魚の形態を紙または布などに写し取ること。記録や観賞のためのもので、日本で発明されたと推測される。碑文などの石刷りの手法に似ていることから、魚の拓本という意の略で魚拓とよばれている。
作り方には、墨を用い釣魚の記録をおもな目的とする直接法と、色彩を用い芸術的な作品に仕上げる間接法とがある。山形県酒田市の本間美術館には江戸末期の魚拓が、日時や使用した竿(さお)の詳細な記録とともに保管されており、これが本邦最古の直接法魚拓といわれている。間接法も江戸末期に試みられたとの説もあるが確証はない。色彩を施した近代的魚拓は1948年(昭和23)に稲田黄洋が完成した。80年には世界魚拓展が東京で開催された。
[佐藤吉則]
(1)魚に塩をふりかけ、ブラシ類でぬめりと汚れを取り除く。または薄めた中性洗剤に数分間つけてから、ブラシを使って水洗いする。
(2)魚の体型にあわせた安定板で魚体を固定させる。
(3)濃淡2種の墨あるいは絵の具を頭部から尾のほうへ塗る。
(4)塗った墨の乾かぬうちに上から和紙をかぶせ、さらに透明なビニルで覆い、皺(しわ)の出ないように手でこすりながら写し取る。
[佐藤吉則]
(1)魚体を洗浄、安定させるのは直接法と同じ。
(2)魚種にあわせた絵の具を溶く。絵の具は、皿に固着してある水絵の具が最適。墨拓の場合は濃淡3、4種の墨をつくる。
(3)安定させた魚体に筆か霧吹きで水をつけ紙をかぶせる。その上からさらに霧を吹き、ゴム製のパフを使い、皺を出さないようていねいに貼(は)り付ける。ヘアドライヤーで20%程度の水分が残るように乾かす。
(4)絹布に親指大の木綿わたを包み、輪ゴムでくくり、たんぽをつくる。絵の具または墨は淡い色から始め、頭から尾へ軽くたたくように着色する。紙ににじみ出る水分はドライヤーの調節でつねに20%程度の湿度を保ちながら着色を繰り返す。仕上げにはいちばん濃い色でアクセントをつけ立体感を出す。
(5)魚から紙をはがしドライヤーで乾かし、裏面に、3倍に薄めたオキシドール液の霧を吹く。これは汚れを除去するため。
(6)乾いてから目を書く。目を書く以外は筆の使用を避けるように心がける。
[佐藤吉則]
『清水游谷著『魚拓――鑑賞と作り方』(1975・保育社・カラーブックス)』
魚の形態を紙,または絹などに転写すること,またその転写したもの。魚拓とは〈魚の拓本〉という意の略だが,これは碑文の拓本より出ていると考えられる。魚の大きさ,釣った年月日を記録保存しようとして始まった。魚に直接墨を塗り,その上から和紙をかぶせるようにのせて写す方法が直接法で,これが昔からの魚拓である。魚の上に和紙や絹の布地をのせ,顔料,版画用の絵具を大小のたんぽを使ってたたき,その魚の色,模様を正確に写していくのが間接法で,色彩魚拓ともいう。直接法は魚の顔を左に向ければ,魚拓紙のでき上がりは右に向くが,間接法はそのまま仕上がるから,最初に向きを決めておく。また魚拓をとる前の魚の処置は,塩をふり指か手のひらで頭から尾びれに向け静かになでるようにして魚体の粘液をとる。鮮度のいい魚ほど魚拓の仕上がりも美しい。魚拓をとり終えたら最後に目を細筆で描く。山形県酒田市の本間美術館には,1862年(文久2)の紅鯛(タイ),63年の剛鯛(クロダイ)の直接法による魚拓があり,もっとも古い記録となっている。
執筆者:松田 年雄
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