デジタル大辞泉 「が」の意味・読み・例文・類語

が[格助・接助・終助]

[格助]名詞または名詞に準じる語に付く。
動作・存在・状況の主体を表す。「山ある」「水きれいだ」「風吹く」
兼行かねゆき―書ける扉」〈徒然・二五〉
希望・好悪・能力などの対象を示す。「水飲みたい」「紅茶好きだ」「中国語話せる」
「さかづき―たべたいと申して参られてござる」〈虎明狂・老武者〉
(下の名詞を修飾し)所有・所属・分量・同格・類似などの関係を示す。
㋐所有。…の持つ。「われら母校」
「君―名もわ―名もたてじ難波なるみつとも言ふなあひきとも言はず」〈古今・恋三〉
㋑所属。…のうちの。
かみ(=上級)―上はうちおきはべりぬ」〈・帚木〉
㋒分量。
「この二三年―うちの事なるべし」〈今昔・二七・三七〉
㋓同格。…という。
「明日―日、まなこをふさぐとも」〈浄・宵庚申
㋔類似。…のような。
象潟きさかたや雨に西施せいし―ねぶの花/芭蕉」〈奥の細道
(準体助詞的に用いて)下の名詞を表現せず、「…のもの」「…のこと」の意を表す。
「この歌はある人のいはく、大伴のくろぬし―なり」〈古今・雑上・左注〉
形容詞に「さ」の付いたものを下に伴って、それとともに感動を表す。…が…(であることよ)。
塵泥ちりひぢの数にもあらぬ我ゆゑに思ひわぶらむいも―かなしさ」〈・三七二七〉
連体句どうしを結んで、その上下の句が同格であることを表す。…(なもの)であって…(なもの)。
「いとやむごとなききはにはあらぬ―、すぐれて時めきたまふありけり」〈・桐壺〉
(「からに」「ごとし」「まにまに」「むた」「やうなり」などの上に置かれ)その内容を示す。
「吹く風の見えぬ―ごとく跡もなき世の人にして」〈・三六二五〉
[補説]2は、中古末期に生じた。対象語とよぶ説や連用修飾語とする説もある。3は、現代語では、文語的表現や、「それがために」などの慣用的表現に使われる。なお、古語で、人名や人を表す体言に付く場合、「の」に比して、「が」は親しみを込めたり卑しんだりする意を表すといわれる。5は、上代に限られ、連体格助詞から主格助詞への過渡的用法とみられる。6は、連体格または体言相当句中の主格を示すものとみる説もある。
[接助]4の用法から発達して中古末期に確立した》活用語の終止形(古語では連体形)に付く。
単に前の句をあとの句へつなぐ意を表す。「すみません、しばらくお待ちください」
「御むすめのはらに女君二人男君一人おはせし―、この君たちみな大人び給ひて」〈大鏡・道隆〉
相反する句をつなげる。けれども。「昼は暖かい、夜はまだまだ寒い」「走りつづけた、間に合わなかった」
「昔より多くの白拍子しらびゃうしありし―、かかる舞はいまだ見ず」〈平家・一〉
(推量の助動詞に付いて)それに拘束されない意を表す。「行こう行くまい、君の勝手だ」
[終助]
言いさしの形で用いる。
㋐ある事柄の実現することを願う意を表す。「この風がやめばいい
㋑はっきり言うのをためらう意を表す。「こちらのほうがよろしいと思います
「なるほどさう聞きや、おまへのがほんまにもっともらしい―」〈滑・浮世風呂・二〉
㋒不審の意を表す。「おかしいな、八時に集合のはずだ
(多く体言や体言の下にののしる意の接尾語「め」を伴ったものに付いて)ののしりの感情を強める。「このあほうめ」「あいつめ
かたきの回し者め―」〈伎・幼稚子敵討
(助詞「も」に付き、多くは下に感動の助詞「な」「も」などを伴って)感動を込め、実現できそうもない願望を表す。…があったらなあ。…であってほしいなあ。→もがもがな
「あしひきの山はなくも―月見れば同じき里を心へだてつ」〈・四〇七六〉
[補説]1接続助詞「が」でとめ、下を省略した形から生じた用法。3は「てしか」(てしが)「にしか」(にしが)の「か」「が」と関係づける説もある。

が[接]

[接]《接続助詞「が」から》前に述べた事柄と相反する内容を述べるのに用いる語。だが。けれども。「早朝だった。、多くの人が集まっていた」
[類語]けれどもだがところがしかしけれどそれでもでもしかしながら然るにだけどだってされど然れどももっともさりとてそれなのにそのくせ言い条かと言ってとは言えとは言うもののにもかかわらず

