日本大百科全書(ニッポニカ) 「高気圧障害」の意味・わかりやすい解説
高気圧障害
こうきあつしょうがい
水中や湧水(わきみず)の多い場所の土木工事で行われる圧気潜函(せんかん)工法(ケーソン工法)やシールド工法による高気圧下の作業や潜水作業でおこる健康障害で、加圧時、高気圧中滞在時、減圧時、減圧後の障害にそれぞれ分けられる。
加圧時の障害は、スクイーズsqueezeとよばれる圧力が不均等に加えられることによっておこる。耳のスクイーズは鼓膜の内外に圧差を生じるためにおこる耳痛をいい、鼻のスクイーズは鼻腔(びくう)と副鼻腔の圧差によって生ずる前額部の疼痛(とうつう)で、鼻に炎症のあるものにみられる。また、ヘルメット式潜水具を着用して潜水したとき急速に降下すると、ヘルメット内圧は水圧より低くなり、柔らかいゴム服を介して直接水圧を受ける四肢や体幹部と頭部の間に圧差を生じ、頭部へ血液や体液が絞り込まれる状態(スクイーズ)となり、頭部の腫脹(しゅちょう)、耳や目や鼻からの出血、眼球突出などがおこる。
高気圧中滞在時の障害は、高い分圧の酸素や窒素を吸入することによっておこり、酸素中毒や窒素酔いがみられる。酸素中毒の症状は慢性型と急性型に分けられる。慢性型は500~1000ミリメートル水銀柱の比較的低分圧の酸素を長時間吸入したときにみられ、肺に炎症をおこして咳(せき)や呼吸困難をきたす。急性型はそれ以上の高分圧酸素を吸入したときにみられ、脳障害をおこして口唇や手指のれん縮、吐き気、てんかん様発作が短時間内に現れる。窒素酔いの症状は、1平方センチメートル当り3~4キログラム以上の圧力になるとしだいに爽快(そうかい)な気分となり、判断力の低下、観念の固定、記憶力の低下、神経と筋の協調阻害がおこり、さらに圧力が高まると意識を失う。
減圧時の障害は、減圧中に息を止めたり咳をすると、肺胞内の空気が膨張して肺胞が破裂することによっておこる。破れた肺胞から毛細血管に空気が侵入して動脈に達すると空気塞栓(そくせん)症をおこし、これが脳や心臓に生ずると致命的である。また、破れた肺胞から胸腔に入ると気胸をおこすし、縦隔洞に入ると縦隔洞気腫をおこして心臓を圧迫するなど重い症状を現す。
減圧後の障害は減圧症とよばれている。これは、高気圧下で作業中に血液や組織中に溶解していた空気中の窒素ガスが気泡となって小血管を閉塞したり組織を圧迫するためにおこる障害をいう。
[重田定義]