定されたと思われる。南北朝期以降,北部に姉小路氏,南部に京極氏が台頭。のち北部は江馬氏,南部は三木氏が勢力をはり,1582年(天正10)三木氏が一国支配。近世には幕領。1868年(明治元)新政府に収公され,71年の廃藩置県により筑摩県に併合されたが,76年分離し,岐阜県に合併。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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