が[五十音]

」の濁音。軟口蓋の有声破裂子音[ɡ]と母音[a]とから成る音節。[ɡa]ただし、現代共通語においては、一般に語頭以外では鼻音の頭音をもつ[ŋa]となる(これを鼻濁音の「が」ともいう)。
[補説]歴史的仮名遣いの合拗音「ぐゎ」は現代仮名遣いでは「が」と書く。「ぐゎか(画家)」は「がか」、「ぐゎいこく(外国)」は「がいこく」など。

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精選版 日本国語大辞典 「が」の意味・読み・例文・類語

  1. [ 1 ] 〘 格助詞 〙 体言または体言と同資格の語句を受ける。
    1. [ 一 ] 連体格用法。受ける体言が、下の体言に対して修飾限定の関係に立つことを示す。現代語では「の」が用いられる。→語誌( 1 )
        1. (イ) 下の実質名詞を、所有、所属その他種々の関係において限定、修飾する。
          1. [初出の実例]「さ婚(よば)ひに 在立たし 婚ひに 在通はせ 太刀(ガ)緒も いまだ解かずて」(出典:古事記(712)上・歌謡)
          2. 「妹(ガ)(へ)に雪かも降ると見るまでにここだも乱(まが)ふ梅の花かも」(出典:万葉集(8C後)五・八四四)
        2. (ロ) 下の実質名詞を省略したもの。→語誌( 2 )
          1. [初出の実例]「五節のあしたに、かんざしのたまの落ちたりけるをみて、誰ならんととぶらひてよめる」(出典:古今和歌集(905‐914)雑上・八七三・詞書)
        3. (ハ) 数詞を受け、下にくるべき「もの」「ところ」等の名詞を省略したもの。「…に相当するもの」の意を表わす。(イ)の中の、数詞を受ける用法が特殊化したもので、近世の用法。→がもの
          1. [初出の実例]「朋友の病気久しい事、だまっても居られず、ひきの屋へ小豆餠百取にやり」(出典:咄本・譚嚢(1777)小豆餠)
      1. 下の形式名詞(「から、ごと、むた、まにま、ため」等)の実質、内容を示す。
        1. [初出の実例]「ふるさとは遠くもあらず一重山越ゆる(ガ)からに念ひそ吾がせし」(出典:万葉集(8C後)六・一〇三八)
        2. 「御足跡(みあと)作る 石の響きは 天に到り 地さへ揺すれ 父母(ガ)為に 諸人の為に」(出典:仏足石歌(753頃))
    2. [ 二 ] 「形容詞+さ」の形に続き、感動を表わす。「さ」は体言を作る接尾語であるから、この用法は、形式的には[ 一 ]の連体格用法といえるが、意味的には「…が…であることよ」と下の形容詞に叙述性が認められるので、[ 三 ]の主格用法と同じである。[ 一 ]の用法から[ 三 ]の用法への過渡的用法と見られる。→語誌( 3 )
      1. [初出の実例]「夕月夜(ゆふづくよ)影立ち寄り合ひ天の河漕ぐ舟人を見る(ガ)(とも)しさ」(出典:万葉集(8C後)一五・三六五八)
    3. [ 三 ] 連用格用法。受ける体言が、下の用言に対して修飾限定の関係に立つことを示す。
      1. 主格用法。→語誌( 4 )
        1. (イ) 従属句、条件句の主語を示す。→語誌( 5 )
          1. [初出の実例]「青山に 日(ガ)隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ」(出典:古事記(712)上・歌謡)
        2. (ロ) 連体形で終止し、余情表現となる文の主語を示す。
          1. [初出の実例]「如何にある布勢の浦ぞもここだくに君(ガ)見せむと我を留むる」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇三六)
          2. 「雀の子をいぬき逃しつる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
        3. (ハ) 言い切り文の主語を示す。院政時代から現われ始める。→語誌( 6 )
          1. [初出の実例]「年十三四許(ばかり)有る若き女の、薄色の衣一重・濃き袴着たる、扇を指隠して、片手に高坏(たかつき)を取て出来たり」(出典:今昔物語集(1120頃か)二二)
      2. 対象格用法。希望、能力、好悪などの対象を示す。
        1. [初出の実例]「其極て見ま欲く思給へ候しかば」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)
  2. [ 2 ] 〘 接続助詞 〙 ( 格助詞の[ 三 ]の主格用法から転じたもの ) 活用語の連体形を受け、上の文と下の文とを種々の関係において接続する。院政期から多く現われる。→語誌( 5 )
    1. (イ) 因果関係のない、単なる接続を示す。
      1. [初出の実例]「三井寺の智証大師は若くして唐に渡て、此の阿闍梨を師として真言習て御(おはし)ける、其も共に新羅に渡て御けれども」(出典:今昔物語集(1120頃か)一四)
    2. (ロ) 逆接の関係において接続する。…けれども。…のに。
      1. [初出の実例]「朱雀院は、母后の御すすめによって、御弟、天暦の御門にゆづり奉られし、御後悔あって」(出典:保元物語(1220頃か)下)
    3. (ハ) ( 推量の意をもつ助動詞「う」「よう」「まい」を受けて ) 事柄を列挙して、そのいずれにも拘束されない意を表わす。推量の意味をもつ語を受けるため、仮定の逆接条件文となる。近世以後の用法。
      1. [初出の実例]「上つ方の御奉公する女中衆を見さっしゃい。羽二重だらう絹だらう皆短くあそばすネ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三)
  3. [ 3 ] 〘 終助詞 〙
    1. ( 文末にあって、常に助詞「も」を受けて ) 実現できそうもないことを望む意を表わす。この下にさらに感動を表わす助詞「も」「な」の付くことが多い。→語誌( 7 )( 8 )
      1. [初出の実例]「我が命も 長くも(ガ)と 言ひし工匠(たくみ)はや」(出典:日本書紀(720)雄略一二年一〇月・歌謡)
      2. 「心あらん友もなと、都恋しう覚ゆれ」(出典:徒然草(1331頃)一三七)
    2. 文末にあって感動を表現する。
      1. (イ) ( [ 二 ](ロ)の用法の、逆接関係で続くべき下の文を省略したところから生じた用法 ) 感動を表わす。
        1. [初出の実例]「ココニワ ダイナゴンドノコソ ゴザッタモノヲ、コノ ツマドヲバ カウコソ idesaxeraretaga (イデサセラレタ)、アノ キヲバ ミヅカラコソ vyesaxeraretaga (ウエサセラレタ)、ナドト ユウテ」(出典:天草本平家(1592)一)
      2. (ロ) 名詞または名詞にののしる意の接尾語「め」の付いたものを受けて、感動を表わす。ののしりの気持が強められる。
        1. [初出の実例]「エエ無念な。阿呆どもめ」(出典:歌舞伎・百夜小町(1684)一)

