日本大百科全書(ニッポニカ) 「さかな」の意味・わかりやすい解説
さかな
酒を飲むときに供される魚、肉、野菜、果物、菓子などの食物の総称。肴、魚の字をあてる。「さか」は酒、「な」は「魚菜」の意で副食物の総称とされるが、近世以降には魚類の総称として用いられるようになった。酒の種類によって、肴もそれに適するものを用いる。肴は酒の味を増すための存在であると同時に、酒によって肴の味が一段とよくなるということもある。たとえば、カツオの塩辛である酒盗(しゅとう)の名称は、酒は塩辛の美味を盗(と)り、塩辛は酒の味を盗って、どちらも味がよくなる意である。肴ということばの意義は、酒の添え物の意であるという。古いことばで魚鳥を真名(まな)といい、野菜類を蔬菜(そな)というが、肴は古くは広義に使われていて、酒席に接する女性、歌、演芸、土産(みやげ)物に供する衣装、器具なども肴と解することがある。ここでは、酒とともに用いる食品、料理に限定し、それも日本酒とその肴に限定する。
平安朝以来、今日に至る約1200年の間に、酒とともに肴も著しい変化をみせている。平安朝のころは醤(ひしお)、塩辛類など塩辛い肴が多く、承久(じょうきゅう)の乱(1221)以後になると、武家の肴には据え方に一つの型ができている。銘々膳(めいめいぜん)の上に右向こうに打ちあわび、左向こうに梅干し、右前にクラゲ、それと並んで酢と塩の小皿を置く。室町の東山時代には料理道の躍進に伴い、酒の肴は著しく種類が多くなった。魚貝類など動物性のものと並んで、植物性の材料、たとえばクリ、ササゲ、ダイコン、豆腐などが多く取り入れられている。また、そのころから挟肴(はさみざかな)(食品を材料として花の形などをつくる)、強肴(しいざかな)(三献で出す料理)、添肴(そえざかな)(雑煮(ぞうに)などの場合の酒の肴)などがつくられている。江戸時代になると、多くの魚貝類、甲殻類などで刺身、酢の物、焼き物など酒の肴に向く料理が研究され、かなり優れたものができている。これは、寛永(かんえい)20年(1643)版の『料理物語』に明記してある調理法をみると推知できる。江戸後期になり、関西から酒の輸送が開始されると酒徒の好みも一段と高まり、宴席の内容の向上と回数の増加に伴い、酒の肴にも清新なものができてきた。明治以降は、料理の構成が本膳(ほんぜん)のように長時間を要するものから、2~3時間で終結するものに移行した。まず順序として、先付(さきづ)け、突き出し、お通(とお)しなどの名称で酒の肴を出し、続いて出てくる刺身、焼き物をはじめ口替(くちがわ)りと称する料理も、概して酒の肴に向くものが選ばれている。広義に解するならば、日本料理のすべては日本酒の肴であるとみてもよい。なお、前菜も肴であるが、元来は中国語であって、昭和の初めから日本料理にもこのことばが使われるようになった。欧米ではオードブルなどがこの肴にあたると考えられる。
[宇田敏彦・多田鉄之助]