食料産業クラスター(読み)しょくりょうさんぎょうくらすたー(その他表記)food cluster

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食料産業クラスター」の意味・わかりやすい解説

食料産業クラスター
しょくりょうさんぎょうくらすたー
food cluster

農業食品産業を一体化した「食料産業」の分野で機能する集積集団、ネットワーク。地域の食料産業や経済の活性化を目ざし、システムの構築・形成などを産官学が連携して行うこと。クラスターclusterとは、英語で「ブドウの房」の意味であるが、転じて、特定の分野に関連する産業や研究機関などの集積体のことを、またそれらの構成集団が近接して立地する地域をさす。

 貿易の自由化、規制緩和を促進するFTA自由貿易協定)やEPA経済連携協定)によって、関税率の大幅低下が予想される社会情勢のなかでの競争力を拡大しようとすれば、農業と食品・関連産業が一体的に連携できるシステムを構築することが重要である。農林水産省も農業と食品産業を一体的に理解する「食料産業」という表現を用いており、地域における食料産業の役割は大きい。ある地域に食品・関連企業が集積し、生産現場である農業との連携のなかから、食料産業クラスターが形成され、地域が活性化するためには、地域レベルでの組織的な戦略が必要とされる。

 食料産業クラスターの概念は、アメリカの経営学者マイケル・E・ポーターMichael E. Porter(1947― )が提起した「産業クラスター」という概念を、食と農の連携および地域の特異性(付加価値)という分野において用い、具体化したものである。食料産業クラスターは、技術革新イノベーション)として、新産業や新製品の創出、地域ブランドの確立価値連鎖バリューチェーン)や供給連鎖(サプライチェーン)の形成、食と農の連携を図ることで、最終的に地域全体の所得と雇用の拡大、さらに地域資源の有効活用の実現を目ざす。政府の補助金を全面的に頼りにした政策から転換し、地方自治体や大学研究機関による地域支援体制を確立することが重要である。地域の支援体制と戦略を構築してから、補助金を利用するという方向性が望ましい。また、食料産業クラスターにおいては、専門的なコーディネーターが、クラスターに参加する経済主体(生産者、食品メーカー、流通業者など)の連携や技術革新を促進し、企画立案から調整、遂行のリーダーシップを担うことも期待される。

 2008年(平成20)現在、日本ではほとんどの都道府県レベルでクラスター協議会や「食」産業協議会が設立され、さらに市町レベルでも設立されるようになった。県行政での商工観光部の産業振興課などでも産業クラスター計画をもっている場合も多い。地域にとっては、雇用や付加価値獲得の観点からも、食品産業の役割に大きく期待しており、農林部と商工観光部が一緒になって食料産業クラスターの戦略を構築する県が増加傾向にある。また、良質で安全性の高い原料や食材を安定的に確保し、国産品と輸入品の棲み分けをする食品企業が多くなり、農業生産を統合化したいという食品企業も増えてきた。

 具体的な例として、和歌山県で生産されるウメの最高級品「紀州南高梅(きしゅうなんこうばい/きしゅうなんこううめ)」などは、地域ブランドとして基幹産業となっており、ビジネスモデルとされる。60%を占める輸入品との棲み分け、農業生産者(一次加工)とメーカー(二次加工)の分業、販売チャネルの開発とリーダー企業の役割、新製品開発や環境保全についての企業の事業革新、地域資源の利用と雇用機会の創出などを生み出しており、地域の競争力拡大の源泉となっている。なお、産業クラスターは、基本的には製造業を中心とした展開を念頭においているが、食料産業クラスターでは、地域の食品・関連産業として、宿泊・飲食施設(ホテル、民宿、農村レストランなど)や直売所などとの連携や集積も、必要な構成要素である。

[斎藤 修]

『斎藤修著『食品産業と農業の提携条件――フードシステム論の新方向』(2001・農林統計協会)』『斎藤修著『食料産業クラスターと地域ブランド――食農連携と新しいフードビジネス』(2007・農山漁村文化協会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

農林水産関係用語集 「食料産業クラスター」の解説

食料産業クラスター

クラスターとは、本来「ぶどう等の果実の房」を意味するが、現在では、「群、集団」を表す言葉としても使用されている。食料産業クラスターとは、食品産業、農業、関連業種による連携構築を意味し、地域に密着した食品産業の振興を図る取組として期待されているもの。

出典 農林水産省農林水産関係用語集について 情報

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