がの語誌

( [ 一 ]に関して ) ( 1 )格助詞としての用法[ 一 ]は、ほとんどすべて「の」助詞の用法と相重なるが、両助詞の機能的な差異から、自然とその使用環境は微妙な差異を示す。すなわち[ 一 ]の連体格用法で、第一に、人を表わす体言を受ける場合、待遇表現上の区別が認められる。「が」助詞が用いられた場合には、「万葉‐三八四三」の「いづくそ真朱(まそほ)掘る岳こもたたみ平群(へぐり)の朝臣(あそ)(ガ)鼻の上をほれ」、「万葉‐八九二」の「しもと取る 里長(さとをさ)(ガ)声は 寝屋戸まで 来立ち呼ばひぬ」、「平家‐三」の「少将の形見にはよるの衾、康頼入道が形見には一部の法花経をぞとどめける」の例のように、その人物に対する親愛、軽侮、憎悪、卑下等の感情を伴い、「の」助詞が用いられた場合には敬意あるいは心理的距離が感じられる。第二に、受ける語の種類が「の」助詞より狭く、従ってその関係構成も狭い。ただし「が」助詞には、[ 一 ][ 二 ][ 三 ]を通じて「の」助詞の受け得ない活用語の連体形を受ける用法がある。ここに、「が」助詞が接続助詞にまで発展する可能性を秘めている。
( 2 )連体格用法のうち、(ロ) のような用法を準体助詞とする説もある。
( 3 )[ 二 ]の用法を山田文法では「喚体句」と称する。
( 4 )日本語には本来主格を示す助詞はなく、「が」助詞の主格用法([ 三 ])も[ 一 ]の連体格用法から出たものと考えられる。従って古くは述語が終止形をとることはなく、(イ)または(ロ) のような用法に限られていたが、次第にその制約を脱して(ハ) が現われ、現在に至っている。
( 5 )主格用法の(イ)の場合、上代には体言を受けるもののみであったが、中古以後活用語の連体形を受ける例が現われる。これは接続助詞への発展の直接的契機である。
( 6 )院政時代の例は活用語の連体形を受けるもののみで、まだ自由な用法になり切っていないが、中世末には体言をも受けるに至り、何ら制約のない主格助詞として完成し、現在に至る。( [ 三 ]に関して )
( 7 )「が」の受ける語が、あってほしいもの、そうあってほしい状態を表わす語であるところから考えると、「万葉‐一〇五九」の「在り杲(がほ)し 住みよき里の 荒るらく惜しも」や「万葉‐三九八五」の「たくましげ 二上山は〈略〉神柄や そこば貴き 山柄や 見我(ガ)ほしからむ」等の「がほし」と関係がありそうである。また、疑問感動の係助詞「か」が、「も」助詞と重なったために連濁を起こしたもので、「てしか」「にしか」とも関係がある、とする説もある。
( 8 )「が」単独の例よりも、下に「も」「な」を伴った形で用いられることのほうが多いので、「がも」「がな」を一つの助詞として扱うことが多い。「がな」の形は中古以後のものである。


