ボラの卵巣の塩乾品。中国では〈子〉などと書き,古くから作られていたようである。干し上げた形が唐墨に似ているためこの名がある。ボラの腹からとり出した卵巣を水洗いし,食塩をすりこんで樽につめ,5日ほどすると卵がしまってくる。これを淡水中で軽くもんで軟らかくしながら塩抜きをし,水を切って板に並べて干す。夜は屋内にとりこみ,軽い押しをかけて成形する。これを7~10日繰り返して仕上げる。あめ色をしており,薄く切って酒のさかななどにする。サワラの卵巣でも作られるが,これは色が黒ずんでやや渋みがありボラのものに劣ると,《本朝食鑑》はいっている。《祇園会御見物御成記》(1522)などを見ると,将軍御成の饗膳の献立には必ずといってよいほど供されている。《本草綱目啓蒙》(1803)は,伊勢,土佐に産し,茶人は肥前野母(のも)の産を貴ぶといっているが,この野母(現,長崎県西彼杵郡野母崎町)のからすみは越前のウニ,三河のこのわたとともに天下の三珍とうたわれたものである。ところで,ヨーロッパにもからすみに近いものがある。南フランスのプロバンスあたりで珍重されるブータルグboutargueがそれで,ボラの卵巣を塩漬にして圧搾し,日干しにしたり薫製にしたりする。アラビア語で〈魚の子〉の意味のバトラフbaṭrakhを語源とするというが,日本のからすみと同源かどうか興味のあるところである。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…2日ほどでペースト状になり,さらに置くと固まって半透明になる。これを薄切りにすると〈からすみ〉に似ており,突出しに用いると好適である。【橋本 寿子】。…
…スズキ目ボラ科の汽水魚(イラスト)。浸透圧調節の能力がすぐれており,川と海を自由に往き来できる。主として河口から塩分の低い内湾に生活するが,成熟が近づくと外洋に出て産卵場へ向かう。出世魚の一つで,稚魚から成魚まで段階別に各地でいろいろな名で呼ばれる。代表的なものはハク,ゲンプク,キララゴ(全長2~3cm),オボコ,オボッコ,イナッコ,スバシリ(3~18cm),イナ(18~30cm),ボラ(30cm以上)で,とくに大きくなったものをトド(〈とどのつまり〉の語源)という。…
※「鱲子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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