産学提携、産学連携ともいう。本項では、おもに産学協同と称する。伝統的また狭義の産学協同とは、産業界と大学との教育研究活動における協同、提携をいう。しかし、1990年代以降は、政府を含めた産官学の協同体制の確立によって、その活動内容や範囲は、大学の基本的営みである教育、研究、社会的サービス、あるいは大学経営などをめぐる大学の機能全般にわたり、かつ相互交流的となってきた。
本項では大学と社会の関係に焦点をあわせるが、こうした産学協同は大学ばかりでなく、初等教育から高等教育まで包摂される。さらに、従来大学の業務であった機能を外部組織に委託(アウトソーシング)したり、共同で財団法人や企業を設立する大学も少なくない。外部社会と大学の機能・役割関係は拡散化し、長期的な展望として、従来の象牙(ぞうげ)の塔的な大学から、開かれた大学に移行しつつある。しかし、こうした背景には国際的な科学技術競争はもとより、日本の18歳人口の激減、世界的な東西対立解消後の市場化、グローバル化、知識基盤社会への移行に伴う大学の生存競争があり、真の意味での「開かれた大学」の基本的理念と役割を踏まえた、新たな枠組みの構築が要請されている。なお、「知識基盤社会」とは2005年(平成17)の中央教育審議会の答申で提示された用語で、「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめあらゆる領域での活動基盤として飛躍的に重要性を増す社会」をさす。
[山野井敦徳]
産学協同の内容としては、おもに次のものがあげられる。
(1)大学教育の基本的役割としての講義、資格および単位の認定に関する共同と交流。
(2)大学教育の社会的サービス機能としての生涯教育、公開講座、大学開放をめぐる共同と交流。
(3)実習、見学、施設利用、インターンシップ、就職などに関して、大学と、産業界を中心とした外部社会との共同と連携・接続関係。
(4)大学と、産業団体などの工業教育部門間との共同と交流。
(5)大学教育、研究などの振興を目的とする組織の制度化、冠名講座、寄付事業などによる共同と交流。
(6)産官学間の人的交流(企業からの派遣学生、大学教員の派遣、正規の人事交流など)の活性化。
(7)共同研究プロジェクト、受託研究、共同企業化などの推進と体制確立。
(8)研究成果としての発明、特許および知的財産権などの活用と交流。
(9)大学諸機能(大学教育、入学試験、学生募集、事務業務、市場調査、大学経営からごみ処理に至るまで)の外部委託化の推進。
(10)その他。
[山野井敦徳]
産学協同の起源は、1899年アメリカのハーバード大学総長エリオットC. W. Eliot(1834―1926)や1906年シンシナティ大学総長シュナイダーH. Schneider(1872―1939)の政策が、その端緒であると一般にいわれている。前者はハーバードのビジネス・スクールに、後者はシンシナティ大学の工学部において実践された。とくに、シュナイダー方式は、その後のアメリカ国内の大学に波及し、指導者、実習内容、期間、評価、設備の利用形態を中心に多様な方式が試みられた。
日本においては、昭和初期の世界恐慌のもとで大学の社会的役割が問われ、日本工学会、商工省生産委員会が産学協同の制度化を立案したが、第二次世界大戦のため、改革案にとどまった。戦後も、アメリカの対日工業教育顧問団の勧告により、1952年(昭和27)に日本工業教育協会が結成され、学生の工場実習の増加、産業界からの委託研究の増加が認められるようになった。しかし、大学開放の時代、あるいは大学紛争という危機の時代以前にあっては、日本の研究大学は象牙の塔的なドイツ型大学自治を標榜(ひょうぼう)する傾向があり、また産業界への協力に対する抵抗感が強かったため、産学協同の実績は工学系など技術研究面での協力に限定され、その気運は高揚しなかった。日本の産業教育は、社会の停滞期に改革案が企画され、成長期には忘れ去られる傾向にあり、よい意味での産学協同の実現が課題であった。
1960年代後半から1970年代にかけての大学紛争以降、科学技術に関する国際競争の激化やイデオロギーの対立の希薄化に伴って、産学協同の気運が高まった。1980年の学術審議会ののち、1982年の文部省学術国際局の研究協力室新設に伴い共同研究制度が確立され、それを受けて国立大学の研究協力課導入、1987年の地域共同研究センターの設置開始など組織化が促進された(2000年1月の中央省庁再編による文部科学省発足に伴い、学術審議会は科学技術・学術審議会に改組、学術国際局は科学技術・学術政策局および研究振興局に引き継がれた)。