  1. 〘 接続詞 〙 ( 接続助詞「が」から転じたもの ) 先行の事柄に対し、後行の事柄が反対、対立の関係にあることを示す。逆接。だが。けれども。しかし。
    1. [初出の実例]「あさひなと聞いたならば責まい物を。が、朝ひなと聞て責ねば地ごくの名をれじゃ」(出典:虎寛本狂言・朝比奈(室町末‐近世初))

が【が・ガ】

  1. ( 「か」の濁音 ) ⇒か(か・カ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「が」の意味・わかりやすい解説


が / 蛾
moth

昆虫綱鱗翅(りんし)目Heteroceraの昆虫の一群。この昆虫は完全変態をし、卵、幼虫、蛹(さなぎ)を経て成虫となる。分類学上、チョウとともに鱗翅類(目)を構成するが、この類をチョウとガに2大別することは、どちらかといえば日本の慣習的な仕分けで、明確な系統分類に従ったものではない。したがって、近年の分類学ではこのような分類は行われていない。

[井上 寛]

ガとチョウの区別

チョウは昼間活動し、ガは夜行性のものが多いが、ガのなかにはチョウと同じように日中活発に飛ぶ種が少なくない。チョウは静止するときはねを畳み、ガははねを開いたまま静止するのが普通であるが、ガのなかには、チョウと同じようにはねを背面に畳んで休む種がある。ガは胴が太いものが多いが、チョウのように細くスマートな種が少なくない。また、チョウの触角は、棍棒(こんぼう)状で先端部で膨らむが、ガの触角は羽毛状、櫛歯(くしば)状、微毛状、鞭(むち)状などいろいろ変化があり、一部のグループではチョウと同様に棍棒状である。

 チョウとガを強いて区別すると、次のようになる。チョウやガが飛ぶときに、前翅と後翅を連動させるための仕組みをみると、次の4通りの方法がある。(1)フィブラ型 前翅後縁基部に角張った突出部があり、はねの裏面に折り重なっていて、これをフィブラfibulaという。このフィブラに、後翅前縁基部に列生する刺毛がひっかかって連結する。もっとも原始的なコバネガ科はこの型である。(2)翅垂型 前翅後縁の基部から細長い突起(翅垂)が後翅の下に出て、これと前翅の基部によって後翅を挟む。かなり原始的なコウモリガ科の連結方法である。(3)翅刺型 後翅の基部前縁から翅刺とよばれる棘(とげ)が出ていて、前翅裏面の基部近く前縁部にある小さな帯状の突起(保帯)に挟み込んで連動させる。大部分のガは、この連結方法で前後翅を同時に羽ばたくことができる。翅刺は一般に雄では1本であるが、雌では数本に分かれていることが多い。保帯は、一部のグループでは、特殊な鱗粉の列によって代用されている。(4)抱え込み型 後翅の前縁基部が広がって、肩角部が強化され、前翅後縁の硬化部に押し付けることによって、前後翅を連動させるタイプで、チョウの全部とガのごく一部(ヤママユガ科、カレハガ科)がこの型に属する。したがって、チョウとガをはっきり区別するには、触角が棍棒状で翅刺がなければチョウ、同じような触角でも翅刺があればガ、触角が棍棒状でなければすべてガ、ということになる。

