高等教育と大学(読み)こうとうきょういくとだいがく

大学事典 「高等教育と大学」の解説

高等教育と大学
こうとうきょういくとだいがく

現代高等教育概念

単なる比較概念としての高等教育は,古代から存在した。古代ギリシア・ローマ,インド,中国などでも,読み書きソロバンを中心とした基礎教育に対して,多様な上級知識を学ぶより高度な教育という考え方が存在していた。しばしば,前者が庶民層,後者は支配層の教育としての性格を持った。このような高等教育を行う機関としては,古代ギリシアのアカデメイアリュケイオンイスラームマドラサ,日本の大学寮などが知られている。中世後期ヨーロッパで大学が誕生してからは,従来の基礎教育と文法学校などの高度な教育に加えて,大学が最高の教育を与える機関として位置づけられたが,全体としての段階性を前提とした高等教育概念が存在したわけではない。

 それが現在考えられているような高等教育となったのは,近代の公教育成立以後のことである。公教育の成立過程において基礎教育の学校が整備されて,これを第1段階の教育とし,従来から存在した文法学校等の第2段階の教育との接続が問題となるにつれて,第1段階と第2段階の教育の区別が意識された。大学を中心とした教育は第2段階以後の第3段階の教育とされ,やがて第2段階の教育との接続が問題となって初等中等,高等の3段階教育区分が明確化した。現代の高等教育はこの3段階区分を前提にして,各段階の教育の接続を問題とした公教育概念と不可分の関係にある。この場合の高等教育は,一般に中等教育修了をその機関への入学資格とし,より高度な知識や技能の教育・研究を行い,その修得に対する資格などの授与による専門職養成を中心とした教育を意味する。

 高等教育機関は大学だけでなく,法学,医学,神学,音楽,芸術などさまざまな分野の専門職を養成する学校やアカデミー,インスティチュートなどと称される科学技術系の機関も含んでおり,それらは全体として拡大傾向にある一つの高等教育システムを構成している。この世界各国における高等教育システムは,ヨーロッパとアメリカ合衆国で形成されたものがモデルとなっている。

 UNESCO(国際連合教育科学文化機関)では,1997年の「高等教育教員の地位に関する勧告」における高等教育の定義に従って,翌年「21世紀のための高等教育に関する世界宣言」を採択した。そのなかで高等教育は,「国家の所管当局や認証システムによって高等教育機関として認可された大学や他の教育施設によって提供される,中等教育後のレベルの学習,教育,研究のための教育の課程である」と定義されている。また,UNESCOが策定している国際標準教育分類(ISCED-2011)では,高等教育に相当する第3段階の教育をレベル5から8までの4段階に区分している。日本では学校教育法に定められる大学,規定上は大学に含まれる大学院,短期大学,高等専門学校,専修学校専門課程(専門学校)に加えて,文部科学省以外の各省庁が定める大学校でおこなわれる教育が高等教育に相当する。

[大学と高等教育機関の違い]

前述の高等教育概念からすれば,大学もまた大学(高等教育機関)の一つではあるが,UNESCOの定義でも区別されているように,大学と他の高等教育機関は明確に区別される。大学は12世紀末頃のヨーロッパで誕生し,学部のような専門分野ごとの組織,自治的団体による試験や学位による学業の認定,テキストの使用や講義・討論・演習といった教育方法などの,現代にまで繫がる教育の組織と機能の特徴を持った。これらの組織や機能は,ヨーロッパでの拡散,アメリカ合衆国への流入,アジア諸国などへの伝播の過程で,各国の特徴が付加されて変容したが,自治団体性や学位授与権などの特徴は共通して保持されてきた。これらの特徴を共通に持つ高等教育機関のみを大学と称する。

 大学の成立以後に出現した多様な高等教育機関は,元来大学が授与してきた学位の授与権を持たなかったため,独自の称号等をその教育の修了時に付与してきたが,学位授与権を獲得するものも出現した。そのため,高等教育修了時に授与される学位や資格もディグリー,ディプロマ,サーティフィケイトなどとさまざまに称されるようになった。この経緯によって他の高等教育機関が大学と同一視されるか,あるいは混同される状況が生まれたが,学位授与権のみならず上記の特徴も保持してきた大学は,人類社会に文化的,社会的,政治的にも最も重要かつ多大な影響を与えてきた高等教育機関として傑出している。なお日本の大学は,明治初期にドイツやフランスなどの大学をモデルに導入され,日本的特徴が付加されつつ,第2次世界大戦後はおもにアメリカの影響の下に発展してきたものである。
著者: 児玉善仁

参考文献: Bowen J., A History of Western Education, Vols. 1-3, Routledge, 2003.

参考文献: 『変貌する高等教育』岩波講座「現代の教育」10,岩波書店,1998.

参考文献: 児玉善仁「起源としての大学概念」,別府昭郎編『〈大学〉再考―概念の受容と展開』知泉書館,2011.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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