また、1985年の臨時行政改革推進審議会や翌年の科学技術大綱の閣議決定がなされ、その後の臨時教育審議会の答申によって1987年9月に大学審議会(2001年より中央教育審議会大学分科会)が設置された。1991年(平成3)の大学設置基準の大綱化以降は、1998年のTLO(技術移転機関)の設立を促す大学等技術移転促進法(TLO基本法)の制定に至るまで、大学機能全般(教育・研究・社会的サービス・大学運営など)にわたって、社会に開かれた装置として各種の大学改革が急激に進行した。
一方では研究成果に基づく共同企業が設立され、他方ではIT(情報技術)革命時代を迎えて、有力私立大学と大手電機企業との教育プログラム(通信網による遠隔英語教育)を行う共同設立企業も発足した。しかしこうした産学協同体制では、特許の公開制約などもあって、研究面において従来から科学におけるエートス(価値基準)の一つとされてきた「公有性の原則」に抵触する問題も生じてきており、教育面でも、大学と社会の関係と接続のあり方が問われている。
近年では、政府、自治体などの「官」との連携が促進され、「産学官連携」「産官学連携」が声高に唱えられるようになってきた。各大学において、地域や産業界との連携を促すための各種センターが設立されている。こうした動向のなかで、はたして大学に期待されるべき役割と機能は何か、社会との関係でその新たな方向性の確立が要請されていることも事実である。
[山野井敦徳]
『文部省編『大学と産業界との研究協力』(1994)』▽『文部省編『未来を拓く産学連携』(1998)』▽『通商産業省編『産学連携から見た日米技術系大学の比較・評価調査報告書』(2000)』
広くは産業界と学校とが協同して事業を行うことを産学協同といい,教育,研究に関する協同事業がよく知られている。
教育面での産学協同は,アメリカのシュナイダーH.Schneider(1872-1939)の提唱によって1906年はじめられ,コオペラティブ・システムco-operative systemと呼ばれる。これは,シュナイダーの構想によれば次のような原則のもとで運用される。(1)生産工場と学校との合意。(2)生徒を工場と学校とに一定期間(たとえば隔週)ごとに交替制で通わせる。(3)生産工場は生徒に広範な職業教育を行う。(4)学校は一般教育および特殊化された専門教育を行う。(5)学校は生産工場で生徒が従事した実地作業を学校の教育の一部として承認する。(6)生徒は工場での労働に対して一定の報酬を受ける。運用形態には,学校や専攻学科あるいは地域により種々の変型があり,交替時期も半日交替から半年交替まで多様である。イギリスでは,同様の方式がテクニカル・カレッジと生産工場との間で実施されている例があり,半年交替などが多く,サンドイッチ・システムsandwich systemと呼ばれている。日本では,第2次大戦後に高等学校の定時制と企業内訓練とを連携する試みが阪神地方などにみられたが,1961年の学校教育法一部改正により,企業内訓練と高等学校の定時制,通信制との連携が制度化された。これは,文部大臣が認可した職業訓練施設の訓練生が高等学校の定時制または通信制に在学する場合には,職業訓練施設における教育訓練の一部を高校教育の一部として承認する制度で,日本ではこれを産学協同と呼んでいる。当初,連携できる施設は訓練期間3年以上のものに限られていたが,67年に1年以上に拡張されたため,連携施設は,企業内訓練だけでなく,各種学校や公共職業訓練をもふくむようになった。82年現在,319施設が連携し,連携制度のもとで学ぶものは約26万人に達している。産学協同は,学校と企業との間にじゅうぶんな合意があれば,勤労青少年の就学の機会の拡充,彼らの学習上の二重負担の軽減,理論的学習と実際作業の結びつきの強化,学校の実習施設よりも広範な学習,などの利点が得られる。しかし他方では,企業内の作業は生産が目的であって必ずしも教育的でない,教育的配慮は生産を阻害あるいは渋滞させるなど,生産と教育を両立させがたい場面も少なくなく,実践上克服すべき課題も多い。
研究面での産学協同としては,特定企業と特定大学(の研究者)との協同研究,特定大学の研究者にたいする企業からの資金,人材の援助,などの形態があり,理工系の高等教育機関に例が多い。日本でもこれを推進しようとする動きがあるが,研究成果の公表に制約がともないがちであるため,大学人の間には大学の自治を侵害するという危惧の念も強く,広範なものとなっていない。
執筆者:佐々木 享
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