[井上 寛]

種の数

鱗翅目は、すでに学名のつけられた種が30万くらいと考えられるが、そのうちチョウは約1万5000種で、残りはガである。日本にはチョウが約150種土着しているが、ガは4800種ほど知られている。チョウのほうは研究調査が行き届いているので、今後、未発見種のみつかる可能性はほとんどないが、ガは種の数が多いうえに、はねの開張が1~2ミリメートルという微小種がたくさんいて、十分に研究されていないグループが多いので、将来、未発見種が多数学界に登録され、最終的には6000種を超えるものと考えられる。一地域に生息しているガの種数は、チョウの20倍から30倍あるのが普通である。

 鱗翅目は、80くらいの科に分類されるが、そのうちの8科くらい(学者によっては5科)がチョウで、70科以上がガに属する。

[井上 寛]

昼飛性のガ

大部分は夜間に蜜(みつ)や配偶者を求めたり、産卵場所を探して活動するが、ヒゲナガガ、スカシバガ、ハマキモドキガ、マダラガ、セセリモドキガ、トラガの各科には昼飛性の種が多く、そのほかハマキガ、シャクガ、ヤガの各科のごく一部の種は日中活動する。夜行性のガは、色彩や斑紋(はんもん)のじみなものが多いのに対し、昼飛性のガのなかには、はでな色調の種が多い。イカリモンガ科の日本産2種などは、その色彩といい、飛び方といい、まったくチョウと区別がつかないほどよく似ている。

[井上 寛]

害虫

幼虫の大部分はイモムシあるいは毛虫とよばれ、おもに植物に依存しているため、農作物、果樹、庭園樹などの害虫とされている種が非常に多い。イネの大害虫としては、ニカメイガイッテンオオメイガ。トウモロコシやキビにつくアワノメイガアワヨトウ。ダイズ、エンドウなどの莢(さや)内にすんで食害するシロイチモンジマダラメイガ。ダイコン、ハクサイなど蔬菜(そさい)の葉や茎を食べるハイマダラメイガ、コナガ、カブラヤガなど。果樹の葉を食べるイラガ、ウメスカシクロバ、カクモンハマキ。リンゴ、モモなどの果実を食べるモモヒメシンクイ。果皮の柔らかいモモやブドウに成虫が穴をあけて果汁を吸うヒメアケビコノハ。森林害虫としては、マイマイガマツカレハツガカレハ、マツマダラメイガなど多数あり、樹幹にトンネルを掘って食害するコウモリガやボクトウガは、果樹や庭木にも被害がある。庭木や街路樹には、アメリカシロヒトリモンシロドクガオビカレハなど多くの種がみられる。

 幼虫が毒針毛をもつため、これが皮膚に刺さると炎症をおこすものとしては、タケノホソクロバ、マツカレハ、ツガカレハ、クヌギカレハ、ヤネホソバなどホソバ類、ドクガ、チャドクガなどがある。ことにドクガ類の場合は、蛹化(ようか)の際に繭に毒針毛がつけられ、羽化した成虫(とくに雌)の体にも多数の毒針毛が付着しているので、衛生害虫として注目される。イラガ科の幼虫は、肉質突起上に毒針があって、触れると激痛を覚える。乾燥食品や貯蔵穀物につく幼虫は、家屋や倉庫内にすんで食い荒らし、人家内の生活によく適応している。バクガ、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ、カシノシマメイガなどがとくに重要である。毛皮、毛織物、羽毛などを食べるイガやコイガは、春から秋まで使用しない羊毛のセーターなどに食い穴をあけてしまう。多くのガは、夜間、電灯に誘引されて人家内に飛び込んでくるので、郊外の樹木の多い地域では、ドクガのように毒針毛をもっていなくても、ガの侵入によって迷惑するし、食事中に飛び回って鱗粉が落ちたりすると、不潔感がする。ことに山間地の温泉宿やドライブインなどでは、屋外に誘蛾灯をつけたり、窓に網戸をつけて、ガの侵入を防止しなければならない。

[井上 寛]

