アイルランドの詩人、劇作家イェーツの一幕物詩劇。1916年初演。アルスター伝説の英雄クーフリンは不死の水を飲むため山中の涸(か)れ泉にくるが、見張りの女(実は土地の霊である鷹の化身)の踊りに誘い出されて、水の湧(わ)き出る瞬間を逃し、自己の運命を知って、攻め寄せる女軍と戦う。ほかに、50年間待ち続けて、なお水を飲むことのできない老人が登場する。イェーツが日本の能の英訳に着想を得て書いた、象徴主義的な劇の一つ。裸の舞台、3人の楽師兼口上役、登場人物の仮面、劇中の踊りなど、作劇技法に能の様式の影響がみられる。ロンドン初演の際には、舞踊家伊藤道郎(みちお)が鷹の化身を演じた。日本の新作能『鷹の泉』(喜多(きた)流)、『鷹姫』(観世(かんぜ)流)は、この劇を逆輸入翻案したもの。
[高松雄一]
『高橋康也訳『鷹の井戸』(『世界文学大系71 イェイツ・エリオット・オーデン』所収・1975・筑摩書房)』▽『風呂本武敏訳『鷹の泉』(『イェイツ戯曲集』所収・1980・山口書店)』
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…《緑の兜》(1910)から《クールの白鳥》(1917)にいたる詩集は,愛,老年,死,詩の個人的主題を社会的・神話的主題と自在にからませて個性的な声調でうたう現代詩人の出現を示している。劇作家としても,秘書役のエズラ・パウンドが入手したフェノロサ訳の《能》に触発されて,《鷹の井戸》(1916初演)など4編の舞踊劇を連作,新たな展開を見せた。詩,音楽,舞踊が一体化した象徴的演劇への長年の夢が東洋古典劇のなかにみごとに実現されているのを知ったイェーツの驚きと喜びは大きかった(《鷹の井戸》は日本で新作能《鷹姫》として翻案・上演されている)。…
※「鷹の井戸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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