動作の表現としては、当初、挙例の「枕草子」に見えるイビキスルなどの形があったが、現在一般的なイビキカクは中世以降に見られるようになる。
睡眠時に呼吸運動に伴って上気道で発生する異常な音響をさす。通常の場合,口を開いて鼻と口の両方から呼吸をしているときに起こり,呼吸運動の異常によるのではなく,気道の異常により正常な呼吸運動に伴って発生するやかましい雑音である。これは,口蓋筋の緊張低下と口腔を経路とする呼吸運動との組合せによって起こる。睡眠時には,咬筋やその他の筋肉の弛緩によって下顎が下がり,口は多少とも開き,同時に舌は後下方へ移動するために空気の通路は狭くなる。さらに,口が大きく開いて鼻孔からよりも口を通過する空気の量が多くなると,軟口蓋と口蓋垂,とくに口蓋咽頭弓が振動して咽頭後壁,舌根部に接触するためにいびきが発生する。しかし,口を閉じていてもあおむけに寝ている場合,頭の位置の関係で咽頭腔の形が変化して軟口蓋と口蓋垂が振動しやすい状態にあれば,やはりいびきが起こる。口蓋咽頭弓の幅が広いときや口蓋垂が長く,大きい場合に起きやすい。また,咽頭腔の狭くなる場合など,空気の出入に抵抗のあるとき,たとえば鼻ポリープ,鼻孔壁の充血,口蓋扁桃肥大,アデノイド増殖,腫瘍,炎症などがあるとき,また肥満型の人に起きやすい。さらに老齢,飲酒,脳出血による麻痺,昏睡などのために軟口蓋が弛緩した場合などにも起きる。鼻からの呼吸が障害されて口からの呼吸が加わっている場合にとくに激しい。治療には,原因療法が可能な場合にはそれぞれ鼻,咽頭,口腔部の病的状態を除く。あまりいびきがひどいときは治療が必要となるが,一般的な療法としては口蓋咽頭弓と口蓋垂を切除する手術が行われる。臨床的に異常状態のない場合には種々の治療法が試みられるが,全治困難なこともある。
執筆者:福原 武彦
《三国志演義》によれば燕人張飛は目を開いたまま眠る習慣があったが,いびきをかいていたため睡眠中と知られて2人の部下に首を切られた。一方,大プリニウスによれば紅海のウミガメは浜で眠るとき,そのいびきによって人に発見されて捕まるという(《博物誌》9巻)。いずれもいびきのために命を落とした例である。徳川光圀も目を開いたまま眠ったというが,比喩的にはいたずらに生きるのを〈目ざめたままいびきをかき夢みることを止めない〉(ルクレティウス《物の本質について》3巻)という。いびきをかくことはこのように眠ると同義にしばしば用いられるから,旧約聖書《箴言》10章5節の〈収穫(かりいれ)の時に眠る者は恥をきたす子なり〉というくだりの〈眠る〉を,ヒエロニムス訳の《ウルガタ》では〈いびきをかくstertere〉とラテン語訳していてもまちがいとはいえない。C.T.ルイスはギリシア語darthanein(眠る)とラテン語stertereを同源としている。
いびきのギリシア語はrhonchosで,喘鳴(ぜんめい)と同義である。喘息などで苦しく呼吸することといびきとが混同されそうだが,いびきの原因を考えればあながち誤りとはいえない。気道の一部が狭くなることにより発生する点では喘息と似ているからである。いびきに正常と異常の境界はつけにくいが,脳卒中発作の際のいびきは特徴的である。ケルススにはこれを思わせる記載がある。《医術について》2巻にいう。〈これまで健康であった人に突然頭痛が起こり,続いて眠りに襲われていびきをかき,覚醒できないならば7日のうちに死亡する〉。クモ膜下出血のような症例を記述したものといえようか。
執筆者:池澤 康郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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