有益虫

繭から絹糸をとるために、積極的に飼育している有益なガは、カイコを筆頭として、ヤママユ、テグスサンなどをあげることができる。オオミノガの蓑(みの)をつなぎ合わせて紙入れなどをつくるのも、利用法の一つである。カイコが繭をつくったあとの蛹は、養魚の飼料の材料として利用するが、長野県などでは佃煮(つくだに)に加工し、総菜として市販されている。淡水魚の釣り餌(え)としては、ブドウスカシバの幼虫(ブドウの虫)、ウスジロキノメイガの幼虫(イタドリの虫)などが釣り具店で売られている。オーストラリアでは、夏眠のため、無数の成虫が山頂に集まって岩陰などに静止しているボゴングヤガを、原住民が食料としているという。世界を広く見渡せば、ガの幼虫、蛹、成虫が、人間に利用されている例は、まだいろいろあるかもしれない。

[井上 寛]

生態系における役割

多くのガの成虫は、花蜜を活動のエネルギーとして吸うので、ほかの訪花昆虫と同じように、花粉媒介によって、植物の結実に重要な役割を果たしている。ことに、早春に開花するウメなどは、まだあまり昆虫の発生していない季節なので、林の中で成虫越冬しているヤガ科のキリガ類による花粉媒介に大いに依存している。

 おびただしい数のガは、幼虫・成虫ともに、食虫性の鳥、哺乳(ほにゅう)類、カエル、トカゲなどの重要な餌(えさ)となっている。捕食性のクモ、ジガバチ、ムシヒキアブ、スズメバチ、サシガメなどもガを食べる。コウモリは夕方から夜にかけて活動するので、夜行性のガはかっこうの攻撃目標となっている。ガの胸部あるいは腹部に開口している鼓膜器官(耳)は、主としてコウモリの発する声をキャッチするために発達したものだといわれている。河川や湖で、水面に誤って落ちるガは、淡水魚にとって重要な餌(じ)料ともなっている。

 樹木の葉を食べるガの幼虫も、大発生して木を枯死させたり衰弱させない限り、むしろ木にとって好ましい存在なはずである。木の葉が茂りすぎれば、日当りと通風が悪くなって植物に病気をおこさせるが、ガの幼虫によって一部の葉が食べられれば、このような不都合を防ぎ、樹木にとっても好ましい状態を保つことができるからである。

[井上 寛]

生物学研究材料

古くから養蚕は重要な産業なので、その生理や遺伝の研究が盛んに行われてきた。昆虫の性誘引物質(性フェロモン)の研究のきっかけは、カイコの雌から抽出したことによる。大形のヤママユを使っての成長と分化ホルモンについての研究も、大きな成果をあげている。擬態と保護色の研究にもガの成虫や幼虫がよく取り上げられる。スズメガの一部の幼虫や、スズメガ、ヤママユガなどの成虫のもっている眼状紋が、捕食性の鳥に対して逃亡反応を誘発させる問題などは、生態学に役だっている。

 急速に工業化の進んだイギリスやヨーロッパの一部で、オオシモフリエダシャクの黒化型が増加し、正常型が減少した現象は、昔は正常型が樹皮とそっくりの保護色をしていたのに、煤煙(ばいえん)によって汚れた樹皮に静止した場合、捕食者にみつけられて食べられる頻度が高まり、黒化型のほうが逆に生き残るようになってしまった。このような環境適応の変化によって、一部のガの黒化型あるいは暗化型の急増したことは、生物進化の一断面をわれわれに実例をもって示してくれたのである。工業黒化現象(工業暗化現象)は、生物進化を語るとき、除外することのできないテーマとなっている。

[井上 寛]

民俗

夜、あかりを慕って飛んできたガが火の中で焼け死ぬわけを説明する昔話がある。ガは継子(ままこ)で、継母にいじめられている。夜になると、継母が行灯(あんどん)の火をとってこいと命令する。ガはしかたなく火をとりに行き、そのまま火に飛び込んで死んでしまうという。類話は、東京都の八丈島や香川県に知られている。またグリム兄弟の弟ウィルヘルムは、1822年ケンペルの『日本誌』から、ガの昔話を紹介している。ガはたいへん美しく、虫たちがほれ込むが、火をとってきたら愛してあげようと虫たちを遠ざける。それで、虫たちは、ろうそくの火に向かっては飛んで行き、体を焼かれるのであるという。

[小島瓔

『江崎悌三他著『原色日本蛾類図鑑』上下(1957・保育社)』『井上寛他著『原色昆虫大図鑑Ⅰ 蝶蛾篇』(1959・北隆館)』『一色周知他著『原色日本蛾類幼虫図鑑』上下(1969・保育社)』『井上寛他著『日本産蛾類大図鑑』全2巻(1982・講談社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「が」の意味・わかりやすい解説

ガ(蛾)

鱗翅類」のページをご覧ください。

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